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エッセイ【ネギ農家のバイト決まりました】

「オレ、こんな田舎にはとてもじゃないけど住めないわ」
神奈川から奈良の寮への引っ越しを手伝ってくれた長男が言う。
その兄の横で、「僕が思っていたほど田舎じゃないよ」と、和歌山県に近い奈良の小さな分校*で高校生活を送ると決めた次男が言う。

できれば田舎に住みたい。のんびりした生活がしたい。そんなことを小さい頃から言っていた。活発に外に出ていくタイプではなく、友達とのつきあいも限られ、休みの日は家から出ないことも多い。家族は彼を省エネタイプの男と呼んでいる。

寮から高校まではバスで30分ほど。この高校に通うためだけに運行される路線バスのバス停が校内にある。朝は登校時間に合わせて1本。午後は下校時間に合わせて3本。高校が休みの日は運休。
次男が入学する2年前まで、この高校は存続の危機にあったらしい。全校生徒が10人にも満たないような状態が続いていたとか。町をあげての一大プロジェクトとして、全国から農業に興味のある子を呼ぼう!と生徒を募った。その取り組みは成功しつつある。

極力なにもしないを貫き通して生きてきたように見える次男。
それが、入学して囲碁部を作り、野球部にも入り、農業クラブの役員にもなり、学級委員までやっている。囲碁部では部長で、全国大会にも出場。野球部も2年連続で全国大会に。農業クラブの研究では、鹿による獣害対策を研究発表したと熱く語ってくれたりする。

あんなに動かなかった子がフル活動していることにびっくりする。三者面談で「家ではあまりにじっとしているので、省エネタイプの男と呼んでいるんです」と言うと、先生にとても驚かれる。
LINEに「ネギ農家のバイト決まりました」と、次男からの連絡が届いた。あの高校に入って省エネくんを辞めたのか。それとも、水を得た魚になったのか。我が子であっても、人ってわからなくて面白い。


*次男が2年生の時に分校ではなくなり、市立の農業高校として新たに開校しました。
*2022年に書いたエッセイです。2024年現在、次男は高校卒業して神奈川県内のとある法人農家さんで楽しくお仕事しています。

★エッセイの元になった課題本

★文章執筆サロンで学んでます


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