レッスン13.人間と、人間と似たものと。

知人に誘われ、TOKYOハンバーグさんの公演「人間と、人間と似たものと。」を観てきました。感想文をネットの海に投げ込むのってすごく怖いのですが、やってみます。

お話は、人間の生殖機能を奪うウイルスが蔓延する、未来の世界が舞台です。この世界では、クローン人間の製造は倫理的に禁止されていますが、実際には、臓器移植を待つ富裕層などをターゲットにしたビジネスとして、ひっそり行われています。

クローン人間、臓器移植という言葉からは、数年前にノーベル文学賞を受賞し話題になったカズオ・イシグロさんの著作の1つ「私を離さないで」のような世界観を連想させます。しかし劇が進むにつれ、クローン人間と人間との関係性、というSFにありがちな設定ではなく、これは現代のウイグル人たちを取り巻く問題について表していることが明かされていきます。フィクションとノンフィクションの境が曖昧になっていく感覚がユニークで不思議でした。

演出面では、音楽が物語を邪魔していなくて、とても好きでした。オーバー過ぎず小さすぎず、空気のように自然でした。それから舞台の三方を役者のみなさんが座って囲んでいる演出が、最後、ウイグル人の問題に無関心な人たちを表現する手法として使われたのが「かっこいい!!!好き!!!」となりました。好きです。考えた人、かっこいいです。

記者役の中で特に台詞が多かった役者さんの演技は「現場でこういう人見たことある。週刊誌とかフリーランスの人でいるいる」と、くすっとしました。観劇中は、劇であることを忘れて見入っていました。


ここからは、公演を観て私の中で熟成されたものの話です。過分に自分語りが含まれますがお付き合いください。

観劇で、自分の生き方・在り方の指針に対する思索が深まりました。

ウイグル人のこと、香港のデモのこと、知ってはいましたし課題だとは思います。でも、この問題を真剣に考えようと出来るのって、衣食住が極度に不足していなくて、将来への希望(漠然と、この先世界や自分の人生は良い方向になる、努力によって良くすることが出来ると考えられること)を持っている人だけではないでしょうか。

食うや食わずの生活を送っている人、駅でビッグイシューを持って立ちっぱなしのおじさん、会社で心身をすり減らしている人、親におびえている人などなど、心身の飢えに苦しむ人は身の回りに確実にいます。そういう人たちの辛さを緩和しなければ、人類規模の大きな問題って緩和されないと思うんです。観劇に4000円を支払うなんて到底考えられない、という経済的困窮にある人は、社会の問題よりまず今月の食費のほうが大問題だと思うんです。

話は飛びますが、私は「Go!プリンセスプリキュア」というプリキュアシリーズが好きで、キャッチコピーである「つよく、やさしく、美しく」生きることを目標にしています。自分なりに、強い=「憎しみの連鎖を断ち切ること」、やさしい=「他者の困難と共にあること」、美しい=「自分の人生に夢中であること」と定義しています。

私にとっての幸せは「つよく、やさしく、美しい」人であり続けることです。ただ、「やさしく」の部分は難しくて、相手が抱える困難度や共にいる方法によってはやさしさが自己中心的なものになったり、依存関係を産み出してしまったりします。本当に難しいことです。人には人の地獄がある、と宇垣美里アナウンサーは言いました。ひとりでさえ複数の種類の困難を抱えているのだから、世界規模で見たらそれこそ比喩でなく無限にあるのでしょう。

国や民族単位の問題が自分の生活の延長線上にある、と想像できる人を増やすために、まずは隣人を助けるところから実践していきたい、というのが劇を観た率直な感想です。辛い思いをしている人の心身の余裕を一緒に作って、希望を持つ力を一緒に育むことの出来る人間でいたいし、私が、自分のありたい姿を夢見ることが、誰かの幸せに繋がっていたらもっと素敵です。医療職や福祉職、法曹職などの直接人を助ける仕事を生業としなくても、ありたい姿であり続けようとすることはできます。その行いはきっと世界の平和に繋がっているはずと、これまで以上に強く思うようになりました。

そのためにも、今の自分の持つ「文章を書く」「取材をする」技能を伸ばしたり、自分が好きなことを信じてやってみたりしようと、観劇前より少し前向きになった気がします。私の言葉が誰かを救うなんては到底思えないけれど、半年放置していたnoteに投稿してみるなど、行動も試行錯誤しています。

公演終了後にあらためてタイトルを見ました。「人間」と対比されている「人間と似たもの」はクローン人間ではなく、差別や偏見を持ち続ける人のことを指すんでしょうか。だとしたら、私は本当に人間なんだろうか、と考え込んでしまいました。

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