心は弾み笑顔があふれる奇跡の一杯。比内地鶏親子丼「きすけ」様
東京都港区赤坂、東京メトロ溜池山王駅からほど近いビルに店を構える比内地鶏親子丼の店「きすけ」様。
秋田県出身の初代店主・加藤様は「おいしさは味だけでなく、人も大切」と、お国言葉を交えて穏やかに語ります。初代店主の姪の旦那様である二代目店主・古沢様とのお話からも感じられる、居心地の良いあたたかな雰囲気のお店づくりと、絶品親子丼のとろけるおいしさの秘訣を教えて頂きました。
お店のこと
-お店を始められたきっかけやエピソード、背景などをお教えください。
〔初代・加藤様〕若い時は会社勤めをしていたんですよ。自分で商売したいと思って中華なら私も商売やっていけるんじゃないかって。それがきっかけだった。3年間修業して、25歳で自分の店を持ってね。おかげさまで結構味よくてね。私みたいな半分素人が怖いもの知らずでやっちゃうのがいいんじゃないかな。あんまり長く修行しちゃうとカチカチに固執しちゃうんだよな。職人さんになったら融通きかないでしょう。10年も何年も修行すると、それからもう抜けられないんだよね。私なんかすぐ変えちゃうから。素人がいいの。だから、何でもチャレンジする。
親子丼をやったのは、私はもともと中華だけれども、中華は歳取ると重労働だからね。何しようかなって。女房と二人でやるような店をやろうと思って、ずっと考えてた。
この場所を選んだのは、知人の奥さんがここで店をやっててね。この街は、感じが良いんだよね。お客さんも歩いてる人も。
-お店を続ける上で大事にしていることはどのようなことでしょうか。
〔初代〕肩に力を入れない。力を入れるなら、お客さんのところにね。
ありがとう、とか、声をかけてあげること。私はお客さんによって、声をかけて困るような人はわかるんだよ。お客さんによって接客を変えるみたいな感じで、どういう話がいいか。お客さんは人を見てるわけで、せっかくおいしくても、店員さんの感じがちょっと悪かったら、もう行きたくなくなるから。
親子丼を作りながら、普段はお客さんと話はあまりしないけれど、暇なときは喋るね。「あーおいしそう」ってお客さんがいるじゃん。「おいしそう」じゃなくて「おいしい」んだって(笑)
食べた後、満足した人っていうのは背中を見ればわかる。おいしかったってね。弾んでるよ。店を出る時に楽しそうに出ていくんだよ。
店に入った時の声とか、しっかりやらなきゃダメよ。やっぱり感じがいいことね。
-すごく笑顔が素敵で、本当に癒されます。あたたかくて居心地のいいお店だという雰囲気が伝わります。
〔初代〕そこが一番大事だね。私は従業員にあれをしなさい、これをしなさいと言わないで、好きなようにやってもらうし、いつも人で苦労したことはない。
関西の方がバイトで仕事していたけど、お客さんの対応が上手で、コミュニケーション能力が高い関西の方は商人向き。その点、秋田は向いてないね(笑)喋らないから喧嘩してるみたいだって。どっちかっていうと寡黙に、黙々とコツコツやるタイプの方が多いのかな?馴染むまでは時間がかかる。でも、お客さんにこちらから入っていかなきゃダメ。柔軟に自分を変えていかなきゃ何もできない。
常連さんも多いから、テレビに出たらお店が混んじゃって、ちょっと悪いなと思ってる。本当に、人次第だから。色んな人いるがら成り立つ。愉快な方とかは好かれるよね。
一番にオーナーがやらなきゃ、下の子がやれない。自分がやって見せればいいんです。失敗してうまくなっていくんだから。自分がここならできそうかなとか考えながら。失敗なんかいいんだよ。トップが明るい人なら、従業員もお客さんもそういう人が来る。本当にいいお客さんばっかり。少々ね、失敗してもなんとも言わね(=秋田弁で「言わない」)。
お互いにジョーク言えればさ。明るくね。流行ってるお店というのは、結局自分に合うとか合わないとか。
接客を担当しているうちの姪っ子(二代目の奥様)は、よくお客さんにやってくれるから、評判がいいんでね。
”初代”と”二代目”
-二代目ご夫婦がいらして安心ですね。
〔初代〕そうね。なんでも任せられる。
〔二代目・古沢様〕まだまだです。お客さんがまばらであれば、時間をかけて綺麗に作れるんですけど…回転が早くなっちゃって。あれもやって、これもやって…。
〔初代〕お客さんの事情が違うからね。みんなお昼だったらさ、早く食べたいじゃないですか。スピードなのよ。1時を過ぎればある程度、時間の余裕のある人が来るから。みんな違うから空気読めないとね(笑)
メニューと食材のこと
-メニューが「親子丼」一本とのことで、使われている食材などのこだわりをお教えください。
〔初代〕ご覧の通り、厨房が小さいでしょう。じゃあ、親子丼一本でいこうと。それしか作れないからね。それでどうにかやってみようと。
【比内地鶏について】
〔初代〕比内地鶏の味は、秋田の出身だから知っていた。やっぱりおいしい。他とは全然違うもんね。それで使っているんですよね。正肉(しょうにく)って言って、もも肉とむね肉。これで1kg。肉はお店で切って、混ぜて使っている。むね肉の割合がちょっと多いんだよ。
【卵について】
〔二代目〕今使っている卵は「奥久慈卵」になります。自分でいろんな卵を買って、どのくらい違うのか、いろんなところで買った卵を色々試してみました。茨城の奥久慈っていうところの、よくスイーツとかで使われる卵なんです。1個50円ぐらいする。僕も知らなかったんですよ。卵がわかる人は「臭みがない」「卵のコク」とか。口コミで見てると書いてくれたりしますよね。これの卵かけご飯はおいしいっすよ!!(笑)
【割り下について】
〔初代〕うちは、割り下に砂糖を使ってない。甘みは、みりんだけ。そこがよそと違うかな。ほかのお店は砂糖を使われているところが多いと思う。自然の味だから嫌味がない。砂糖とやっぱり甘みが違うんだよね。
〔二代目〕みりんの深さですねぇ。生の鶏肉を醤油で煮込むじゃないですか。そこで醤油がうまい具合に、きりっと際立つような形になるみたいで。計算して作ってない、偶然の産物みたいな?
