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猫に気持ちを聞いてみた

猫の気持ちを確かめたこと、ありますか?

おそらくほとんどの人が、聞いて確かめたりはしないはず。鳴き声や仕草で察するのが通常だし、「それが醍醐味!」というのも否定しない。

でも、日常のコミュニケーションで計り知れない問題が起きたとき。人は猫の気持ちとどう向き合うべきか。

わたしは、人の都合で猫の気持ちを決めつけたくなかった。
猫の気持ちは猫に聞きたいと思った。

だからペンデュラムで、猫の気持ちを聞くことにした。

ペンデュラムとは日本語で「振り子」のことです。 かつてはペンデュラムを使って水脈や鉱脈を探り当てるために使われていました。

出典『ケンケンジェムズ』

ペンデュラムで気持ちを聞いたとき、ルナ(猫)はこう言った。


「さがしてほしい」



#1 わが家の愛猫を紹介します

わが家の猫の名前は『ルナ』。キジトラの長毛種で女の子だ。

体重は3kgと小柄で、食事の様子から見てこれ以上成長することはなさそう。人懐こくて甘えん坊な性格で、家族を虜にしている。

ルナは道端で保護した猫だった。当初の体重は1.5kg弱。わたしは最初、生後数か月だと思っていた。

ルナといいます

病院で聞いたところ、1歳は過ぎているという。
で、何歳くらいか尋ねたが「こればっかりはわからない」と言われた。
そういうものらしい。

ただ、老猫の可能性もあると言われたのには驚いた。

こんなに小さいのに?

ルナの歯はボロボロだった。口からは悪臭が漂う。若い猫でここまでになることは、あまり考えられないという。

先生によると、「もともと小柄な種類か、子猫時代に栄養不足で成長できなかったか、そのどちらか」ということだった。

栄養不足で成長できなかったのだとしたら…。想像するだけで胸が傷んだ。

#2 保護猫ルナとの出会いは道端で

わたしは近所でのウォーキングを日課にしていた。

5年前の6月のこと。学校帰りの小学生たち4~5人が、道端にしゃがみこんで輪になっている。よく見ると、子どもたちの中心に猫がいた。

あ。猫と遊んでいるのか。

わたしは微笑ましい光景を横目に通り過ぎた。と、後ろから「捨てられちゃったの?」という言葉が耳に飛び込んできた。

え?捨て猫?

ドキッとした。一瞬足をとめたけど、引き返して小学生の輪に入る勇気はない。そのままウォーキングを続けると、今度は子どもの母親とおぼしき声が聞こえた。

「触っちゃだめよ!!」
と声を張り上げている。

すかさず子供が
「触ってないもん!」と叫ぶ。

そのやり取りに、なんだか心がぎゅーって締め付けられた。

母親の気持ちもわからないではない。

でも、猫を心配する子供の気持ちは?
汚いもの扱いされる猫の気持ちは?


悲しい気持ちに包まれた。わたしの中にふつふつと考えが浮かんでくる。

捨て猫なら助けたい。
大人のわたしなら…それができる!

いいことを思いついたかのように一気に心が跳ねた。

でも…。
わたしは跳ねる心を押さえつけた。

***

わが家には8ヶ月前まで、一緒に暮らしていた猫がいた。失った悲しみは癒えていない。

わたしが猫を連れ帰っても、家族がどんな反応をするかと思うと不安のほうが大きかった。

#3 亡くなったわが家の初代猫

わが家には『夢俱(ムク)』という名の猫がいた。姉が知り合いから譲り受けた猫で、家族の一員だった。名前は姉が、画数まで調べるという気合の入りようだ。

というのも、念願かなって、わが家で初めて飼う待望の猫だったからだ。

うちにきたばかりの夢俱

わたしも姉も、幼い頃から猫が好きだった。近所の友達の家には猫がいて、それがとてもうらやましかった。

幼いわたしたちは、強硬手段に出たこともある。それぞれが、捨て猫を連れ帰ったことがあるのだ。

子供というのは純粋なものだ。気持ちが湧いたら行動までまっしぐら。

かわいい!
かわいそう!
助けたい!
連れて帰ろう!

