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【刊行記念】人間よりも本が好き? 寡黙な二人がオンラインでおそるおそる対談!? 本棚に咲く一輪のよろこび『ダフォディルの花』訳者対談

『ダフォディルの花』が本文責了となり出来を待つばかりとなった8月某日、訳者の館野浩美(たての・ひろみ)さんと中野善夫(なかの・よしお)さんによるオンライン対談を行いました。
お二人のおしゃべりをお楽しみください。
                (構成:伊藤里和/国書刊行会編集部)

館野浩美さん
ケルトの神話や伝説、幻想的な小説を紹介するミステリアスな翻訳家。
寡黙な印象とは裏腹に情熱の青炎を内に秘め、宝石のような詞を紡ぐ。
酷暑にも絶えず涼しげな微笑みを湛え、一年中初夏の佇まいを醸す。
影青書房の主。
訳書にサーバン『人形つくり』、共訳書にジーン・ウルフ『ピース』がある。
中野善夫さん
英米の幻想小説研究翻訳家。こよなく本を愛し、読書時は本が傷まないようノドを60度以上拡げない。しばしば豆本を作る。写真に写ることはごく稀で、人前には骸骨姿で現れる。
Twitter: https://twitter.com/tolle_et_lege
訳書にV・リー『教皇ヒュアキントス』、F・マクラウド/W・シャープ『夢のウラド』などがある。

1.ケネス・モリスとの出会い

中野 このケネス・モリスの翻訳書を出そうと思った経緯などをお話しすると、『ジャーゲン』[中野さんの翻訳により2019年に刊行、J・B・キャベル《マニュエル伝》シリーズ第1回配本]の資料をいろいろ読んでいるときに、アーシュラ・K・ル=グウィンの『夜の言葉』を読んで、エディスンとトールキンとケネス・モリスがファンタジイとしてのすぐれた文体を持つ作家だという箇所があって、これについては館野さんも(本書『ダフォディルの花』の)解説で紹介していますが、この3人の中で、ケネス・モリスだけはほとんど日本で紹介がないじゃないかと気づきました。
それまで名前を見聞きしたことがあってもまったく気にしていなかったのですが、このとき初めて気になって ”The Dragon Path” (1995)を取り寄せて読んでみるとこれがどれも素晴らしい作品ばかりで、これは日本で出すべきだと思いました。ウェールズ的なケルト幻想の雰囲気と西洋から見た東洋の異国趣味が混じり合っていて、ダンセイニ的な味わいも感じました。

ドラゴン

中野さんが気になって初めて取り寄せたケネス・モリスの ”The Dragon Path" (1995)

そこで日本での紹介を探してみると、館野さんの影青書房での翻訳が際立っていることに気づき、これは館野さんに翻訳に参加していただくべきだと思って共訳が実現しました。
館野さんは、ケネス・モリスはいつ頃、どのような形で知ったのか教えてください。

館野  ケネス・モリスなどの翻訳を紹介するウェブサイト影青書房を作ったのが2009年でした。その頃、西崎憲先生がカルチャーセンターで教えていらっしゃる翻訳講座を受講していて、講座の後の雑談のときに、翻訳家を目指すなら著作権の切れた古い作品をどんどん訳して公表していくといいんじゃないか、そうしたら出版社の方でもこの人に頼もうかというときに、何も資料がないより、こういう作品をこういうふうに訳せる人だと判った方がいいんじゃないかという話をされて、素直に、ああそうかと思って、ウェブサイトを作ってみようとなったんです。そのときにもっと翻訳があったらいいのに、という古い作家で真っ先に思いついたのがフィオナ・マクラウドでした。

マクラウドだけでもなんだし、何かテーマがあった方がいいと思って、その時代の、スコットランド、アイルランド、ウェールズなどの作家がイングランドとは違う、自分たちのアイデンティティとして題材に選んだ「ケルト」というテーマで作ってみようかと。そこから泥縄的に英語のアンソロジーを一冊買ってみて、その中で読んだケネス・モリスがこれはすごい、これはいいと思って、というのがきっかけですね。ということで、ここ十年くらいのことです。

