2年間のスペイン留学を終えて:ピカソに学ぶ模倣と経験の再解釈
2年間のスペイン留学が今日で終わり、後数時間後に新たな赴任地に向けて飛び立ちます。最初にマドリードについた2019年の7月末から2年少しが経つのかと思うと、すごく昔にも感じるし、名残惜しい気持ちもあります。サラゴサで1年間、グラナダで1年間、そして最後にマドリードで出発前の2ヶ月を過ごし、バレンシア、バルセロナ、アンダルシア、ガリシア、サンタンデール、バスクと色々な地方を旅行しスペインの多様な文化と生活を少しずつですが学ぶことができました。生活する中で、色々な理不尽さや話の通じなさに腹を立てたこともたくさんありますが、人々のカラッとした明るさ、前向きさ、優しさに何度も救われた2年間で、スペインのいいところも悪いところも含めて全部好きだなあと心から思います。
5年前の学生だった自分に、スペイン語を勉強してスペインに2年留学してその後に中南米に赴任になることを教えてあげたら、とってもびっくりすると思います。昔から、語学を一つ学ぶということは自分の中に新しい考え方やものの見方を取り入れることだと感じていましたが、この5年間、スペイン語、スペインというレンズを通して新しい世界、新しいヨーロッパの見方、新しいスペイン語圏世界の見方を学んできたように思います。そして何より、これからの人生でもずっと付き合っていくんだろうなと思えるような友人との出会い、とことんスペイン語の勉強に付き合ってくれた家庭教師、マスターのクラスで出会ったスペインやアラブのクラスメートたちとの出会いが、自分の中の価値観をより広くしてくれました。
これまでの留学経験や人生を通じて、新たな出会いや経験を得た時、すぐに自分の価値観が変わるというよりも、時間をかけて自分の中でその経験を咀嚼して自分のものに取り入れていくような感覚があります。何かを経験すること、新しい考え方に触れることはもちろん大事なのだけど、それをいかに自分の中に取り込むのか。
少し話は飛ぶのですが、先日最後にバルセロナに行った時にずっと行きたかったピカソ美術館に入りました。そこで、ピカソによるベラスケスのラスメニーナスの再解釈を行った作品群に出会い、つまり経験の再解釈っていうのはこういうことなのかもしれない、と心にとても残りました。冒頭に載せた写真がその再解釈の一つなのですが、そもそもベラスケスのラスメニーナスはマドリードのプラド美術館にあり、有名な作品なのでプラドに行くたびに何度も見たことのある作品でした。もちろんその作品自体も素晴らしいのですが、ピカソによる再解釈作品を見た時に、すごいすごいとは知っていたけれど何がピカソをピカソたらしめているのかという凄みに初めて触れられたような気がしました。
再解釈作品の中で、ピカソはラスメニーナスのなかのそれぞれの人物を切り取ったり、全体を描いたり、時にはある人物を描いたり描かなかったり、実際にはない物を登場させたり、と自由には見えるのですが、本家の作品を何度も何度も研究し自分の中に取り入れるという作業を行なっています。ラスメニーナスだけでなく、ピカソ美術館を見ているとピカソが時代によってその時代の色々な画家から影響を受けていることがわかるのですが、しかしそれでもそれぞれの作品はあくまでもピカソの作品であることが誰の目に見てもわかる。ただの模倣に終わるのではなく、しかししっかりと研究してそこから受けた影響を取り入れて、自分のものにする。私は絵を書くことはできないけれど、その模倣、再解釈、吸収、というプロセスはどの道にも通ずることなのではないかと思いました。
あっという間のようにも、長かったようにも感じられる2年間で、ここからまた自分の社会人生活の第2章が始まっていくのかと思うと不思議な感じがします。正直にいうと寂しさと不安が心の大半を占めていて、まだ楽しみを感じる余裕があまりないのですが、次の2年間もまた楽しいものにしていこうと思います!まずは無事にチェックインと搭乗ができますように!
記事を読んでいただきありがとうございます!日々の中で感じたこと、考えたことをつらつらと書きとめていきたいと思います。