途中でブレーキなどかかるはずもない。

でもすぐさま親に「離してきなさい」と諭される。
しゅんとする。
駄々をこねてみる。
しぶしぶ遠くに置いてくる…。

わたしも姉も、おんなじことをした。

***

夢倶を迎え入れたのは、わたしたちが成人した後だった。ついに両親が許可してくれたのだ。

そのきっかけは、姉がうつ病を患ったことだった。うつの原因を探る中で、根本は幼少期にあるとわかってきていた。幼い頃、気持ちをないがしろにされてきたこと。それでずっと自信がなかったこと。だから頑張りすぎてしまったこと…。

猫を飼わせてくれなかったことも、姉にとってはそのひとつだった。

夢倶を受け入れたのは、それを知った母の罪滅ぼしだ。

父のベッドが好き

夢俱は11歳で息をひきとった。急性膵炎だった。

ワクチンを打った翌日に元気がなくなり、それから5日後。あっという間のことだった。

最期は、夢俱の命がもう長くないということを受け入れて治療をやめ、自宅で看取る選択をした。唯一よかったのは、息をひきとる瞬間を、家族全員で見届けられたことだ。

ただ、夢俱にとってそれが良かったことなのかはわからない。家族に見守られながらではなく、静かにそっと、ひとりで息をひきとりたかったのかもしれない。

***

亡くなる前日、夢俱は歩くのもままならない足取りで家の中をさまよっていた。

数歩歩いてはコテンと倒れてしまう。


死に場所を探しているのだろうか…。

意識がもうろうとしている中、わたしたちに最期の姿を見られまいと、必死に隠れようとしていたのかもしれない。

でもわたしたちは、夢俱をひとりで逝かせたくはなかった。

だって、そんなの悲しすぎる。

わたしたちの思いが通じたのかどうかはわからない。夢俱は諦めたかのように、部屋の片隅に置いてあったテーブルの下に潜り込んだ。

冷たい板の間にうずくまる姿を見ていられずマットを差し込む。でも夢俱はマットに乗ろうとしない。

わたしはテーブルの下に体を潜り込ませ、マットに乗せようと試みた。でも狭いテーブルの下ではほとんど身動きがとれない。

夢俱、お願いだから…。

せめて柔らかいマットで休んでほしい。
でも夢俱を動かしていいものか。
触られたら苦しいんじゃないか。

そんな気持ちと格闘しながら、無抵抗の夢俱をなんとかマットに乗せた。

ぐったりして動けない

夜、もう長くないと悟った父が、夢俱への手紙を読み上げた。

夢俱はぐったりとして動かない。

「・・・夢俱、ありがとう!さようなら!」

そう言った瞬間だった。

夢俱は「にゃー」と声を上げ、力の入らない前足でふんばり立ち上がった。

「まだ生きてるよ!お父さん!」

ほんの一瞬だった。次の瞬間にはへたっと倒れ込んだ。

可愛がってくれた父に元気な姿を見せたかったのか。気丈に振る舞う姿に涙があふれた。

***

遠方で暮らしていた姉が、仕事を終え終電でかけつけた。

最期のときは降参したかのように、近くで寝ていたわたしたちの布団の上にいた。

語りかけるとしっぽだけが反応する。

「聞こえてるよ」

とでも言うように。

早朝、横たわったままの夢俱が突然、走り出すかのように足をバタバタとさせた。

猫は亡くなるとき、虹の橋を渡るという。

その姿はまるで、虹の橋を駆けていく姿だった。

***

それからわたしは、ペット葬をしている葬儀社に連絡した。

夢俱を色とりどりの花で包み込んで、お別れ会をしてあげた。

そして泣きはらした顔で、わたしたちは葬儀場に向かった。



夢俱は今、小さな骨壺に入っている。


日食を見ていた夢俱

壮絶な5日間を過ごして、わが家は憔悴しきっていた。思い返しては「なんで?」という言葉だけがでてくる。

老衰などではない。それまで普通に、本当に普通に過ごしていたから、突然の事に思考が追いつかない。まさかこんなにあっという間に亡くなってしまうなんて。

家族全員が、夢俱を失った悲しみを胸に抱えたまま、日常生活に戻るしかなかった。

***

それから3ヵ月ほど経ったころだったか。母が、夢俱はお姉ちゃんの猫だから、次はわたしの猫を飼ったらどうかと言った。

新しい猫を迎えるなんて考えられない一方で、夢俱が居ないさみしさを埋めたい気持ちも確かにあった。

ただ、これに強く反発したのが父だった。

「夢俱のことを忘れたのか!」

声を震わせていた。

わかる。わかるよ。
でもそういう意味じゃない。そんなはずがない。母だって夢俱を忘れられない。だからこそ、さみしいって話だよ。

それ以来わが家では、新しく猫を飼うなんて冗談でも言えなくなった。

#4 今日こそは…!