おじちゃん、このタレ(割り下)ってさ、ちゃんと計算して作ったの?
〔初代〕そうだよ。
〔二代目〕ホントかい!?(笑)
〔初代〕そんな感じじゃない?
〔二代目〕(笑)砂糖を使った方が手っ取り早いですけど、くどさが出ちゃうんです。
-お米へのこだわりや弊社のお米を使っていただいている理由をお教えください。
〔初代〕それは、ほら。店のドアにポスターが挟んであったの。
(一同笑)
〔初代〕ちょうど自分も秋田出身だし、秋田比内地鶏を使うし。米どころだから。秋田のものを使わねばダメだがら。
〔二代目〕深い内容じゃなかったですね(笑)僕の生まれは宮崎なんです。ちっちゃな頃からあきたこまちにはすごい格上っていうイメージがあって(笑)
〔初代〕やっぱり全然違うが?
〔二代目〕うん。
〔初代〕うちに来る九州の方が、このあきたこまちを「うまい!うまい!」って食べたんだよ。九州の米を食べたことないけど、そんな違うのかあ~と思って。
〔二代目〕たぶん一番、認知度が高い誰でも知ってるお米だと思います。その力はすごい。僕もこのお店と二足のわらじで商品説明の営業をやっていて、色んな会社さんを相手に製品を販売店さんのところに卸したりとか、営業をかけたりしてるんですけども、ネームバリューだとか認知度っていうのは、何にも代えられない、お金で買えないこと。この力っていうのは本当にすごいんですよ。
二代目のこと
-二代目がこのお店を継がれることになったエピソードをお教えください。
〔二代目〕ずっと接客とか営業をやってきて、対(たい)人っていう仕事がすごく好きなんですよ。プラス飲食。料理は家でもやってるんですけど、何でも作ります。あとは釣りが好きなので、釣ってきた魚をさばいて、振る舞ったりするほど、料理を作るのが好き。
今の(もうひとつの)仕事は、オーディオ関係なので、お客さんとの繋がりが普通の電化製品とかよりは、深いんですけど、それでもやっぱり自分が作ったものではない。そんなときに跡継ぎの話があって、丁度40歳になるってこともあったので決めた。でもそれから、コロナになってしまって。本当はすぐに継ぐはずだったんですけど、もうちょっと時期を見て…二足のわらじをやりながら、でも会社からはやめてほしくないというので…一旦保留。ずっと辞表持って。(笑)
面白いですよ。テレビに出させて頂いたりとか、こういう取材があったりとか、明らかに今まででは考えられない人生に進んでいる状態ですから。今までにないことが出来てすごくフレッシュで楽しいです。
特に丼をぱっと開けてもらった時のお客さんの「わあ!」って顔が、一番見ていて面白いですね。「おいしそう!」ちゃう、「おいしいから食べて」って(笑)
それが、きっかけというか、いいタイミングで、渡りに船って感じです。
-初代・加藤様は「人との繋がりが一番大事」と考えられてお店づくりをされているとおっしゃいました。古沢様の目指したいのはどのような“味”や“お店像”でしょうか。
〔二代目〕とにかく、まずはこの味…先代が作り上げた味っていうのを、足しもせず引きもせず維持していくっていうところが大事だと思うんですよ。
「三つ葉をのせた方がいいんじゃない?」と提案したこともあるんですが。…そうじゃないみたいなんです。実際、自分で作って三つ葉をのせてみたんですけど、やっぱり違うんですよ。邪魔しちゃうんです。引き算ってすごい難しいんですよ。今これ以上引けないんです。
材料で言ったら、醤油、みりん、鶏、卵、米。これしかない。これからどれも欠けさせられない。後は維持していくというとこですかね。なんか身内が言うのもあれですけど、奇跡の一杯が出来上がってる感じですよね。
僕は宮崎出身なので、ゆくゆくは宮崎地鶏…、ほかに名古屋コーチンとかありますけど、いろんな鶏を使った親子丼も面白いと思っています。
初代が、フランクな方なので「誰でもできるよ」って…指南してもらったことがなくて。「やってみ」って、それだけなんですよ。見よう見まねで作りながら勉強しました。本番が練習。
