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「自助・共助・公助そして絆」について

 菅さんは「自助・共助・公助そして絆」を自政権の政策全般にわたる柱にしようとしているようだ。

 まず、なにより政策の柱として「自助・共助・公助」とセットで使われているが、「自助、共助」は倫理、道徳の領域に属す概念、或いは行動規範であって、政策領域の概念ではない。国政権政府が政策にこの言葉を持ち込むこと自体が間違っている。まして公助を後回しにして国民に先ず、自助、共助を求めるなどとは国家の責任放棄だと思う。

 
 この「自助・共助・公助」という姿勢は社会福祉の分野で使われ始めたようだ。

 社会福祉分野における「自助・共助・公助」という考え方の基礎が示されたのは、「人生80年時代の到来」が謳われた昭和59年(1984年)版『厚生白書』であろう。以下のように述べられている

人生80年時代における社会は、多くなる障害者やねたきりの高齢者も生活の充実を求めて共に暮らす社会であり、自立自助を前提としつつ、社会連帯の精神で支え合っていくことが一層求められるといって良いであろう。

(同、第1章 人生80年時代への社会保障の対応 第3節 人生80年型社会保障の構築 (人生80年時代への社会保障の対応))。 https://mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/kousei/1984/dl/02.pdf…

 これが、「共助」ではなく「互助」を取り上げていあるが、昭和61年(1987年)版の『厚生白書』では以下のようになる。

(自助・互助・公助の役割分担)
第二点は、自助・互助・公助という言葉に代表される個人、家庭、地域社会、公的部門等社会を構成するものの各機能の適切な役割分担の原則である。
健全な社会とは、個人の自立・自助が基本であり、それを支える家庭、地域社会があって、さらに公的部門が個人の自立・自助や家族、地域社会の互助機能を支援する三重構造の社会、換言すれば、自立自助の精神と相互扶助の精神、社会連帯の精神に支えられた社会を指すものと考えることができよう。

 (第1編第1章 社会保障制度の再構築へ向けて 第3節 社会保障制度の再構築 1 社会保障制度再構築の基本的方向(2) 再構築に当たっての基本的考え方)。
https://mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/kousei/1984/…

 これがさらに『今後の社会保障の在り方について(概要)ー平成18年(2006年)5月26日「社会保障の在り方に関する懇談会」報告書ー』においては、社会保障の《基本的考え方》として

「自助」を基本とし、「共助」が補完し、自助、共助で対応できない状況に対し、必要な生活保障を行う公的扶助や社会福祉などを「公助」として位置づける。

まで進んでしまう。

 https://mhlw.go.jp/topics/2007/bukyoku/seisaku/02.html…

「社会保障の在り方に関する懇談会」(平成16年7月30日~平成18年5月26日・議事要旨、首相官邸) https://kantei.go.jp/jp/singi/syakaihosyou/kaisai.html…


  阪神・淡路大震災(1995年<平成7年>1月17日)の際に「自助・共助(互助)」が社会的に注目されたが、これはボランティア、特に「災害ボランティア」の文脈で用いられたものであり、その際には緊急性、機動性が必要であり、市民の中での自助・共助(互助)という意識も一定、意味があったし重要な働きをもした。しかしこを契機に社会保障分野での「互助」(ボランティア)の活用が注目されたことも事実ではあろう。
 またこの年を「ボランティア元年」と表現されることが多いが、災害ボランティアの重要性が社会に浸透したという意味であり、災害ボラ以外も含めれば、ボランティア参加数もその多様性もそれ以前の方が多いようである(仁平典宏氏『「ボランティア」の誕生と終焉―〈贈与のパラドックス〉の知識社会学―』2011年2月、名古屋大学出版会。参照)。

 この「自助・(互助)・共助・公助」は「地域包括ケア研究会報告書より」(2013年<平成25年>3月、厚労省)におて、「地域包括ケアシステム」の5つの構成要素として、

自助―「自分のことを自分でする」「自らの健康管理(セルフケア)」「市場サービスの購入」
共助―「社会保険及びサービス(での支え合い)」

 互助―「ボランティア活動」「住民組織の活動」
公助―「一般財源による高齢者福祉事業」「生活保護」「人権擁護」「虐待対策」

「自助」+「互助」―「当事者団体による取組」「高齢者によるボランティア・生きがい就労」
「互助:」+「公助」―「ボランティア・住民組織の活動への公的支援」 https://mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-3.pdf…

となる。
「地域包括ケアシステム」(厚労省) https://mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/…

 この「地域包括ケアシステム」は当初、高齢化への対応、高齢者福祉を主眼に計画、事業化されたものであったが、その後障がい者福祉も含む方向に変わってきているので、この「5つの構成要素」の内容も変化していくのかもしれない。
 

 これが今の菅政権では、おそらく特定分野に限らず、政策全体にわたる根本的な政治理念になっているようだ。

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