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【新刊紹介】《ベルギー幻想派の最高峰》ジャン・レーの決定版作品集『マルペルチュイ ジャン・レー/ジョン・フランダース怪奇幻想作品集』を刊行します

7月の弊社は、『マルペルチュイ』『人狼ヴァグナー』『骸骨』『高原英理恐怖譚集成』と、怪奇幻想小説4点を刊行予定。
来る猛夏の暑気払いに相応しい、怪奇祭のごときラインナップでお送りします。

さて。
今回は、《ベルギー幻想派の最高峰》と言われる作家ジャン・レーの決定版作品集『マルペルチュイ ジャン・レー/ジョン・フランダース怪奇幻想作品集』についてご紹介です。

作者ジャン・レー(ジョン・フランダース)について、そして「決定版作品集」たる本書の魅力についてご紹介いたします。

1. 作者紹介

そもそもジャン・レーとは、どのような作家なのでしょうか?

ジャン・レー/ジョン・フランダース  Jean Ray/John Flanders

1887年、ベルギー王国ヘント生まれ。本名レーモン・ジャン・マリ・ド・クレメール。市の職員として勤める傍ら雑誌に作品を投稿、1919年からはジャーナリスト、作家に身を投じる。1925年にラヴクラフト風の短篇「パウケンシュラーガー博士の異常な研究」を含む『ウイスキー奇譚集』を出版して世に認められるようになる。
現代ゴシック・ファンタジーの最高傑作『マルペルチュイ』(1943)をはじめ、中・短篇集『夜の王』(1942)『恐怖の輪』(1943)『新カンタベリー物語』(1944)『幽霊の書』(1947)、《ハリー・ディクソン》シリーズなど、怪奇幻想・SF・探偵小説の分野で数々の作品を残す。
ジャン・レーをはじめ多くのペンネームを用いたフランス語での創作の他、オランダ語作品も主にジョン・フランダース名義で多数執筆。
飽くなき生への歓喜と病的でグロテスクな想像力を混淆させ、幻怪で濃密な文体によって独自の世界を創造し、〈ベルギー幻想派〉の最高峰と目されている。
1964年逝去。
死後、その功績を讃えて「ジャン・レー文学賞」が創設された。

ジャン・レーは、《ベルギー幻想派の最高峰》と呼ばれる通り、ベルギーで最も有名な20世紀怪奇小説作家の一人です。

ジャン・レー作品は、『マルペルチュイ』『新カンタベリー物語』はじめ、日本でも実は結構な数の邦訳が出ており、国書刊行会でもこれまで秋山和夫訳『幽霊の書』を刊行したほか、シリーズ「書物の王国」にもジャン・レーの作品が3作ほど採録されています。

説明文では「飽くなき生への歓喜と病的でグロテスクな想像力を混淆させ、幻怪で濃密な文体によって独自の世界を創造した」とありますが、これは要するに、良い意味で通俗性と文学性が絶妙にハイブリッドされた、テンポのよさと同時におどろおどろしさのある作風で、探偵小説・SF小説的な要素もふんだんに含まれていることから、ポーやラヴクラフトを彷彿とさせたり、どことなく「新青年」っぽさも感じられたりします。
(事実、アメリカの怪奇雑誌『ウィアード・テールズ』にもジャン・レーの作品が掲載されたことがあります)

ジャン・レーは生涯にわたり膨大な作品を遺しましたが、本書はその中からとくに、著者絶頂期の作品から、最高傑作の新訳と幻の未訳作品集とをバランスよく収めており、まさしく「決定版作品集」のコンセプトにふさわしい構成となっています。

2. 収録作紹介

ではここからは、収録作をもう少しだけ詳しくご紹介します。

1.『マルペルチュイ 不思議な家の物語』
表題作である『マルペルチュイ』は、弊社刊ジャック・サリヴァン編『幻想文学大事典』でも以下のように絶賛されている、折り紙付きの傑作です。