それがあって即戦力になれたのかな。丁寧に、ああだよこうだよって教えてもらってたら、多分甘えちゃってた。そういった意味では、結果オーライだったかもしれない。とにかくやってみる。やっぱり楽しいですね。
調理のコツ
-お米の炊き方のポイントをお教えください。
〔二代目〕ちょっと気持ち水を減らして、わざと早炊きにする。芯が残るわけじゃないんですけど。おばさんが、ちゃんとその辺を考えたのかな。
ガス釜で炊いている飲食店さんとかがほとんどなのに普通の炊飯器で炊いているから、ヤバいなうち、大したことねぇぞって(笑)釜が小さいと、普通の水分量ではちょっと軟らかくなり過ぎちゃうことが難しいなぁ。あと、あきたこまちは時間が経ってもうまいです!硬めで炊いてるんですけど、粘るんですよ。テーブルとかに付くととれない(笑)す~ごい粘っこくて。
〔初代〕秋田からとってる米だからね。やっぱ親子丼にするにはこれがいいのかな。
〔二代目〕丼ものってどうしても、カレーとかもそうですけど基本、上から汁がかかっちゃうじゃないですか。軟らかいお米だとベチャッとなっちゃうんで。飲めるようなするする入っていくような形で硬めに炊いてるんです。
〔初代〕……そんな変わらないよね。丼で食べるとかさ、白米で食べるとか、そんなに変わらないよ。
(一同笑)
〔二代目〕…おじちゃん…今ね?ちっちゃな違いを、大~きく、す~ごい…大きく説明してるんだよ。
パラッとさせるような、水分が少なめに炊くとお茶漬けとかチャーハンとかにもいいんじゃないですか。意外と歯ごたえはあるので、粘り気があって、甘味もありますし。炊き方としたら、そういう料理に使って頂けるといいかもしれないですね。
-家庭でも親子丼をおいしく作るコツをお教えください。
〔二代目〕とにかく“卵の火の入れ方”です。ネットで親子丼を見ると、みんな卵ボロッボロッなんです。だからもう、「え?いいの?これぐらいで?」っていうぐらいの火の入れ方が大事。
卵は2個使って、かき混ぜ過ぎない。せいぜい6回。黄身に2本箸を刺しまして、1、2、3、4、5、6。…ってだけでいいです。黄身と白身が分離してますから、その状態で、煮上がってる鶏の上にばっとかけて最初は強火。そうすると周りが固まってきますね。もんじゃ焼きみたいに土手ができたらちょっと弱火にして。真ん中に火を通して。全体的に下に火が入ったら、もう出来上がり。
トロっとした卵かけご飯をイメージしてもらったらいいです。そうしたら、おじちゃんが作ってくれたみたいにできあがる。白身を脇に入れて黄身を真ん中に持ってくることが出来るようになれば、白身に火が入って黄身がトロっとした感じになって、コクが出ますよ。
蓋をぽっと開けてもらった時に、キラキラキラっとして出来上がる。火が入り過ぎちゃって、ちょっとぼそっとなってしまった部分があると、ちょっとそこってマイナス、減点ポイント。火の入れ方によって、ガラッと変わる。活かすも殺すも作り方次第。
初めて見る人は多分、それでもやっぱりふわっと、とろっとしてるんで、喜んでくれるんですが、やっぱ常連さんとかとなると。自分が初めて調理場で作った時には、「卵かき混ぜ過ぎだね」とか。(笑)火入れすぎだねとか言われてた。(笑)
=インタビュアー実食!=
卵は見ての通り、ふわふわプルプル。
割り下に砂糖を使うとくどくなってしまうということで、砂糖は不使用。みりんで甘みを出しているのでくどくなく、「飲める親子丼!?」とでも言うべくさらさら食べられて口に運ぶスプーンが止まりませんでした。
丼ものに合わせて計算して炊かれたご飯との相性もバッチリ。こだわりの比内地鶏も弾力がありちゃんとお肉のおいしさを感じられました。
蓋を開けるとキラキラと輝いた親子丼がお目見えし、それだけで食欲スイッチがオンになりますが、一口食べたら止まらない、ノンストップのおいしさです!
ごちそうさまでした!
店舗情報
きすけ 赤坂本店
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