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結婚は友情を掻っ攫っていく「敵」だと思っていた。

なんとなく、それが全員で集まれる最後の年である予感がしていた。
コロナ禍前の2019年。
毎年恒例の様になっていた、学生時代から続く友人たちとのキャンプ。

そして恐らく、この予感はここにいる全員が抱いている。
それを裏付けるかの様に、「来年はどこに行こうか」なんて話を切り出す奴はいない。

30歳を目前に控えた結婚適齢期ど真ん中。
「カチッ、カチッ、カチッ」と、人生の選択が迫ってくる音がハッキリと聞こえていた。

「みんな結婚して、子供が大きくなったら家族ぐるみの付き合いをしよう。そして、また皆で遊びに行こう」
帰りの車の中、友人の一人が呟いた。

その後しばらく、車内は理想的な未来像を語り合っては盛り上がっていたのだが、僕はふと考える。
子供が「大きく」なったらって一体どれくらい先の話なのだろう。
7年後? それとも、20年後くらい?
その具体的な数字は分からないが、それくらい未来にならないと今の様に自由気ままに遊ぶなんてできないのだろう、ということだけはみんなの共通認識の様だった。

そして、それが仮に何年後であったとしても、そんな未来は絶対に来ないことが分かっている。
少なくとも、自分が家族ぐるみでそこにいることはない。
——、俺は、ゲイだ。

自分は“そう”だと、ぼんやりした自覚は昔からあった。
その為か、小さい頃から自分が家庭を持つイメージを持てたことが無い。
だから「羨ましい」なんて感情は湧かないのだが、友人たちの結婚を想像すると、自分と彼らは「ちがう」という現実を思い知らされるようで辛くなる。

まるで手のひらの生命線と頭脳線かの様に、今まで一つの線として同じ方向に向かって進んでいたつもりが、籍を入れた瞬間からハッキリと道は二つに分かれだす。
その距離はどんどん遠く離れていくし、いつかはその姿が見えなくなってしまうのだろう。
そして、この二つの道が再び交じり合うことはきっとない。

どうやったって、同じ土俵に立つことは絶対にあり得ないのだ。
そしてだんだん、本格的に話題が合わなくなってくる。
やがて、身を固める為の努力が見えない僕に違和感を抱き始め、皆はその原因を悟るのだろう。

想像してしまう悪い未来予想図はいつもここまでがセットだった。

思い切ってカミングアウトをしていれば何か違っていたのかもしれない。
しかし、自分はゲイだと伝えることは、結婚したいのに異性の誰からも見向きもされない男を演じるよりずっと恥ずかしいことだと思っていたのだ。

素直にもなれず、かといって自分の生きるべき道を見つける訳でもない僕は、年を重ねて結婚が現実的な年齢に近づいていく度に、こうして先細りしていく友情を連想してしまうのだった。

それから時は経ち、時代はコロナ禍に突入する。
そして再びマスク無しで堂々と外出できるようになった2023年。
この2、3年の間に、友人達はみんな結婚していった。

「生涯未婚率が上昇している」
それはブラジルの話かと疑いたくなってしまうほど、ものの見事に全員。

予想通りだったのは、やはり皆忙しくなって一同に会する機会は減ってしまったこと。
そして予想外だったのは、純粋な気持ちで友人たちの門出を祝えてきたことだ。

みっともない執着心から抜け出せたのは、「人間関係は流動的なものである」ということが実感として理解できてきたからだと思っている。

以前から自分にも新しいコミュニティが必要だと思い、見ず知らずの社会人サークルに飛び込んだり、趣味を模索してみたりしたが、どうも上手くいかなかった。
社会人で新しい関係をつくることの難しさを思い知ってからは、さらに手持ちの友情への執着心を膨らませていった気もする。

それが、ある頃から自然と新しい出会いが増えていったのだ。
自分が何かアクションをおこした訳ではなく、本当に自然と。

先細りの友情を想像しては、人生が「閉じてく」感覚がして恐れたものだが、閉じたら閉じたなりに新しい出会いがやってくる。
一つの関係が役目を終えたら、ちゃんと次の出会いが芽吹いてくるのだ。

元職場の同僚と旅行へ行ったり、別の元職場の同僚とはサイトの共同運営を始めたり。そこからさらに広がっていく関係もあるし、ここ一、二年くらいは周囲にカミングアウトをする様にもなってきたので、今まで経験したことのない関わり方で出会いを果たせるようにもなってきた。

皆、幸せになる為に一生懸命生きているのだ。
その為に必要な時に必要な人と出会う様になっている、と思える様になった今ではちゃんと、自分の人生と他人の人生の境界線がはっきりと見える。

そして、だからこそ、いつでも関係を切り離せる様にドライに生きるのではなく、その人と関われるその瞬間を大切にしたいと思える様になってきた。

「今仲良くしている人」と言われて思い浮かぶその人達と、細く長く永遠の友情を続けることは出来ても、ガッツリ深く関われる時間はやっぱり今しかない有限なものだと思うから。

その瞬間をどんな自分で、どの様に接するのか。
そんなことを密かに大事にしている。

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