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第6話「神様はスローモーション」

時間早送り研究所の博士は長年の研究をついに完成させました。

「博士おめでとうございます。」

「ああ、研究室でブンブン飛んでいたハチを捕まえたくて始めた研究が、まさかの大理論の発見につながるとはな。ハチの世界では、我々の動きは超スローモーションで見えている。小さいものは大きいものよりも時間が早く進む。時間早送り理論じゃ。」

「博士、それでこの巨大な装置はいったい?」

「うむ、助手君、最近起きている不気味な現象は知っているな?」

「はい。大地を裂くかのような大きくて低い、ごーーーーーーーーって言う音が、世界中に鳴り響いています。まるで地球が悲鳴をあげているような」

「そうじゃ、それをこの装置を使って解決するのじゃ」

「と言うと?」

「多分この音は何らかのメッセージじゃ。ワシの解析ではこうなる。

オ……、オ……、イ……、キ……、コ……

「これが何を意味するかまだわからんが、地球からの、いや神様からのメッセージかもしれん。助手君、もし未来に行ければ、解決できると思わんか?」

「未来に行けるんですか?」

「残念ながら、未来に行くことはできんが、この装置の中で時間を早送りすれば未来が早く来る。我々よりも進んだ文明が生まれるはずじゃ。小さいものは大きいものよりも時間が早く進む。我々を小さくすることはできない。そこで、小さな動物に我々の知能を与え、この装置の中の時間を早送りすれば良いのだ。」

「何だかよくわかりませんが、すごそうです」

「まずはネズミを使ってみよう」

博士の作った巨大な装置の中で、知能を与えられたネズミ達は、すごいスピードで進化を始めます。

「見ろ、すごい勢いで世界が進化していくぞ。二本足で立ったぞ、畑を耕しはじめた。村ができたぞ。村と村が争いながら大きくなっていく。国ができた。」

博士の巨大装置の中で、ネズミ文明はどんどん進化して行きます。

「文字もでき、電気も発明し出したぞ。コンピュータの登場だ。インターネットのようなものができてきたな。さぁ、ここから我々がまだ目にしていない未来の世界が展開するぞ。おや、君、見たまえ。このネズミの科学者と助手、私たちにそっくりだぞ。」

博士と助手は、ネズミ文明の中で自分たちとそっくりな二匹を見つけました。

「驚いた、時間早送り装置を使って未来を見る実験を始めたぞ。これは面白い。ちょっと声をかけてみよう。おーい、聞こえるか?」

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ゴーーーーーーーー

オーー、オーー、イーー、キーー、コーー

ネズミの博士と助手が話しています。

「博士、また不気味な音が」

「うむ。神様からのメッセージかもしれん。それをこの装置を使って解明するのじゃ」


ナレーター&文 佐々木健

解説

虫から見たら人間はスローモーション。ならば地球や神様も人間から見たらスローモーションに見えるはず。神様が人間に「えーと、ごほん、あ、あ、私は神様じゃ」ここまで喋るのに10分かかったら人間には、もう聞き取れないんじゃないかな。そんな発想から生まれた話です。星新一さんやハヤカワ文庫のSF作品が好きで読んでた影響が出てますね。J.P.ホーガンの話の中に、宇宙で通信を受診するのに、一語一語届くのにすごい時間がかかって、その間に何世代も過ぎているみたいな話があったように記憶している。昔読んで、いまだにその不思議な感覚や視野が広がった感覚は残っている。そんな不思議さが出せたらいいなぁ。
ナレーターが書いたお話なので、読んで楽しいものにしたいなと言うこともあり、ラストは遊んでいます。音声もぜひお聞きください。

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STORYTELLER BOOK -優しい時間-は、
ナレーター佐々木健が、2-3分ぐらいで聞ける「優しい時間」をお届けしたくて作り始めました。作家さんや一緒に作ってくださる方募集中です。あなたの作った文章を読ませてください。写真や音楽、SE、映像編集、イラスト作成などなど協力してくださる方も募集しています。よろしくお願いします。

佐々木健プロフィール
http://aksent.co.jp/blog/200/post_55.html

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