長篇『マルペルチュイ』Malpertuis(1943)(篠田知和基訳, 月刊ペン社, 1979)はレイの全作品の到達点である。(中略)複雑で興味をそそる『マルペルチュイ』は、現代のゴシック・ファンタジーの最高傑作のひとつとして、ピークの『ゴーメンガースト』Gormenghast三部作(浅羽莢子訳, 創元推理文庫, 1985-1988)やグラックの『アルゴールの城』Au Châ-teau d'Argol(安藤元雄訳, 白水社, 1985)と並び称せられるべき作品である。

じっさい『マルペルチュイ』は、サリヴァンのこの賛辞に違わぬ出色の作品で、本書担当自身も、その複雑妙味で濃密な怪奇幻想世界に大変な衝撃を味わいました。

そのあらすじは、以下のようなものです。

大伯父カッサーヴの奇妙な遺言に従い、莫大な遺産の相続と引き換えに〈マルペルチュイ〉館に住まうこととなった一族の者たち。
幽囚のごとき彼らが享楽と色恋に耽る一方、屋敷の暗闇には奇怪な存在がひそかに蠢き、やがて、住人たちが消える不可解な事件が立て続けに起こる。
一族の若き青年ジャン゠ジャックはこの呪われた館を探索し、襲い来る幾重もの怖ろしい出来事の果てに、カッサーヴの末裔たちが抱える驚くべき秘密と真実に辿り着く……

謎多き呪われた館〈マルペルチュイ〉で繰り広げられる「恐ろしい出来事」とは?
そして、そこに住まう一族の持つ「驚くべき秘密」とは?
〈マルペルチュイ〉とはどのような場なのか?

ファジーな要素が少なく、比較的読みやすい部類と言ってもよい怪奇幻想小説ですが、読むごとに発見のある作品で、その張り巡らされた伏線の緻密さには、驚かされるばかりです。
未読の方は、ぜひ本書を繙いて、ジャン・レー文学の真骨頂にして現代ゴシック・ファンタジーの精華を玩味下さい。

2.『恐怖の輪 リュリュに語る怖いお話』
今回初紹介となる本作は、父が愛娘に語り聞かせるという枠物語の体裁を取った怪奇短篇集です。
弊社刊『書物の王国18 妖怪』に収録された「マーリーウェックの墓地」以外は本邦初訳で、実在する中世騎士の義手をめぐる古物怪談、ディー博士の魔術道具が引き起こす呪い、ヴュルクという名の怪鳥と猟師の凄絶な戦いの話など、11篇を収めています。
恐怖が幾重にも環をなすごとき構成で、作家の力量と持ち味が存分に発揮されています。また枠物語形式で、文学的なエッセンスも多分に含まれているということもあり、『新カンタベリー物語』などが好きな方におすすめです。

3.『四次元 幻想物語集』
『四次元』は、ジャン・レーが「ジョン・フランダース」名義で書いたオランダ語の怪奇幻想・SF・ミステリ作品を本邦で初紹介する短篇集です。
自動人形に遠くの地の死刑囚の魂が宿る怪事件、顕微鏡の中に現れた小さな老人の化物の話、奇妙な逃亡呪術を用いる殺人犯を追う刑事の話など、全作品初訳の16篇を収めています。
空間・時間の自在な移動、科学では説明できない不可解で奇怪な存在など、豊かな奇想の数々が描かれており、オランダ語圏フラーンデレン地域でよく知られる「大衆向け短篇小説のマイスター」としてのジャン・レー/ジョン・フランダースの側面の妙味を味わえる、ファン必読の逸品です。

翻訳は、岩本和子さん・井内千紗さん・白田由樹さん・原野葉子さん・松原冬二さんの5名。
フランス語文学研究者の岩本さんに全体の監修と『マルペルチュイ』の翻訳、ベルギー・オランダ語現代文学の翻訳もされている井内さんに『四次元』の作品選定と翻訳、フランス語文学研究者の白田さん、原野さん、松原さんに『恐怖の輪』の翻訳(白田さんが『恐怖の輪』全篇を統括)をご担当いただきました。

