斎王からの伝言[創作]12
12 良心神
2014年の12月23日にコウは働いているコールセンターの上司に告白するという暴挙に出ていた。働きながら漫画を制作するより、専業主婦となった方が現実的だと真剣に考えた結果、女好きで外見がスティッチのような魅力的な上司に白羽の矢を立てた。誰にでも優しく、仕事が出来て全体を総括する様に惚れていた。
今年でコウは37才。スティッチは3つ年下の34才。しかも22才の若い女性好きを自認し、キャバクラやデリヘルを利用していると言って憚らない彼を振り向かせる勝算はゼロいやマイナスだった。実際、仕事場で気安く話をしたことなど一度もない。そんな関係だったため、野花菖蒲会の二人に相談はしなかった。
天皇誕生日である祝日に、彼の家から近いファミリーレストランにお昼頃来て欲しいとSNSから勝手にメッセージを送った。返事もなく無理な事は十分承知していたが、何もしないでいるよりはずっとマシだと思えた。
コウは、ベージュのワンピースを着て普段よりめかし込み彼が来るのを静かに待った。11時…12時…13時を過ぎても来なかった。
メッセンジャーに今後の活躍を祈るメッセージを送るとすぐに〔ありがとうございます。〕という一文が送られてきた。
【そりゃそうだよね。】コウは2時間飲み物を飲んだだけでレストランを出た。
分かっていた事なので、失恋した感覚が薄く涙も出なかった。派遣で1年程働いたが、このままずっとコールセンター業務を続けていく気持ちは無く、明日女性係長との面談で更新せずに辞める意思を伝えるつもりでいる。唯一の心残りである彼に想いを伝えられたので満足だった。
【辞めた後、どうしようかな。どうすれば漫画を描く環境になるだろうか…生活維持する最低限のお金は必要だし。】しばらくは失業保険で繋ぐとしても、また別の仕事をして働きながら漫画を描けるほどコウは努力家でも器用でもない。
【漫画で食べてはいけないし…それにこの物語は営利目的と真逆に位置しているからお金なんて取れない…またニートになったら親が許さないだろうし…】ハァと溜息をつき、トボトボと家に向かって歩いた。
エマは富良野から戻り、愛媛のミカン農家へ働きに行っていた。しばらくはヘルパーとして、農業の現状を見て回るそうだ。
ミキは、能楽師の元で日夜修行に励んでいる。メンバー全員が必死に自分の、そして人類の未来の在り方を模索していた。
話の核は、女性が真円な魂を目指す事だ。主人公は未婚の祈りの姫巫女『斎王』の転生者。現代の様々な誘惑を退け、自分自身の怠惰を克服し、真円な魂となり真の天照大御神の元に戻る事を夢見て修行する。一見、キリスト教のシスターに似ているが、外側には求めず、内なる自分の良心を見極めその心の声に自分を合わせ真円な魂と変容していく成長物語。
問題は、なぜ真円な魂になりたいのかという部分で、そこが難しく考え込んでいた…。
コウは最近見ているブログがあった。『人に内在する良心神(神言会)』霊界のお話で、大本教、神道、仏教、キリスト教など色んな宗教を上げている。古事記、日本書記、新興宗教、稲荷大社、言霊、スエーデンボルグなどあらゆる霊界に関わる話が載っている。
そのブログには、魂はねじれたり曲がったり腐ったり、形が崩れると書かれてある。そして酷いと魂が元の場所には戻れず粉砕し、虫などに入り込むのだ。
何か(魂)が実際あるとして、死後その何かが、肉体から離れて元の世界に向かうと断言している。意味が分からない説明も多々あるが、変に納得してしまう凄味が文章にあった。そのブログの世界観がコウが創り出したいストーリーの土台となっていた。
家に戻って洗面所で手洗いうがいをし、自分の部屋に入り、部屋着のパジャマに着替えて創作ノートとペンをベッドの上に置き、コウは布団の上に寝っ転がり目を瞑った。
【…人には誰もが宇宙の始まりの切っ掛けを与えた良心神の振動を持っているとしよう。そして人は、自分自身の振動も持っていて、振動には物理の法則みたいに天国の振動と地獄の振動などいくつか種類がある。中有界の振動も存在していて、ほとんどは中有界の振動に向かい地球へ輪廻転生するが、天国と地獄の振動も階層を変える為に地球へ転生する場合がある。振動は、生命体に呼応して留まる事が出来る。そして生命体は遺伝子の種類で振動パターンが固定化している。
振動する階層を天国とか地獄とかにしないで、色や音、数字で表せないかな…良い悪いで判断せず、そういう振動と表現すれば争う理由は無くなると思うんだよね…振動数毎に棲み分けをすれば丸く治まるはずだ。
そして、振動数の割合の黄金比があって、そのパターンの数に全体を当て嵌める操作をすれば、自然的で持続可能な人間社会を構築出来るのでは。
斎王の役割は、円真な魂となり振動数の割合を調整する役目なんじゃないかなぁ。そうしたら穏やかで持続可能な循環社会を維持出来るんじゃないかなぁ。斎王は、女性側の出産人数をコントロール出来るんじゃないのかなぁ。周波数のタイプと人数を把握して、縁組みしてバランス良い人材を管理する役目。西王母…豊受姫…統括…。
やっぱり円真な魂を目指す動機づけは、自分が困ることからにしよう。】
コウは起き上がり、ペンを持ちノートに書き込んでいった。
【…小さい頃から正夢をちょこちょこ見ていたけど、悪い正夢をなかなか変えることが出来なかった。
ある時、一人の大人と出会い関わり、その時だけ悪い正夢を変えたとはっきり分かった。
なぜ夢で見た行動と変わったのか?と彼女を遠くから観察をしていたら、急にキーンと時間が止まったかのような瞬間、周りの音が聞こえなくなり、その人の音と色と数字が現れた。すぐに治まり元に戻ったが放心状態となり、しばらく呆然としていたら、いつの間にか彼女はいなくなっていた。
これは一体どういうことなのか、しっかり本人に確認しようと探したが引っ越ししていて居なくなっていた。
後日その大人が癌末期で投げ遣りだった時、主人公の存在で悪事を思い留まり自分自身の運命を受け入れ終末期医療を受けに引っ越した事が分かった。
主人公は自分のざわざわした違和感を正直に相手に伝えたのだ。本来の元の振動数に戻るよう働きかけていた。その時、心の声に従うと正夢を変えられる事に気付く。
そこから自分なりに考えて神社仏閣を周り自分の違和感を一つ一つ確認していく作業に入る。あらゆる人達と対峙して、一番最初に起こった現象を再現するため、独自の修行に入っていく…。】
コウは夢中でストーリーの大まかな展開を書き上げた。
【決まった。題名は『斎王からの伝言』!!】
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