中野 そうすると、前からずっとケルト系のファンタジイに詳しかったというわけでもないんですか。

館野 そうですね。そういうわけではなかったんですが、ただ以前からアイルランドという国に興味があって、それはむしろ音楽とか美術からの興味でしたけれど。学生の頃、アイルランド美術の展覧会で有名な装飾写本『ケルズの書』の複製を見たのと、そのときエントランスでアイリッシュ・ハープの実演をやっていて、きらびやかだけれどもの悲しいような音色が非常に印象に残っていました。
きっかけになったアンソロジーは John Matthews という人の ”From the isles of Dream: Visionary stories and poems of the Celtic renaissance” (1993) という本でしたね。これは小説だけじゃなくて、詩なんかも載っていたし、ちょっと珍しい感じですけど、面白いアンソロジーだったんですね。珍しいところでは、「Edith Wingate Rinder」というフィオナ・マクラウドとも交流があった女性が訳した話やラファエル前派の画家のバーン・ジョーンズが書いた小説なんかも載っていましたね。

中野 西崎(憲)さんからそういう助言を受けて翻訳を発表したということですが、自分から出版社の方に企画を持ち込んだりしようとは思われなかったのでしょうか。

館野 ええ、なかったですね。

中野 『夢のウラド』[F・マクラウド/W・シャープ著、中野善夫さんの翻訳により2018年に刊行]のときも、館野さんはこれだけ自分から訳している人だから、もしかしたらもうどこかの出版社にマクラウドの企画なんか持ち込んでいて、そこで自分がやって重なってしまったらどうしよう、とかちょっと心配してたんですけど、そうしなかったのは何か特別な理由があったわけではないのですね。

館野 はい、そうですね。

中野 いやもっと、積極的に持ちかけたらいいのにという気もするのですが。

館野 そんな経験も自信もなく……。でもケネス・モリスは少し考えました。持ち込みをするための出版の企画書の作り方などをネットで検索して、どういう情報を載せればいいかを調べて。書誌やあらすじは書けますけれど、例えば「本に対する客観的な評価、感想ではなくて、客観的な評価を書きましょう」とか、「この本を出版する意義を書きましょう」とあったので、意義や、売れるかなとか、はたと考え込んでしまって、持ち込みには至りませんでしたね。

中野 でも、マクラウドなんかはまだまだ出せますよね。

館野 どうでしょうか。

中野 もう一冊くらいなら。[中野さんは館野さんに翻訳させたがっている様子]

館野 ……

中野 私はもう嫌なので。

館野 中野さんがおやりになるものだと思っていましたが。

中野 いや、難しすぎて。

館野 確かに難しいですよね。

中野 ……

館野 ……

[譲り合う様子の二人]

中野 [まだ紹介されていないケルト系の幻想作家や作品を紹介して欲しいと促されて]機会があったらぜひ訳したいというケルト幻想作家はありますか。

館野 そうですね……ケネス・モリスが出せたらもう私としては本望だと……もういいんじゃないですか、というくらいなんですが。

中野 ケネス・モリスも、まだもう一冊出していただきたいと思うんですが……。

館野 ”Book of the Three Dragons” (1930) は面白いですよ!

どらごんず

『ダフォディルの花』が好評ならば、ぜひとも刊行したい ”Book of the Three Dragons” (1930)

2.好きだから訳してみた、ケルト系ファンタジイ

中野 館野さんが翻訳家になろうという気持ちを持たれたのは、ケルト系のファンタジイを紹介しようということからだったわけでもないのですか。

館野 そういうわけでもなかったですね。本を読むのが好きで、何か本に関わることをしたいという気持ちがあったのと、子供の頃から日本の話よりは外国の話、現実の話よりは空想的な話が好きで……というようなところからだんだんと、という感じでしょうか。
子供の頃に好きだったのは、たとえばアンドルー・ラングの童話、星座のギリシャ神話で、それから北欧神話、ケルト神話はだいぶ後だったと思います。ジャンルとしてのSFやファンタジイを読むようになったのは高校生の頃、学校の図書室にわりとSFやファンタジイが多かったので。まずル=グウィン、ゼラズニイ、ナンシー・スプリンガー、パトリシア・A・マキリップ等……。高校では文芸部にいて、小説や詩を書いたりしていたんですよ。でもどう考えても創作の才能はないなと。編集者という柄でもないし、翻訳者? これはどうかなという感じで。

