見出し画像

川に流されて生き延びた話<体験談>⑤

なんとか滝のループから逃れることができましたが、僕の体力はかなり削られました。
どうすることもできない中、流れに身を任せるしかありませんでした。

「いったいどこまで流されるのだろうか?」
「この先乗り越えることが出来なければ僕は…助からないのではないか?」
不安がよぎる中、岩を避けながら体力回復に努めていました。

途中、横に泳いで岸にたどり着こうと何度か試しました。
しかし岩場の多い山奥では油断してると岩にぶつかってしまうため、避けることで精いっぱいです。
上陸できそうな場所を目指して泳いでもたどり着く前に流されて通り過ぎてしまいます。
体力を使いはたし泳ぎつかれると、気が付けばまた川の中央に引き戻されてしまい、成す術がわかりませんでした。

そこで考えたのが、岩につかまれば止まれるのではないか?ということです。
すぐに実行に移しました。

岩は当たるととんでもない衝撃で、ダメージを追う可能性があることを今までの経験で学んでいたのでうかつにには近づけません。
流れが比較的穏やかなところに突き出た岩があればと思い探していると、ありました。

それでも岩の近くの流れは複雑でなかなかうまく抱き着くことができません。
なるべくまっすぐに抱き着かなければ、川の流れに負けてしまいます。
何度目かのトライで成功しました。

岩に近づく手前から川の流れと逆に泳ぎだしてスピードを遅くします。
抱き着く直前は泳ぐことはできません。
「どんっ!」
よそ見してたら電信柱にぶつかったくらいの衝撃でした。
一瞬星が飛び、全身を走る痛みと衝撃に耐え、僕は岩にしがみつくことができました。

実は失敗のたびにこの衝撃に耐えていました。
つかまっても角度が悪かったり、岩の形によってはうまくつかまることができませんでした。
何度もあきらめかけましたが、とうとう成功しました。

岩につかまると後ろから押し寄せる川の流れに押され、横にそれまいとバランスをとりました。
頭の上から下から容赦なく水が降り注いできて、呼吸をするのがやっとです。
へとへとだった僕はそれでも助かりました。
体力と呼吸を回復できました。

そこで僕は考えていました。
「このままここで助けが来るまでとどまろうか?」
「こんな山奥まで助けは来てくれるのだろうか?」
「いや待て?上から下から水をかぶり続けている僕はそもそも周りから見えているのだろうか?」
その場で僕は大声で「助けてー!」と何度も叫んでみました。
川の音は激しく、水しぶきであたりの景色も見えず、いったいどんな山奥かもわからい場所で。

誰の反応もなく、むなしい気持ちになりながら、数分を過ごしました。
「いつ川の流れが変わり呼吸ができなくなるかもしれない環境で身を置くのはかえって危険かもしれない。」
「しかし、この先に進んでもさらなる危険が待っているかもしれない。」
葛藤の中僕は決断しました。
「先へ進もう!」

そう決断した後にある疑念が生まれました。
「川の流れに押し付けられているが、これ動けるの?」
「もしかして張り付いたまま動けないんじゃないか?」
それでもやってみるしかなく、体力も呼吸も万全です。

予想は的中していて水圧に押され、さらにじっとしていたこともあり体がかじかんでいました。
うまく抜け出すことができません。
しかし、なんとか岩から体をずらすことができて、いよいよ岩ともお別れです。
そのあとは流れのままに再び流されていきました。

体力、呼吸ともに回復し、さらに川の危険察知にも慣れてきた僕はようやく広い河原のある比較的流れが穏やかな場所にたどり着きました。
ここで横に泳いで岸まで行こうかどうしようか思案していました。
川幅が広くなっていたことと、今までの失敗がよぎりあきらめようかと思っていたところで目に入ってきたのは、河原の上にある堤防でバーベキューをしている大人たちでした。

男女7、8人だったでしょうか。流されてから初めて見た人に希望をもらい、精一杯叫びました。
「助けてー!」「助けてー!」
川の音のにかき消されたのか、距離が遠すぎるのか、まったく反応がありません。
こちらには彼らの楽しそうな笑い声が聞こえているのに…

しかし、僕が流されながら彼らの真横に来たくらいでその中の女の人が、「何か聞こえない?」
「え?助けてって聞こえる!」
そして川のほうを見ながら「どこ?」という声が聞こえてきました。

頭くらいしか出ていない僕を遠い距離から見つけるのは難しかったのでしょう。
男性の声で「気のせいちがう?」という声も聞こえてきました。
その直後「子供が流されてるー!」
とうとう発見されました。

河原を川に向かって急いで走る大人が4、5人見えました。
僕はようやく助けてもらえると思い、回復した体力をフルに使い泳ぎに泳ぎました。

河原を走る大人たちがよたよたと走りにくそうに近づいた来ます。
僕は大人たちに近づこうと流れに逆らって泳ぎました。
大人たちが川にたどり着いたころ、さっきまで真横にいた僕は流されてしまっていました。
それでも大人たちは川に飛び込み僕を追いかけて泳いできてくれています。

少しずつ近づいてきてる。もう少し、もう少しで助かる。
僕は無我夢中になって泳ぎました。
その時先頭を泳いでいた大人が叫びました。
「無理だー!」
「がんばれー!」
こう言って泳ぐのをやめてしまい。方向を変えて、元居た場所に向かって帰っていきました。

そんな馬鹿な。
なけなしの体力を使い果たし、たどり着いた結果は希望から絶望でした。
流れの穏やかな河原をすぐ横に見ながら体力がなくなった僕は、枯葉のように浮かぶだけでただ流れるしかなかったのです。

河原を通り過ぎるとまた山の中に突入しました。
山の中は流れが速く、岩場も多く、体力を回復させるだけで精一杯でした。
そんな中、「あの岩つかまれそうだなー」などと眺めていると、とんでもない危険に気づいてしまいました。

見えている岩の裏にはさらにほかの岩があり、岩と岩の間は水流がとても速く、そして複雑で、もし飲み込まれでもしたらとても抜け出せそうにもありません。
挟まれて、そのあとは…
僕はぞっとしました。

これまで何度も岩にしがみつくために、似たような岩場に近づいていました。
これはとんでもなく危険かもしれません。
僕は運よく何事もなかったのですが、川に流された際は気軽に岩に近づかない方が良いと思います。

そうこうして、ようやくある程度体力が回復してきたところで、目の前に何度目かの滝が現れました。

つづく

ここから先は

0字

僕の祖父は昭和12年9月から昭和15年4月までの支那事変従軍日誌を残してくれました。 行軍約1000…

スタンダードプラン

¥500 / 月

この記事が参加している募集

よろしければサポートお願いします! いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!