ウォーキングしながらも、子どもたちに囲まれた猫のことが気になっていた。

でも、今さら戻っても…。
わたしは家に帰った。

***

夕食のとき、わたしは家族に今日の出来事を話した。

「今日子どもたちが猫と遊んでいてね。でも『捨てられちゃったの?』とか言ってたから捨て猫だったのかもしれないんだよね。拾ってきちゃおうかと思ったけど・・・やめといたよ。笑」

冗談交じりに言った。

「そう…」

父も母も、それ以上の言葉は続かない。当然「保護してあげればよかったのに」とは言わない。

まぁ、一日過ぎればどこかに行っちゃってるだろうな。

そう思った。

***

翌日もわたしはウォーキングに出かけた。母も誘って。頭の片隅には、きのうの猫が浮かんでいる。

もし、もしもきのうの猫が今日も居たら、今日こそは…。

「きのうはそこを曲がった道の先にいたんだよ」と母に話しながら角を曲がった。

ドクンと胸が鳴る。



いる!きのうの猫だ!


猫は道路のど真ん中で縮こまって途方に暮れていた。

近寄ってみる。
目があった。
次の瞬間「にゃー」とすり寄ってきた。
わたしの足元をくるくるまわりながら頭をこすりつけてくる!

かわいい!!!!

一瞬にして心を鷲掴みにされてしまった!

よく見ると、長毛の毛は汚れてボサボサだ。目はうつろで、目やにがこびりついている。怪我もしているようだ。

そして開ききらない目で、必死に鳴き声をあげている。


助けを求めている!

すぐにわかるほど切羽詰まった様子だった。

目ヤニと鼻水でぐちゃぐちゃだ

きのうの子供たちも、この猫の姿を見れば捨て猫だと思っただろう。飼い猫のつややかさも、野良猫のたくましさも、どちらも持ち合わせていない。人懐っこさから考えればおそらく飼い猫で、外で生きる術を知らないのだと思えた。

「保護した方がいいよね?」
母に同意を求める。

「そうねぇ。とりあえず、キャリー持ってこようか?」
まんざらでもない様子の母に、ほっと胸をなでおろす。次のハードルは父か。

でも確信があった。
父が、助けの必要な猫を「捨ててこい」と言うはずがない。

父は猫が大好きなのだ。

#5 父の幼少期の愛猫と悲しい過去

父は子供のころ猫を飼っていた。名前は『タマ』。

父に懐いていたらしく、父が学校から帰ってくるのを土手の上で待っているような猫だった。寝るときは、父の布団で一緒に寝ていたという。

唯一残っているタマの写真

父は7人兄弟の末っ子。父親(祖父)は瞬間湯沸かし器みたいな人で、母親(祖母)は忙しく働いている人だった。幼少期、親に構ってもらえなかった父にとって、タマとの関わりは癒やしだったに違いない。

わたしの家族は今、家族に向き合わない父との問題を抱えている。それでも関わり続けるのは、父の奥底に愛情があることを知っているからだ。その愛情は、タマが育んでくれたものだと思っている。