中野 「これはどうかな」といっても、そう簡単にはなれませんよね。

館野 だから、どうかなと思ってからもずいぶん回り道をして。

中野 これまで出されている訳書はケルト系のファンタジイとは関係ないと思うのですが、これからはマクラウドの紹介なんかも引き続きぜひお願いしたい。ちょっと古い幻想小説を紹介していただきたいなと思っています。そういう分野を積極的に紹介している人はあまり多くないと思うので。100年くらい前のイギリスとかアイルランドとか、これから紹介したい作家などあればぜひ。

館野 まだまだ不勉強なので、これからも読んでいきたいとは思いますが……。自分のウェブサイトで取り上げている作家はやはり好きで興味があります。マクラウド、AE、エラ・ヤング等ですが、AEはケネス・モリスが影響を受けているだけあって似たところもありますね。モリスをさらに神秘的に、思弁的にしたような。

中野 マクラウドもまだまだいい作品が残っているからもう一冊は出せると思いますが、館野さんどうでしょうか。

館野 マクラウドだったら、これまでとはちょっと毛色が違うような、例えば『夢のウラド』ではシャープと組み合わせて、シャープとマクラウドの作風がどの辺が違うのか、どの辺で接近しているのかがよく判ったと思うんですけど、マクラウドの中でもシャープ寄りというか、例えば「ジプシーのキリスト」のような因縁や復讐の話、怪奇的な話もあったりするので、そういう暗い作品を集めてみても面白いかもしれないと思いますね。言うだけなら簡単ですけど。

中野 ぜひお願いします。[中野さんは館野さんにしつこく翻訳させたがっている様子]

館野 もし読みたいという方がいらっしゃればですね。

中野 マクラウドは人気があると思うんですよ。まだまだ。

3.ケネス・モリスの作風と思想

中野 先ほどのル=グウィンの言葉ですが、「エルフランドからポキープシへ」で、「ユーモアの第一人者といえば、モリスとジェイムズ・ブランチ・キャベルではなかろうかとわたしは思います」と書いていますが、そんなにユーモアを感じるでしょうか。
キャベルは確かにそう感じますが、ケネス・モリスにそれほどのユーモアがあるでしょうか。「モリスとキャベルがそのコメディを構築しえたのは、本質的に文体によって——雄弁さによってであり、表現の豊かさ、巧妙さにはただただ圧倒されるばかりです。彼らは並はずれた存在であり、自分たちが為していることを正しく把握しています」とまでル=グウィンは云っていますが。

館野 如何にもファンタジイのきらびやかな文体だけれども、そこにそこはかとなくユーモアを感じるようなところはありますね。
例えば、今回の作品集の冒頭にある「王と三人の行者」などはそういう感じかなと思っています。あと「青玉の頸飾り」、あれはマビノギオンの中の「キルッフとオルウェン」の話を下敷きにして、アーサー王が[作中ではアルスルと表記]宇宙を探索するというやけにスケールが大きい話だけれど、原文の文体はおとぎ話的な、あと登場人物の話し方も訛りがあるような感じだったりで、そういう落差もあってコミカルですよね。