3. 装幀&試し読み予告

装幀は、坂野公一さん(welle design)にご担当いただきました。
装画・扉画には、おそらく本稿をお読みの方にも好きな方が多いであろう、ベルギー幻想絵画の代表的な2画家の作品を使用。
ジャン・デルヴィルの『メドゥーサ』がカバー・表紙を、フェルナン・クノップフの『ブリュージュにて――正門』が扉を飾り、怪奇幻想世界の入口に相応しい装いとなっています。

素晴らしいデザインと重厚な量感(重さ約1.05kg、厚さ4cm超!)のある、紙の書物をお薦めいたしますが、気軽に作品を楽しめる電子版も、各電子書籍プラットフォームにて配信予定です。

《ベルギー幻想派の最高峰》の「決定版作品集」と銘打った通り、怪奇幻想派には間違いのない一冊。
どうぞご期待ください!
                     文:国書刊行会編集部(昂)

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マルペルチュイ
ジャン・レー/ジョン・フランダース怪奇幻想作品集

ジャン・レー/ジョン・フランダース 著
岩本和子/井内千紗/白田由樹/原野葉子/松原冬二 訳

2021年7月15日発売予定

A5判上製・532頁 ISBN978-4-336-07142-2
定価:税込5,060円 (本体価格4,600円)

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【訳者プロフィール】
岩本和子
神戸大学大学院国際文化学研究科教授。1959年島根県大田市生まれ。専攻はフランス語圏文学・芸術文化論(主にベルギーのフランス語文学、スタンダール研究)。博士(文学)。
著書に『周縁の文学 ベルギーのフランス語文学にみるナショナリズムの変遷』(松籟社、2007年)、『スタンダールと妹ポーリーヌ 作家への道』(青山社、2008)、『ベルギーとは何か? アイデンティティの多層性』(共編著、松籟社、2013)など。
訳書にデル・リット『スタンダールの生涯』(共訳、法政大学出版局、2007)、『幻想の坩堝 ベルギー・フランス語幻想短編集』(共訳、松籟社、2016)など。

井内千紗
拓殖大学商学部助教。兵庫県生まれ。専攻は地域文化研究(ベルギー・オランダ語圏)、文化政策、オランダ語文芸翻訳。
著書に『ベルギーの「移民」社会と文化 新たな文化的多層性に向けて』(共編著、松籟社、2021)、『現代ベルギー政治 連邦化後の20年』(共著、ミネルヴァ書房、2018)など。訳書にアンネリース・ヴェルベーケ『ネムレ!』(松籟社、2018)など。

白田由樹 
大阪市立大学大学院文学研究科教授。大阪府生まれ。専攻は19世紀末のフランス語圏文化、メディアと女性表象、アール・ヌーヴォーなどに関する研究。
著書に『サラ・ベルナール メディアと虚構のミューズ』(大阪公立大学共同出版会、2009)。

原野葉子
大阪市立大学大学院文学研究科准教授。1975年広島県広島市生まれ。専攻は20世紀フランス文学(ボリス・ヴィアン研究)。博士(人間・環境学)。
訳書にレーモン・クノー『文体練習』(共訳、水声社、2012)、ボリス・ヴィアン『夢かもしれない娯楽の技術』(編訳、水声社、2014)。

松原冬二
京都大学非常勤講師。1977年京都府生まれ。専攻は20世紀フランス文学(幻想文学、アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ研究)。
著書に『アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ イタリアをめぐる幻想の美学』(水声社、2019)、論文に「『Oの物語』におけるフクロウの仮面 マンディアルグと「仮面」をめぐる一考察」(『フランス語フランス文学研究』第115号、日本フランス語フランス文学会、2019)、「三島由紀夫とマンディアルグ(Ⅱ) 薔薇・刃・聖セバスティアン」(『仏文研究』第51号、京都大学フランス語学フランス文学研究会、2020)など。

ぜひご一読下さい!

【特報!】
試し読み第1弾として、ジョン・フランダース名義作品の怪奇ミステリ短篇「マチルダ・スミスの目」を本日7/2より公開開始!


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