幼馴染という存在
幼い頃からずっと一緒にいた。彼と出会ったのは、小さな村の祭りの日だった。祭りの喧騒の中、ぼんやりと漂う夏の風に背を押されて、僕は迷子になりかけていた。そんな僕を助けてくれたのが彼だった。
「一人か?親とはぐれたのか?」
彼はいつも冷静で、僕とは違って落ち着いた雰囲気を持っていた。その大きな手が僕の肩に触れるたび、不思議と安心感が広がっていった。年上の彼は僕にとって兄のような存在であり、同時に守られているという心地よい感覚を与えてくれた。
その日以来、僕たちは常に一緒にいた。彼の家は僕の家から歩いて10分ほどの場所にあり、学校の帰り道や休日は一緒に遊び、時には秘密基地を作ったり、川で泳いだりした。
中学生になってもその関係は変わらなかった。彼はいつも僕を引っ張ってくれ、迷うことなく道を示してくれる。僕にとって彼は、誰よりも信頼できる存在だった。
微妙な距離
そんな彼との距離が、少しずつ変わり始めたのは、高校に入ってからだった。クラスが別れ、部活動や新しい友人たちができると、自然と一緒に過ごす時間も減っていった。それでも、時折二人で出かけたり、家に遊びに行ったりすることはあった。
しかし、彼の目が何か別のものを見ていることに、僕は気づき始めていた。彼の視線が僕以外の誰かに向けられるたび、胸の奥がちくりと痛んだ。
「お前、最近どうした?なんか様子が変だぞ」
彼が僕に問いかけることが増えた。僕はいつもの笑顔で「何もないよ」と答えながら、その痛みを隠していた。彼が他の誰かと話していると、無性に苛立ち、気持ちが落ち着かない。
でも、そんな気持ちは口に出せなかった。だって、僕たちはただの幼馴染で、それ以上でも以下でもないはずだったから。
初めての感情
ある夏の日、二人で久しぶりに川沿いの秘密基地に行った。あの頃と同じ場所で、彼と過ごす時間は懐かしく、同時に胸がざわついた。
「なあ、お前さ……最近、俺のこと避けてないか?」
突然、彼が真剣な表情で尋ねてきた。僕は驚いて、一瞬言葉が出なかった。
「そんなことないよ。ただ……」
言い訳を考えようとしたが、何も浮かばなかった。彼の鋭い目が僕をじっと見つめてくる。その視線に耐えられなくて、僕は視線をそらした。
「お前、本当はどう思ってるんだ?」
彼の問いは、まるで僕の心を見透かしているかのようだった。その瞬間、僕は自分の感情を隠し切れないことに気づいた。いつからだろう。彼を幼馴染以上の存在として見てしまっていたのは。
「……言えないよ、そんなこと」
声が震え、胸が締め付けられるようだった。彼は一歩、僕に近づいてきた。僕の手をそっと握りしめ、その手の温かさに涙がこぼれそうになる。
「俺は、お前が何を思っても、受け止めるよ」
彼の言葉はまっすぐで、その真摯な態度に、僕の心は崩れていった。