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tanka #5

「好き」だけが降り積もっては溢れゆく 擦れる肩からふれあうゆびから



照りかえす月の灯りが荒海をやわらかく凪ぐことも知らずに



れいぞうこ ネギが窮屈そうにおり ドアを引くたび身構えており



六畳の立方体に囚われて どこにも行けないわたしをどうする?



わたしたちもう無理なんだね あつい背をなぞる夢すらさめてしまった



ぽたぽたと水滴石を穿つように緑がかったせかいにやられる



喉のおく つっかえたままのかたまりを 洗い流そうと必死でいます



いちばんになりたかったの このせかいのとくべつになりたかったの



愛されているから死ねない その愛に気づけぬわれなら今ごろは



不確かなこころなるものここにあり 鋭い眼で突き刺すきみは



捨てるのはもったいなくて切り取ってフィルムの中では永遠なのだし



こんな日に限って思い出してしまう きみがいたこと 確かにいたこと



目覚めたら「おはよ」って言って抱きしめて 眠る前かならず腕枕して



おもかげで 満ちて流れる あのときの きみの涙で 湿度が高い


傷ついて掻きむしる夜がきみの眼の中で琥珀に変わるとき



飴玉を焦がして焦がれて十月の陽の橙に染まる横顔

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