父にとってのたまは、それほど重要な存在だった。

だけど、父はタマのことを思い出すのを嫌がる。わたしたちが猫を飼いたいと言うと、しきりに「死んだらつらいぞ」と言って脅す。

そこには、父の悲しい過去がある。

***

タマは長生きだった。父が高校を卒業し、就職するときも生きていた。

父は寮に入らなければならなかったから、タマとは離れ離れに暮らすことになる。それでも、帰省すればタマとの久しぶりの再会を楽しんでいたのだろう。

あるとき、タマを探すが見当たらない。

「タマは?」と母親に尋ねる。
「知らない」と一言。

父はあちこち探しまわって、ついに縁側の下で見つける。

タマはそこで、亡くなっていた…。

家族のだれも、父が大切にしていたタマのことを、気にもとめていなかった。タマはひとりで亡くなり、亡くなったことにも気づいてもらえなかった。

そのときの父の気持ちを思うと、胸が張り裂けそうになる。

***

父がタマのことを語りたがらないのは、それだけが理由ではない。

父は、タマが生んだ子猫を毎年川に流していたのだ。

昔は、猫を家の中だけで飼うことはなかった。もちろん、避妊手術をすることもない。タマも自由に出入りしていたから、毎年のように子猫を生んだらしい。

それを、幼い父が、タマのことを大好きな父が、川へと捨てるのだ。

どんなに、どんなにつらかっただろう。

父は父親に逆らえなかった。「捨ててこい」と言われたら、捨ててくるしかなかった。この体験が、父のトラウマになっている。

そんな過去もあって、父は猫を飼うことを嫌がった。猫が大好きなのに、つらい経験のほうが蘇ってしまうからだ。

#6 保護した猫を連れわが家へ

キャリーを持ってこようと提案する母に、わたしは「抱っこできそうだったらこのまま連れてく」と言った。

抱っこを嫌がらなければ、家までは5分少々だ。連れて帰れると思った。はやる気持ちを抑えながら、わたしはそっと、猫を抱き上げた。

よし、大丈夫だ。逃げなそう!

そもそも、逃げるほどの力も気力もなさそうだった。

猫を抱いたまま、わたしは母と家に戻った。父はどんな反応か…。

ひとまず、自宅の呼び鈴を鳴らす。父が扉をあけた。

「連れてきちゃった」
わたしがそう言うと、父の顔がほころんだ。

やっぱり!

痛々しい姿の小さな猫を見て、父は間違いなく受け入れてくれるだろうと思っていた。父は昔から、猫と赤ちゃんだけには無条件に心を開くのだ。

***

「とりあえず、どうしよっか。玄関あたりに入れてもいい?」
と聞いたら、ふたりにダメだと言われた。

え。ダメなの?
ここまで連れてきて、家に入れられないというハードルがあるとは。

おうちの中はダメだって

夕方で病院は終わりの時間だったため、ひとまずダンボールに毛布をいれて軒先に置き、翌日病院へ連れていくことにした。

わたしはすぐさまごはんを買いに行った。子猫に見えたから、子猫用のやわらかいフードを。与えてみたらペロペロと食べている。その日はそのまま、ひと晩外で過ごしてもらうことになった。

***


朝起きたら、いなくなっているかも。

猫を保護するという想像もしなかった出来事への興奮と、1日越しでせっかく保護した猫がいなくなってしまうのではないかという不安で、わたしはなかなか寝付けなかった。

***

翌朝、猫はダンボールの中にいた。ウトウトしながら、前足はふみふみの仕草をしている。ほっと胸をなでおろす。

さっそく病院に連れていき、シャンプーもしてもらった。ボサボサだった体はふんわりし、さらに可愛くなっている。怪我用の塗り薬をもらい、ようやくわが家に迎え入れることができた。

はじめてのわが家

#7 保護猫ルナの気持ちを知りたくて

わが家に再び猫がいる。わたしは興奮していた。ルナも安堵しているだろうと思ったけど、そうではなかった。

目はうつろで、フーッフーッと息づかいは荒く、ふみふみ、ふみふみ、ずっとウールサッキングをしている。「疲れないのかな」と心配になるほど一心不乱に踏み続ける姿は、痛々しくもあった。

