未だ王化に染はず
日本最古の歴史書『日本書紀』の文中にこんな一節がある。
「撃てば草に隠れ、追へば山に入るときく。故、 往古より以来、未だ王化に染はず。」
これは、景行天皇(ヤマトタケルの父)が東方を平定しようと向かった北の大地で、蝦夷(エミシ)と呼ばれる民族から激しい抵抗にあい、それを息子のヤマトタケルに語ったとされる一節である。
一人の青年が知床半島の寒村で消息を断ち、その行方を追う大学院生の主人公。
その失踪には、考古学の世界で噂になっていた幻の狩猟民族の末裔の存在が関係していた。
北海道に、未だ幻の狩猟民族がいるかもしれない・・・。そんなドキドキとロマンを、複雑な人間関係のなかに魅せてくれる作品。
本作品自体、中原清一郎という謎の作家とともに長らく幻とされてきた。
福武書店が単行本を発行したのが1986年、それから29年後の2015年に小学館から復刊されたのが本書。
中原清一郎名義で出した著者は、もちろん外岡秀俊さん。
外岡さんらしい論理的で重厚な書き口だけど、思わずノンフィクションか?と錯覚してしまいそうになるリアリティで、ぐいぐい引き込まれる。
外岡さんは、言葉を選ぶセンスが天才的。
かっこよくて、いつも憧れます。
”いまだおうかにしたがはず”
外岡さんが僕たち北の民に遺した、アイデンティティなのかもしれない。
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