中野 キャベルのユーモアとは違う感じですね。

館野 ケネス・モリス作品の特徴はやはり文章や文体の美しさですね。素朴な民話のような筋に独自の幻想を加えたような。
何よりもモリスは神智学に傾倒していて、小説もその思想を伝える手段という面がありますね。人間の魂の神聖さを信じていて、人間性を向上させるべきだと考えていた。その先に何か神とか、そういうものとの合一があるという、そういう背景はどの作品にもありますね。あらゆるものに魂があって、人間も魂の進化の一過程で、もっと上に向かう可能性を持っているという考えだったようです。
あと、もうひとつモリスの特徴は東洋を舞台にした作品をよく書いていることですけれど、そこにも、東洋も西洋も、目指すところはひとつであって、違う神を信仰していてもそれは結局ひとつのものだという融和的な考えがあった。
例えば今回の本の最初のセクションに「東と西」とタイトルをつけたとき、ちょっと想起したのがキプリングの「東と西のバラッド」で。「東は東、西は西、両者が相会うことはない」と。キプリングはそれこそ植民地の生まれで、実際に東洋にいたその立場から、東と西の断絶をすごく意識したうえで、最上の者どうしであれば対等に向き合うことはできるだろうと。
ケネス・モリスはその点、おそらく実地には東洋を知らなかった。本の上での知識ですよね。でもそれだからこそ書ける軽やかさや理想、幻想の東洋の美しさがあると思いますね。そういうところがやはり惹きつけられるところでもあるので。

中野 ……[すっかり観客のように館野さんのお話に聞き入っている。どう思いますかと促され]なるほど、と思って聞いていました!

4.本書の翻訳分担、構成と見どころ

東と西
王と三人の行者 【館野訳】 
薔薇と杯  【館野訳】
詩人ハーリド  【中野訳】
幼子アポロンの神殿  【中野訳】
北の統治者  【中野訳】
ヴァイオリニストの夢  【中野訳】
ティタニアが摘んだ花  【館野訳】
牧神の戯れ  【館野訳】
アル・カドルの夜  【館野訳】
白禽の宿  【館野訳】
眼のない龍  【中野訳】
紅桃花渓  【館野訳】

故郷へ
子守パーリ  【中野訳】
ショーン・アプ・シェンキン  【館野訳】
山のデイオ  【館野訳】

物語の彼方
人魚の悲劇  【中野訳】
エヴァン・レイションの神曲  【館野訳】
ドン・キホーテ最後の冒険  【中野訳】

天上の音楽
ダフォディルの花  【館野訳】
バッハのフーガ ニ短調  【中野訳】
惑わしの打破  【館野訳】
青玉の頸飾り  【館野訳】
地獄と天国、そしてベートーヴェン  【中野訳】

神と人
神の化身  【中野訳】
神秘の山  【館野訳】
智慧の林檎  【館野訳】
勝利  【館野訳】
惑星の王  【中野訳】
聖者と森の神々  【館野訳】

訳者解説 【館野】

中野 今回の翻訳分担にあたって、これは絶対渡したくないとか、自分でやらないと嫌だとか、あるいはやりたくないと思った作品などはありましたか。

館野 やりたくないというのはありませんが、「白禽の宿」と「青玉の頸飾り」はお気に入りなんです。「ドン・キホーテ最後の冒険」はやっていただいてよかったと思います。実は『ドン・キホーテ』を最後まで読んだことがなくて。

中野 私は『ドン・キホーテ』が結構好きで、ジーン・ウルフの『ウィザード・ナイト』の解説でドン・キホーテのことばっかり書いているみたいに言われたことがあるくらいなんです。

館野 今回の作品集の構成は、ただ執筆順に並べるよりは、何かテーマで分かれた方がいいかなと思ってこのような形になりましたね。切り口というかキーワードを提示できたらと。
モリスのオリエンタルなものに対する興味だとか、今回〈東と西〉のセクションに並べたものは、中国からインド、中東……ギリシャ、北欧、スペインまで、幅がありますね。
〈物語の彼方〉のセクションに収録されている「人魚の悲劇」に関しては、モリスは確か、フェアリー・テールには悲劇がつきものだと考えていた。悲劇というのは過ちなんだけれども、過ちを犯すのは人間が堕落したり過ちを犯すという自由を持っているという証で、真実なものだと考えていたようです。フェアリー・テールは真実を語るもので、だから人間の真実である悲劇も欠かせないと。
だから例えばダンセイニの「妖精族のむすめ」だと、妖精が魂を得た後でやっぱり自然のほうが一番だと思ったら、それを魂のない女性に渡してしまって自分はまた無垢な自然に帰るけれど、モリスの人魚姫はそうはできない。選択は取り返しのつかないものだという。
ただモリスは輪廻転生を、魂の不滅を信じてたいから、そこで終わりではないかもしれないという、少しだけ希望がある感じだと思います。ちょっと不思議な話ですよね、他のものと違って。