ふみふみし続けるルナ

大丈夫だよ。落ち着いて。

そんな気持ちで抱きあげると、顔をこすりつけて甘えてくる。

この子にはぬくもりが必要なんだな。
そう思った。

ルナは、気づくと部屋の隅っこの床の上で寝ている。「ここにいていいのかな」と遠慮するように。

それからしばらくの間、わたしはルナにつきっきりで愛情を注いだ。

***

一方で、この子には飼い主がいるのではないか。という思いがあった。

捨てられたのではなく、間違って脱走して帰れなくなっただけだったら…。こんなに懐っこくて可愛い猫だ。飼い主も必死に探しているに違いない。

ひとまず、わたしは警察署に届け出た。こういうとき、猫は「拾得物」扱いになるらしい。なんか複雑だけど仕方がない。

「3ヶ月経って飼い主が名乗りでなければ、所有権があたなになります」
ということだった。

さらに市役所にも情報提供をし、県の保護猫サイトにも情報を掲載してもらった。

これで飼い主が名乗り出てこなければ、うちの猫ってことでいいよね。

そう思いつつも、ルナはどうしてあそこに居たんだろう。どこに住んでいたんだろう。連絡を待つだけでいいのだろうか。

…そもそも、ルナはどうしたいんだろう。
という思いが頭の中を駆け巡る。

そこでわたしは、ルナに聞いてみることにした。

ペンデュラムを使って。

***

普段スピリチュアルとは無縁なわたし。困ったときの神頼みだ。

わたし自身はスピリチュアルにうといけど、わたしの周りにはスピリチュアルに詳しい人がいる。筆頭は姉だ。

わたしは姉と姉の友人に助けを借りて、ルナの気持ちを探ってもらった。

ペンデュラムの結果はこうだった。

  • 飼われていた

  • 外をさまよって2ヶ月くらい経つ

  • 西の方面と関りがありそう

  • 元の飼い主を探して欲しいと思っている

「飼い主をさがしてほしい」…か。

これには複雑な思いだった。もうすでに、手放せないほどの愛情が芽生えてしまっていたからだ。

でも、それがルナの気持ちなら…探さないわけにはいかない。

***

わたしは「猫をさがしています」という情報が寄せられている掲示板を、片っ端から見てまわった。県内の掲示板にはそれらしい情報がなかったから、隣県のサイトも見た。

そこに掲載されている写真に、心臓がバクンと波打った。


似ている。

見つけてしまったかもしれない。

動揺を隠せなかった。



ふぅ。
ひとまず気持ちを落ち着かせる。

掲示板情報は数年前のものだから、もう見つかっているかもしれない。
それに、わたしの住まいは県境でもない。猫が他県からここまで来るだろうか。

などと、同一猫ではない可能性を列挙した。

でも、ルナは「さがして」と言っている。それらしい情報を見つけたのに連絡しないわけにはいかない。

わたしはサイトからメールを送ってみた。すると2~3日して返信が帰ってきた。「まだ見つかっていないんです」と興奮した様子で。

そこには迷子になった経緯から、すごく探し回ったこと、今でも忘れることができないという気持ちなど、猫への思いがつづられていた。それは、いなくなった猫への愛情が痛いほど伝わってくるメールだった。

***


ルナとの生活が終わるかもしれない。


そう思うと、手放したくない気持ちがわいてくる。でもこの人がルナの本当の飼い主さんなら…。

手放したくないけど…

とりあえず、掲示板の写真では情報不足だったため、他の写真も見せてもらえるようお願いした。わたしも、ルナの写真を送って確認してもらうことにした。その結果…






違いますね。

ということになった。

期待させてすみません。と謝罪しつつ、わたしは安堵していた。このやりとりでくたびれてしまったわたしは、積極的捜索を断念した。

情報は掲載しているし、飼い主さんが探せばたどり着けるはずだった。連絡がないということは、何か事情があるか、捨てられたかだろう。そう思うことにした。

その後どこからも連絡がないまま3ヵ月が経過し、ルナは晴れて、わが家の一員となった。

ごめんルナ。見つけてあげられなかった。
うちの子になってもらってもいいかな。

ルナにはそう伝えた。ペンデュラムで確認はしていない。

お気に入りの出窓

今でも「さがしてほしい」というルナの言葉を思い出す。
「さがしてくれたからいいよ」。そう思ってくれているだろうか。

#8 二度目のペンデュラム

ルナは分離不安症と思われた。

最初は、どこに行くにもついてくるルナがかわいかった。でもその様子は、好きだからついてくるというより、「置いて行かれるのが不安」という感じだ。ふみふみも相変わらず。精神的に不安定な状態が続いている。

分離不安症について調べると、こう書かれていた。

  • かまいすぎないほうがいい

  • 少しずつひとりにする時間を増やして慣らしたほうがいい

…これは、過酷な環境で不安な日々を過ごしたルナに追い打ちをかけるのでは?でも、それがルナのため?

なにがルナのためなのか、迷うわたしに獣医さんがサクッと答えをくれた。

「かまってあげればいいと思いますよ」

先生のすがすがしいまでの即答に、心のモヤが一気に晴れた。

そうだよ。ルナは構って欲しいんだから、満足するまで構ってあげればいいじゃん!

