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短文学集

25
筋も思想も体系も、全部気にせず楽しむことを短文学と称して日々の感傷を綴る。
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#詩

五月雨、一矢となって。

五月雨、一矢となって。

くれなずむ空は薄雲を浮かべ、朱に藍に染めては散らす。
渡る風は夏の残滓をすっかり浚って、路地の隅まで清澄で満たした。
こうしていつまでも座っている、私の鼻先を金木犀が嘲笑う。
今に冴えわたる月が現れ、心地よい寒気を降り積もらせるだろう。

肌が湿っていくのを感じながら、私は瞼を閉じる。
何も映さないその暗幕の中に、ずっと何かを探していた。
そうしている間に過ぎた季節が、朝が、雨が、閃いては消えてゆ

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落果の汀

落果の汀

風は湖面を滑る時のような冷たさで、私を一巻きして過ぎていった。
その目指す先の彼方で、夕陽が今にも沈もうとしている。
薄雲の張った西の空に、艶のない黒が押し寄せている。
わずかに残った空色が、雲と夜と橙色で滲んでいた。
それは黒い大地の片隅の、小さく澱んだ池のように見えた。
せっかくの夕陽は、その澱みに落ちて濁ってしまう。
濁りの膜の向こう側で、辛うじて輪郭を保っていた。
落ちた果実が、水際でふや

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AM I

AM I

ローファイな日常 ノイズに濡れた言葉

塞いだ耳 重たい髪

なけなしの若さを 惰眠が貪って

逆らうように 朝まで起きてる

夜行バス 深夜のFM

置き去りの缶コーヒー なおざりな家事

そういうものばかり 好きになってく

太陽が昇る前の そこで静かに息継ぎをする

夕立の降らない夏。

夕立の降らない夏。

 これも全部、ノストラダムスの野郎がしくじったせいだ。あの頃のオレは愚直に信じていた。ヤツの言うところのなんちゃら大王がやって来て、何もかも全部ぶっ壊してくれるんだって。机に突っ伏してばかりの昼も、長すぎる夜も、蔑みの声や同調を意味する記号的な口角の上げ方も、おべっかも堅苦しい詰襟も何もかも、根こそぎ。

 それがどうだ。リヤカーに空き缶を山ほど積んでいた浮浪者たちはどこへいった。ブルーシートの家

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雨宿り

雨宿り

眠りの底から覚醒へと、ゆっくり浮上していくのがわかる。瞼の内側、波の無い水がわずかに白んで、私は朝が来たことを知る。

一息、天井に向けて深く息を吐く。昇っていく泡のように静かなその音を、戸外の雨音が次々破っていく。遮光カーテンを閉め切ったままの室内、そこに留まる柔らかな暗闇が、私の身体を慈しむ。

闇の膜の向こうで、雨がしきりに地を打つ音がする。屋根を、窓を、様々な音階で鳴らす。私は布団を頭まで

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