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愛の掃除屋さん



皆さんこんにちは。私は最近世間一般俗に言う、新興宗教に入って日々が輝きだした、名も無いホテル清掃員です。

こんな仕事をしておりますと、皆さんの人生を垣間見ることが出来て、存外楽しいものです。

アメニティと言うアメニティをこれでもかと一切合切全て持って帰られた部屋。
シーツの1部分が不自然に真っ赤に染め上がった部屋。
大きなクマのぬいぐるみがドン、と部屋の中央に置きっぱなしになった部屋。
蝋燭と注射器と、変な香りが立ち込めた部屋。

本当に色んな部屋があって、見てて飽きません。
以前はこんな部屋にぶつかるたびに辟易していましたが我が同志、失礼、貴方様達の世界で言う我らの教祖様はこうおっしゃってくださいました。

この世は無常である。無常とはただそこにあるものである。善も悪も正義も思想も主張もない。ただただそこにあるものである。
無常とは常にそこにある。
しかしそこには常に無い。
何が無い。
愛が無い。
愛を吹き込めば無常は友情となる。
では友情とは何か。
愛の象徴の1つである。
この世を愛で包め、同志よ。
愛を吹き込み、新たな命を生み出せ。
無機物にも有機物にも等しい愛を。
世界に愛を。

愛。あぁ何と、なんと素晴らしい概念か。

嫁に逃げられ借金を負わされ、何の気力も体力も残っていなかった私に、同志の言葉はとてもすんなりと入ってきました。
例えるならそう、私の…空っぽになった心のバスタブに、同志は愛という名の温かなお湯を注ぎ込んでくれたのです。

…ハハハ、少し真似してみましたが同志のような愛の深い表現はなかなか出来ないものですね。精進精進。

荒れたベッドシーツを畳み、強い加齢臭の残る枕カバーを洗濯カゴに放り込み、ベトベトする液体が少し残った床やトイレを掃除して、木造1K6畳半のアパートへぽつりと帰って、カップラーメンを啜って寝る。

そんな生活から救い出してくれたのは、まさしく同志でした。


私もお金に余裕がないものですから、あまり教団に愛を残すことが出来ず、とても心苦しく思っています。
しかし同志は、そんな悩める私をいつもこう諭します。

愛は余裕がある時に人に分け与えればよい。まずは自分を愛で満たすのだ。そうして周りを見る余裕が出来た時、君の愛で私達を満たしてくれたまえ。

月額5万円の会費を納める事しか出来ない、愛の形をこれ以上見せられない、ブロンズ会員の私にも、同志は温かく接してくれます。

そう、これなのです。愛で満たされた世界はこんなにも温かく、こんなにも心地よいものなのです。

皆さんを愛で包みたい。世界を温かな光で満たしたい。

私は明日も枕カバーを洗濯し、おろしたての良い香りのシーツを持って、皆さんのベッドを綺麗にします。
全ては皆さんを愛で満たすため。
明日もお待ちしております。

あぁそうだ!今日はこれからプラチナ会員の、セント・クリスピーター様のオンライン講演があるのでした。

それでは皆様、私は同志より破格の安値で譲り受けた、洗礼済みPCの電源を入れて、会員にのみ販売される聖なるお茶と、高貴な和菓子を食べながら、その時を待たねばなりませんので、ここで失礼いたします。

皆様の人生にどうか、愛あらん事を。

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