【連載】家族会議『幽体離脱だとして』
「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の家族会議。2020年1月6日から約4ヶ月に渡って行った会議の様子を、録音記録をもとに書き記しています。
前回の記事はこちら。
家族会議26回目#5|幽体離脱だとして
――今回の家族会議では、母が、「自分の子育ては精神的虐待だった」と気づいたことを話してきた。
母がそう気づいた過程には、「美容室でのエピソード」がある。
姉が3歳の頃、母は自分が美容室に行くときに姉も一緒に連れて行った。
そこで騒がれると困ると思った母は、おとなしくしているよう事前によく言い聞かせていた。
たった3歳の姉は、その言いつけを守ってじっと座って待っていたという。周りには同世代の子供が数名いて、遊んでいたというのに。
母は、そのときの姉の立場に立ってみた。そしたら、紐でしばりつけられているような感覚だったらしい。動けない。喋れない。
これは、精神的虐待だった‥‥と。
自責の念にかられてしまう母だけど、自責するだけじゃダメなんだと葛藤している。
そんな母にわたしは、「相手の気持ちを忘れないってことじゃないかな」と伝えた。
そんな話をしてきてそろそろ終わりにしようかと思ったとき、約1時間近く、ずっと黙っていた(たまに寝ていた)父が口を開く。
父:
大体その辺で、言い尽くせてるんですか?
母:
そうだね。
父:
じゃあちょっと、質問をするから聞かしてくれる?この話は、何回か聞いたことある。あなたからね。
母:
今回に限らず、昔も?
父:
昔。美容院のときの出来事ということで。
母:
お姉ちゃんは大きくなってからでしょ?
父:
いや、お姉ちゃんが小さいときに。
母:
小さいときに?どんなこと言ってたの私。
父:
なんか、やっぱりお姉ちゃんは立派だって。
母:
あ、立派だって言ってたんだ。
父:
よその子騒いでんだよ。じーっとおとなしくして我慢してんだよ。そのとき俺も「そうか立派だな」と思ったもん。
だから同じだったんだな。っていうのがわかった。
母:
同じってなにが?
父:
俺とあなたは同じ。度量の小さい人だと。
あとその幽体離脱みたいにさ、私の気持ち、心をお姉ちゃんに持ってくっていうの、何それ?どうやってできんの?
――幽体離脱って‥‥笑
母は姉の本当の気持ちを知るために試行錯誤していた。そこでふと、姉に自分を憑依させるようにイメージしてみたら、今までにない視野が開けたという話だ。
母:
イメージだなぁ
父:
イメージ。
母:
それをイメージするみたいな。
父:
ふーん。イメージしたらそういうふうに見えるっていうことなの?
母:
今までも相手のことを考えてるつもりだったんだけども、今回のようなことをイメージしたら違うものが見えてきたから、今までのは、やっぱ自分が想像した。これも私のイメージの中に出てきたからだけど、でもこれは自分が作ったというよりは感じたって感じなんだけど。ずっと今までは、こっち側から「こうだろうな」みたいな感じ?だからなんか浅かった。浅いってことかなって。
父:
で、相手に乗り移って、自分も見たり、乗り移った後の自分を見たり、あるいは相手のことを考えてみたりということだよね。
母:
うん。
父:
ところでこれいつ頃の話なの?
母:
いつ頃ってどういう?
父:
この幽体離脱みたいな話は。
母:
いや2,3日前の話。
父:
直近の話なの?ほぉ。
そうすると家族会議をやって、こういうことに気がついて、ほーほーほー。
母:
最近お姉ちゃんと電話で、うまく話ができなかった。
っていうことが続いて。泉にもいろいろ言われて。もっともっともっとよく考えてるんだよって言われて、もっとよく考えるってどういうことだろうと思って、こんなふうにしてみたらどうかなって思って、やってみた。
父:
話聞いてて、立派だなと思ったわ。本当に。
母:
だって、泉、本当によく考えるんだもん。
父:
実務はいいけど、気持ちなー。このアンバランス。俺なんか、気持ち子供までいってないかもしれない。
だから今の話聞いててすごい。すごいすごいすごいしか。なかったな。
母:
これで全てどうかなるというものではないと思うけど。
父:
気持ちねえ。
母:
気持ちっていうか、誰でもいろんなこと感じてるんだと思うよ、お父さんだって。感じない人じゃなくて感じてると思うよ。
父:
感じてるつったって、気持ちがないと自分でも思ってるもの。子供だって。
母:
自分の気持ちを出さない。訓練を、ずっとしてきたんだと思うよ。それは私もだけど。
わたし:
‥‥終わりでいいの?
母:
うん。
――途中、うつらうつら寝ていた父が、最後に批評してくる感じにむかついていたのだろう。わたしは父の発言にノーコメントを貫いた。
そもそも父が、自分の振り返りを嫌がり、母の話を進めて行こうということでもあったから、突っ込みたくても突っ込めなかったのだけど。
― 家族会議26回目おわり ―
人の気持ちがわからないことを指摘されてきた父は、ずっと、人の気持ちがわかる画期的な方法を探している。幽体離脱は、父にとって画期的な方法に思えたに違いない。
そもそも幽体離脱ではないし、母が幽体離脱できたのだとしても、それはわかりたいという強い欲求があったからだ。
わかりたかったから、試行錯誤をした。その結果、目をそらしたくなるような自分を見つけてしまった。
‥‥父が幽体離脱できたとして、自分の現実を目の当りにしたら、きっと見なかったことにするだろう。
姉の痛みだって、感じられないと思う。
もしくはぼーっとその光景を眺めて、自分の都合のいいように解釈するだけだ。
<次回に続く>
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