中野 人魚世界から見ると向こう側の世界を見てしまう。ダンセイニでも、向こう側の世界に行ってしまっていても戻ってこないみたいな話、例えば「海を臨むポルターニーズ」のような話があるので、そんなふうなところもちょっと感じて、最後にも人魚の王が嘆くわけだけど、向こうの世界を見てしまうと戻れない、そういうのを感じました。

館野 人魚から見ると人間の世界のほうがスーパーナチュラルなんですよね。恐ろしい怖い、でも惹きつけられる、というものがある。

中野 本書の〈天上の音楽〉のセクションに関しては、実は音楽に関する作品はよくわからないものが多くて、そのような作品をたくさん入れる気はあまりなかったんですね、バッハに関するものは好きだからやりたいぐらいには思ってたんですけども。結構そこから採用していますが、判りにくさというようなものを感じませんか。

館野 そうですね、心象を取り出して、何か筆の赴くままに書いたという感じ。起承転結といった小説のストーリーは主ではなくて入れ物のような。詩のようなものといえるかも知れない。

中野 [中野さんは翻訳時にバッハを流す習慣があるようですがと言われて]今回はこれを聞きながらとか、特に作品と合わせたりはしませんでした。ずっと流しているんで。翻訳なんかのときはずっと流している。今「詩に近い」ということだったんですけど、詩が苦手なものでよくわからないのかも知れません。西崎(憲)さんには「何言っているの、わからないって言っていながら詩みたいなことは書くよね」みたいなことをよく言われて、自分じゃ何だかわからないんですが、ときどき、詩のよさがわかる人が訳さなくてはいけないんじゃないかと思うこともある。

館野 散文の中でもやっぱり詩を意識していたのでしょうね。モリスは詩について、何よりも読むものじゃなくて、朗唱して聴くものだという信念があったみたいで。だからそういうところが散文の中にも表れているんじゃないかなと思います。
詩的と思えるような表現も多いです。頭韻とかよく使いますよね。形容詞を連ねて、それが韻を踏んでいる。音の効果を求めたんでしょうか。それを訳文に表現するのは難しいですが……。

5.本書の購入を迷っている方へ

館野 難しく考えずに。1つ1つは短いものですから、ちょっとずつ読んで気に入っていただけるような作品だと思います。読んで嫌な気持ちになったりするようなものは1つもないと思うし。

中野 そんなのはありませんよね。こんな作家が好きな人には特に勧めたいというようなのはありますか。私はダンセイニが好きな人には特に勧めたいですね。

館野 そうですね、ダンセイニ好きの人にはきっと響くでしょう。

中野 [どんな読者にお勧めしたいかと問われて]今まで訳書を出してきたダンセイニやフィオナ・マクラウドの読者には特に。今回自分が訳した中の、悪魔に誘惑される話「詩人ハーリド」はヴァーノン・リーの「教皇ヒュアキントス」みたいに、悪魔はいろいろな誘惑で堕落させようとするのが似ていて、ヴァーノン・リーの読者にも楽しめそうだと思いました。
とにかく最初にざっと読んだときに、どれをとってもハズレがなくて、よくわからないというのは少しありましたが、これはもう、すぐ本にしなければと思ったくらいの傑作揃いでした。
話は変わりますが、これらの作品が発表されたとき、それぞれ作者名がケネス・モリスじゃないから[モリスの作品は様々な筆名で発表された]、今ではちゃんとまとめられているからいいけど、自分で雑誌から見つけて探し出すのはちょっとできないと思いますね。もっと他に作品があるのかもしれないと思っても、普通なら古い雑誌を検索したりしますが、ケネス・モリスの場合は難しい。

館野 反対に言うと、まだ埋もれている作品があるかもしれない。ケネス・モリスはアメリカにいたときにたくさん作品を発表していたんですけど、晩年にウェールズに帰ってからも書いていなかったわけではないらしいです。ただ、書いてもパイプに火を点けるのにその手稿を使ったりしていたとか。

中野 もしかしたら、隠し持っていた人の持ち物から発見されるかも知れない!

