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短文学集

25
筋も思想も体系も、全部気にせず楽しむことを短文学と称して日々の感傷を綴る。
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2019年4月の記事一覧

ガラスと春

ガラスと春

 体が大きく揺れ、その衝撃で目を覚ます。慌ててガラス窓の向こうに目をやると、目的の駅はまだ当分先だった。資格試験に向けて連日行った徹夜勉強が、私の意識を奪っていたらしい。うたた寝で体内にこもった熱が、首元からゆっくり抜けていく。蛍光灯が妙に黄色く感じて、目の渇きがそれに反応する。
 ポケットにいつも忍ばせている目薬を取り出して上を向く。網棚の上の折り畳み傘を見ている瞳に雫が落とされる。右回り、左回

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一張羅とスウェット

一張羅とスウェット

 ようやく、腰をあげる。
腰も気もこんなに重たいのに、その下にずっとあった座椅子が軋みもしなかったのが不思議だ。手にとるだけでろくに捲られもしなかった本を、代わりに座らせてやりながら立ち上がる。
 休日に、うっかりしてしまった約束が時針の上から私を絶えず急き立てるせいで、何をするにも気もそぞろのまま、半日が時計の盤面に吸い込まれていった。そんな時計を横目に部屋を出る。

 部屋着のスウェットのまま

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夜明け

 バックスペースキーをカチカチ叩きながら、広がる白の前に茫然とする。
渺茫たる白の中で、カーソルは急かすように点滅する。カタカタ文字を打ち込んではまた、カチカチやる。だいたい八文字分くらいのスペースを、カーソルが反復横跳びのようにいったりきたりしている。

 視界の端で何やら動いたので、そちらを見やる。視線の先にあったのはデジタル時計だった。ゼロ、ヨン、ゴ、キュウと並んでいたものが、
ゼロ、ゴ、ゼ

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