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トラウマケアの基礎理論⑤ トラウマと発達障害

前回記事で、「トラウマインフォームドケアの射程は広い」と書きました。

個人的に私が「広いっ!」と思ったポイントをちょっと書いてみたいと思います。
今日は、「トラウマと発達障害」です。

特にADHDにフォーカスを当ててみたいと思います。

ちなみに前回記事はこちら↓


発達障害をトラウマから見る

発達障害とトラウマはどういう関係にあるのでしょうか?
ADHDにおいては、状態像的に特に重なり合うところが多いと考えられています。

発達特性とトラウマ、2つの複眼的な視点が必要

上の図は、
「兵庫県こころのケアセンター」HPの支援者向け資料、

・「ADHD?それとも子どものトラウマティックストレス?臨床家のためのガイド」

より抜粋しています。

リンクはこちら↓

重複がアセスメントを難しくする

多くの研究者は、子どものトラウマ症状がADHDと間違われることがあること、そして誤診のリスクが高いことを指摘しています。
これは、ADHDの症状とトラウマ関連症状には重複があるからです。症状を細かくみないかきり、子どものトラウマ症状とADHDは似たものに見えます。
たとえば:

・ トラウマを体験した年少児はADHDに類似した多動性や破壊的行動をみせることがある。

・ トラウマによる子どもの興奮・不安・イライラ・警戒などが多動と間違われることがある。
・トラウマを体験した子どもにみられる不注意は、実は解離の症状であるかもしれないし(現実感のなさや自分の体から遊離した感覚)、トラウマリマインダーを回避しているのかもしれない。

・トラウマを体験した子どもは、トラウマに関連する侵入的な考えや記憶(たとえばそのできごとが再び起きているかのように感じるなど)によって、混乱したり興奮したりすることがあるが、これはADHDの衝動性と類似する。

こうした重複する症状によって、正確な診断が困難となり、アセスメントだけでなく治療も難しくなる可能性があります。症状の発現時期が明確ではない場合には特にこうしたことが起こりがちです。

上記資料P.6より

ADHDはかつて「多動症」や「多動児」と呼ばれており、背景として両親どちらかのアルコール依存症や、ネグレクト、家庭不和などといった、本来家庭の持つ「安心・安全を提供するという場」という機能が働かなくなっている時に見られる傾向が強いことは指摘されていました。

過度なストレスによって、部分的に脳の萎縮が起こることは虐待の研究で既に指摘されていますから、神経発達不全とトラウマの間には、深い関係性が想定されても不思議ではありません。

トラウマのメガネをかけて見てみる

たとえば子どもが学校で、

・人の会話(あるいは授業)にぼーっとしている間についていけなくなる
・もの忘れ、物を失くしやすい
・先延ばしぐせ
・ハイテンションで活動的になる

などは、一見、ADHD的でありながら、トラウマのメガネをかけてみると、

・人と対面した時のストレスによる、脳内の微細な「凍りつき」(解離)
 →会話についていけない
・トラウマによる記憶への神経学的な阻害 →もの忘れ
・課題と向き合うことへの過緊張への「回避」 →先延ばし
過覚醒による感情コントロールのテーマ →ハイテンション

…と見ることも可能です。

そうすると、これらが「発達特性」で片付けられていた視点以上に奥行きが出てくることになります。
つまり、こころの傷つきによる「自分を守るために出ているトラウマ反応」として見ることもできる、ということです。

実際、私は臨床的にADHDとされた人とお会いして、トラウマインフォームドに立ってきちんと生育歴を尋ねてみると、愛着的な傷つきが頻繁に見受けられます。

また、「解離」のテーマがよく付随していることも印象的です。
(=こころの断片化が起きやすい)

そこにおいて、トラウマインフォームドでADHDを見ることは、

・トラウマのトリガーを一緒に探したり、
・もの忘れや会話の筋を見失う時期にも波があること(過覚醒と低覚醒の視点)
・グラウンディングで意識水準を「いまに戻す」
 →パフォーマンスを保つ
・感情調整やタスク整理によって安定化を図ることの提案
・自分を守るために出ている反応なのだから、本当は自分を責めなくて良いことを伝える

という別な介入のヒントを与えます。

(また症例研究ではEMDRによる記憶処理で、記憶機能の改善が見られるというデータもあり、今日深いところではあります。)

とかく発達障害という診断を受けたり、疑いの目を向けられるだけで、当人は深く傷ついていたり、自信をなくしてしまうこともしばしばです。変えようがない、と諦める前に、こういった視点もあってもいいのではないでしょうか、と私は思います。

トラウマへの過度な一般化は禁物ですが、薬物治療だけで完全にはこれらが改善しない(当事者感覚では6−7割くらいの改善、というのをよく聞く)ところを見ても、一考の余地があるのでは?と思ってしまう。

その他、もろもろのこと

ASD(自閉スペクトラム)については今回は深く触れませんが、
感覚の過敏性や、社会性、メンタライズのテーマ(他者の心の読み取り)には神経発達的な側面がもちろん関与してきますし、概して、ASDの傾向のある子は、平均的な人に比べ、鮮明に音や映像を覚えやすいという特徴があり、体験が残りやすくトラウマ化しやすい傾向にあります。

「よくそんな小さなことまで覚えてるね!」と親が忘れかけた頃に昔の出来事を話されびっくりすることもよくあります。(ありますよね?)

なので私たちが思っている以上に、周りから見たら小さなことでも、本人にとってはかなりなインパクトを伴って残っている、ということです。

(=ネガティブな出来事のフラッシュバックや、そこから気を紛らわすために頭を壁に打ち付けたり、自分の身体を殴ってみたり、といった自傷行為にも繋がりやすい)

…といったように、得てして子どもの問題行動や心配な様子は、「神経発達」という側面と、「トラウマ」が交差するところでもあるので、特性による難しさの部分と、トラウマ反応によるしんどさの部分を、個別にしっかり見ていくことが肝要かと思います。

アプローチの豊かさや深みをもたらすという点でも、私は発達障害へのトラウマインフォームドケアをお勧めしています。

…1つテーマを書こうとするだけでもなんだかんだ結構な量になってしまうので、一個ずつ小出しにしようかと思います。笑

続きはまた次回。


※子どもの問題行動をどう捉えたら良いかのヒントになる「トラウマインフォームドケア」については下記の著書も参考になります。
支援者の方にもお勧めです↓

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