石の瞳の沈黙
ブルックリンのDUMBO地区。古いレンガの建物の窓越しに、御影石のブルックリン・ブリッジと目が合った。
「ヤー」。「こんにちは」。
石の瞳は、優しい声で話し始めた。
最近は、ニューヨークの建築物も変わったよ。なんといっても資材がね。ガラスのビルが多くなった。分かるよ。直線の美しさもそれなりに。シャープさと賢さ。そしてコストを考えれば、今時、レンガや石でビルを建てるなんて無理だってことは。
でもさ・・・。
石はいいだろう? そのぬくもりと、安心感。どうだい、わかるだろう? 地球の中、深い所で石は生まれたんだ。どれくらいかかって石になったか、自分でも分からないくらい長い年月の中でさ。石なんて、どこにでもある、なんて考える人もいるけれど、本当はそうじゃない。地球が奇跡の惑星なら、石もその一部ってことを覚えておかなけりゃいけないんだ。
そう言ってから、石は目を閉じた。もう声は、聞こえなかった。
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