今は自由にソラを飛べるはず
「僕は、ソラを飛べるんだ」
小4の彼は、塾の玄関でそう言った
そして、彼は、ソラを飛んだ
両手をバタバタさせ、ジャンプ
彼がソラを飛んだ瞬間だった
私とT先生は、お互いの顔を見合わせた後
幼子を見るような満面の笑顔を彼に返した
1年半後、彼は中学受験を希望した
保護者を前に、私は、確かこう言った
「今までよりも勉強が難しいのは当然で
精神面でもかなり厳しくなります
この1年で3回、受験を辞めたがるかも」
だが、彼の夢とご家庭の考えは、決まっていた
私も、腹を括った
小5(新小6)の2月、ホンキが始まった
ミッション:『11カ月』
11ヶ月間で中学受験を目指すコース
***
なお、この『11ヶ月』間の彼との話は
あまりにいろいろな困難があり
あまりにいろいろな試練があった
あまりに印象的な泣顔があり
あまりに印象的な笑顔があった
だから、ここでは割愛。いつかまたどこかで
***
2月、受験を終えた彼は、塾の玄関にいた
私は、彼を試すように言った
「覚えてる?昔、そこでソラを飛んだんだぜ」
「そんなことしてないよ」
彼は、苦笑いを浮かべた
本当に覚えていないのかは、彼だけが知る
T先生は、私の後ろで、あの時と同じような笑顔
5年の月日が流れる
先週、彼の母親に偶然、道端で出会った
「〇〇も、もう高2ですよ。早いですね」
「本当に早いですね」
私は、1つのことを思い出した
その日、私は久しぶりにそこを見上げた
毎年、受験生のメッセージが掲げられる場所
小6の彼が書いたメッセージが
今もそこにある
「 ソラへ 〇〇 」
彼は、夢の志望中学に合格
彼は、ソラをきっと飛び続けている
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