それからわたしは、ルナの心が満足するまで構ってあげることにした。
ルナも満足。わたしも満足。win-winじゃん。なにを悩んでいたんだろうって。

高いところにものぼるようになった

かかりつけの動物病院の先生は、とてもサバサバしている。気持ちに正直な感じで、わたしは絶大な信頼を寄せている。なにより、人間より猫の立場を優先して考えるところが好きだ。

避妊手術を相談したときもそうだった。

***

ルナは最初の病院で、「避妊手術済み」だと言われていた。それも飼い猫だという考えを裏付けるひとつだった。

なのに、発情期がきたのだ。

なんで?????

調べてみると、避妊手術後も発情することはあるらしい。でも、病院であらためて見てもらうと、子宮が残っているということだった。手術痕も見られないことから、避妊手術はしてないだろうとの見解だ。

前の病院は、筋肉などに触れたときに、手術跡だと勘違いしたのではないか。とのことだった。

で、ルナは手術をすべきかどうか。先生に尋ねた。

先生はこう言った。「避妊手術をするのはどちらかと言えば人間のためですからね。とくに困っていないならしなくてもいいと思いますよ」と。

ごもっとも!!相変わらず猫目線の潔い回答!

避妊手術も人間の都合なんだよね。結局。避妊手術を推奨する風潮に、何も考えずに流されてはいけないなと思った。猫が妊娠して子どもを産む権利を、勝手に奪っていいはずがない。

そもそもルナは年齢がわからない。手術に耐えられる体力があるのかどうかが疑問だったのも、先生があえて手術を勧めない理由のひとつだった。

しかしわが家はその後、ルナのスプレー行動に振り回されることになる。

困り果ててオムツをしたことも。

体重的にも精神的にも正常ではなかったことが影響したのか、はたまた老齢のせいなのか、発情期がとまらない。長いときは7ヶ月、延々と発情期が続いた。これにはさすがに人間が困ってしまった。

ただ、ルナも苦しそうだった。

人間の限界も相まって、避妊手術を考え始めた。そもそも、人間の都合で家の中で飼っている。だから発情しても、それを発散することはできない。それは拷問に近い行為かもしれないと思えた。

もしルナが苦しいなら、避妊手術をしてあげたほうがいいのかも…。という考えが浮かんでいた。

それでもまだ不安だった。ルナの本当の気持ちがわからなかったからだ。

***

これが二度目のペンデュラムだった。

自分が扱えるわけではないから、おいそれとは使えない。重要な局面で、理由を話して協力してもらうしかない。姉は遠くに住んでいるが、帰省すればルナを可愛がってくれる。わたしの頼みにも快く協力してくれた。

まず聞いてみた。
「避妊手術をしたい?」

答えは「わからない」だ。
それもそうか、ルナは避妊手術がなんなのか知らないもんね。

気を取り直して次。
「手術は怖い?」

これも答えは「わからない」
・・・手術、したことないもんね。

うーん。そうだな。一番聞きたいルナの気持ちは・・・あ!

「発情は苦しい?」

答えはYESだった。

これでわたしの気持ちは固まった。ルナが苦しいのなら手術をしよう!

避妊手術後

ルナを保護して4年目。去年の冬のことだ。

#9 落ち着きを取り戻したルナ

避妊手術をしてからというもの、ルナはすっかり落ち着いた。

スプレー行動もなくなって、なかなか増えなかった体重も増えた。避妊手術をすると太りやすくなるというけど、ルナはこれでようやく、先生に言われた標準体重になった。

発情もなくなったせいか、精神的にも安定したように見える。

ときおり、寝起きに突如、不安症状がでる。目が覚めてボーっとしていると、「寝ている間にひとりぼっちになっちゃった」みたいな不安に襲われるのかもしれない。

そんなときは、落ち着くまでハグしてあげる。

ルナはわたしの首元に顔をうずめ、前足は肩をしっかり掴んでいる。まさに恋人同士のハグだ。喉をゴロゴロ・・・というよりバリバリ鳴らす様子は、不安と緊張で心臓がバクバクする様子とリンクする。

ところが満足すると突然、「やめてー」とでもいうように前足でわたしを突き放す。そして逃げるようにわたしの腕の中からいなくなる。



猫ってほんとツンデレ。
でもそこが好きだ!

お読みいただきありがとうございました。


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