ミスチル 『くるみ』の記憶
先日ラジオをつけたら、偶然にもミスチルの『くるみ』が流れてきた。聴いているうちに、懐かしいあの頃の記憶が鮮明に甦ってきた。
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高校生だったあの日、学級委員だった私とNくんは教室に残って、2人で作業をしていた。
ふとNくんのスマホの画面がチラリと見えて、4人の男性が写し出された。
「その待ち受けの人たちって誰?」
「ん?ああ、この人たち?ミスチルだよ」
その時初めて彼がミスチルファンであることを知った。ミスチル好きな両親の影響で、子どもの頃からずっと好きなこと。同世代にはミスチルがそれほど聴かれていなくて、話をできる人がいないこと。
流石に名前くらいは私も知っていた。でも、私には知っている曲がほとんどなかった。
「HANABIくらいしか知らないな」
「みんなそういうけど、もっといい曲たくさんあるんだけどな。……聴いてみる?」
一瞬躊躇った後で私が頷くと、Nくんはイヤホンを取り出して、片方の耳を差し出した。
「俺が1番好きな曲なんだけど」
そう言って再生ボタンを押し、音楽が流れ出してきた。アコーディオンのような出だしが印象的でおしゃれな曲だな、なんて思っていたら、
ねぇ、くるみ
と突然自分の名前を呼ばれて、私はふいをつかれる。歌の中で何度も私の名前が呼びかけられるとは思ってもみなかったので驚いた。
その曲は、出会いと別れを語りかけるように歌っていた。希望の数だけ失望は増える、という歌詞が印象的で、少し寂しい感じのする歌だった。
曲が終わった後で、
「これって、私に向かって歌ってるのかな?」
と言って私は笑った。
ねぇくるみ、から始まるこの歌が好きという彼が、私のことも好きって遠回しに言ってくれているように感じて、少し嬉しかった。くるみ、と歌うその曲が気になった私は、何度も繰り返して聴いた。その度に、この曲を教えてくれたNくんに、曲越しで私の名前を呼ばているような感覚になって思わずドキドキした。
その他の曲にも興味を持ってミスチルを聞き始めたら、気づいたらミスチルを好きになっていた。それと同時にミスチルが好きな彼のことも好きになっていた。
「私もミスチルが好きになった」
そう言うと、Nくんは今までに見たことがないくらい嬉しそうな表情を見せた。それから、私たちはミスチルの話をたくさんした。
ある日、Nくんから「この曲知ってる?」というLINEとともに、ある曲のリンクが送られてきた。それは、「君が好き」という曲だった。私はその曲をまだ知らなかった。送られてきたリンクに飛んで、聴いてみる。割と静かな曲調で、ストレートに好きという思いを歌っているのが心に響いた。「知らなかったけど、いい曲だね」と返信した。すると、Nくんから返ってきたのは、「この曲が今の俺の気持ち。俺は、君が好き」というメッセージだった。彼が私と同じ気持ちでいてくれたことと、ミスチルの曲を経由して思いを伝えてくれたこと。驚くとともに、私はただただ嬉しかった。
***
付き合うようになってから、数え切れないほど彼は、くるみ、と私の名前を呼んだ。その声を私は未だに忘れることができない。
君のいない道の上を歩くことになってしまったけれど、「くるみ」を聴くたびに彼が私のこと思い出していてくれていたらいい。その曲のように、「ねぇ、くるみ」って、また私に呼びかけて、私との日々を振り返ってほしい。