6.さらに本書の購入を迷っている方へ

館野 全部を読まなくてもいいですし、何か折々に開いて気に入ったところを。とにかく一家に一冊ぐらい置いとこうよっていうことで。何かに疲れたときとかに読むと心が洗われたりしませんか。

中野 私は隅々まで読んでほしいですね。

館野 もちろんそうなんですけれど! あまり急いで読んだらもったいないような。少しずつ、隅々まで読んで、ふとしたときに読み返していただければ。
装丁は、青地に白のところが帯を取ると八角形のようになっていて、例えば薔薇の花びらのように見えますし、額装のようにも見えます。帯があると、上の形が白い山が青い空に映えているようにも見えないでしょうか。作品の中に「神秘の山」という神々の山をたずねて行く話があって、バビロンの奴隷の心の中にいつも山が映っているのですが、その美しい白い山にも見えるかなと思っていたりしました。

ダフぉ想定原稿

『ダフォディルの花』装丁色校

中野 これまでヴァーノン・リーフィオナ・マクラウドで、素晴らしい装いになったのと同じ装丁・装画のお二人で[装丁は白座さん、装画は林由紀子さん]、今回も見事なものになるという期待が裏切られることはありませんでした。ぜひ本を手に取って確かめていただきたいと思います。

装丁写真集

『教皇ヒュアキントス』『夢のウラド』の装丁は白座さん(柳川貴代さん)装画は林由紀子さん。『ダフォディルの花』も同じお二人。

7.読者へのプレゼント予告

中野 そういえば、館野さんが読者のために何か作ってくださる予定があるとか! 折り本でしたか。

館野 印刷して切ってたたむと本になるという折り本です。ファイルをダウンロードできるようにする予定です。サイズがA3とA4と2種類あります。中身は、新たに翻訳しました。今回の作品集には収録しなかった音楽テーマのモリス作品です。

【予告】読者の皆様全員にプレゼント!【近日公開】
館野浩美さんが訳し下ろした本書未収録作2篇が読める折り本、
「みんなで作ろう手のひらモリス」を作成中。
どなたでもダウンロードして、楽しく簡単に手作りできます。
近日HPにて公開予定です。どうぞお楽しみに!

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『ダフォディルの花 ケネス・モリス幻想小説集』
定価:本体3800円+税 
四六判・上製カバー装 総520頁

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ル゠グウィンがトールキンやエディスンと並べ、名文家として名を挙げた、ケルトの魔法を歌う詩人にして神智学者である作家、ケネス・モリス。ダンセイニよりも神秘主義的と評されるその幻想小説を百年の時を経て集成した本邦初の単行本。

人は誰も宇宙の根源的な霊の一部、天の炎を内に秘めており、いつかその源に還るまで、魂を進化させることが人間の使命である――

東西の神話や伝説、音楽や色彩、動植物や鉱石、天の神秘と豊饒なる大地に題材を得て、詩情に満ちた文体で綴られた、読むことがそのまま喜びであるような体験を与えてくれる29の幻想物語。

ケネス・モリス  Kenneth Morris
1879年、ウェールズ生まれの詩人・作家・神智学者。1908年アメリカに渡り、神智学コミュニティで歴史と文学を教えながら、詩、論文、小説等を執筆する。ウェールズの伝承物語マビノギオンを題材とした長編 "The Fates of the Princes of Dyfed” と "Book of the Three Dragons"、トルテカ神話を基にした "The Chalchiuhite Dragon"、そして東西の神話や伝説に独自の解釈を加えた短編は古典的ファンタジイとして評価が高い。晩年はウェールズに戻り、1937年に逝去。

顔写真

(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Kenneth_Morris.png)

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東都西北、様々な意味において辺疆に位置する特殊版元です。新刊・近刊について編集・営業担当者が綴ります。