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エッセイ【真夜中の電話】

20数年前。結婚してまだ間もないころの話。
夜11時半過ぎ「そろそろ仕事終わりそう。もう少しで帰るよ」と、夫が職場から電話をくれた。職場から新居まで、通勤用バイクで30分ちょい。

ところがいつまで待っても帰ってこない。

当時携帯を持っていなかった彼は、いつも帰宅途中のコンビニから電話をくれていたのに、電話もかかってこない。と、深夜1時15分ベルが鳴った。

「遅かったじゃん!!どうしたの?」
「……」
電話の向こうの気配は彼なのに、声が聞こえない。
「もしもし?どうしたの?電話調子悪いよ!よく聞こえないけど」
……プツッ。ツーツー。

あれ?電話切れちゃった。公衆電話が壊れているんだと思った私は、すぐに帰ってくるはずと玄関に座って待った。だのに、帰ってこない。
1時半過ぎても帰らない。コンビニからうちまでは、バイクだったらすぐなのに。心配になり電話の前と玄関とうろうろ……
知らぬ間に電話の横で寝ていた私を起こしたのは、再び鳴ったベルの音。
深夜2時。病院からの「ご主人が事故にあい、現在手術中です」との電話。

直進の彼のバイクと右折しようとした車との衝突。
右折車が一旦停止しなかったための事故。バイクはめちゃめちゃに。

頭が大丈夫だったことで命は救われたけど、完治には3年ほどの時間が必要になった。後で彼から聞いた話によると、事故の直後、帰宅を待っている私が心配で電話をしなくちゃと、そればかり考えていたとのこと。救急隊の人に電話を頼んだのだけど、気が動転していてなかなか電話番号が思い出せず……

『電話かけなきゃ!!』と強く思っていた時間が、1時15分ころだったと。

強い思いで電話ってかかるものなんだななんて、足折れて苦しんでる彼の横でほんわか思った私……
たぶん、ほんわか思うようなことじゃない(笑)
とりあえず無事な姿を見て安心して、感覚おかしくなっていたのかも。

朝元気に家を出た人が、何事もなく帰ってくるのは奇跡なんだなと、あの日からずっと思っている。そして人の強い思いは、どんな形であっても届くものなんだなと。

だから私は今日も心を込めて、「いってらっしゃい。気をつけて」の言葉を口に出すのです。

★エッセイの元になった課題本

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