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15年間、口にできなかった夢。肩書きを捨て挑んだら、命の実感が湧いてきた-シンガーソングライター・はたなかみどりさん-

山中康司/生き方編集者

“そのひとこと”を口にしてしまったら、それまで生きてきた世界には引き返せない。そんな言葉が、僕にもあなたにもあるはずだ。

その言葉には、夢とか、目標とか、肩書き、とかいう名前がついていたりする。もしかしたら、想いをよせる人への告白という名前かもしれない。

胸に手をあてて、“そのひとこと”を誰かに伝える自分を思い浮かべてみる。

すると、僕の手はじわりと汗ばんでくる。心臓がどきりとして、息はすこしくるしくなる。

一度“そのひとこと”を発すると、まるで大きな川に足を踏み入れるように、あらがいがたい流れに身体が持っていかれそうになる。自分が、他者の目線が、環境が、あるひとつの方向へ向かい始めるのだ。

だから、“そのひとこと”を口にすることは怖い。たとえその流れの先に、理想郷があったとしても。


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“そのひとこと”を口にすることができずに、32年生きてきた僕が、自分の目標をちゃんと口にしようと思うようになった。それは、はたなかみどりさんへのインタビューを通してだった。

「グラフィックファシリテーター」として活動してきたはたなかさんは今、周囲から評価されたその肩書きを捨てて、新しい人生を生き始めた。

「やりたいことを口にできてる今は、ほんとうに、自分の命を生きてるって感じがするんです」

そう嬉しそうにそう語るはたなかさんには、15年ものあいだ口にすることができなかった“そのひとこと”があった。

はたなかさんの語りに、すこし耳を傾けてみましょう。

(聞き手:山中 康司)

周囲から評価されている肩書きを卒業した


わたしはこれまで3年半、「グラフィックファシリテーター」として活動してきました。

「グラフィックファシリテーター」は、会議やワークショップなどで話された内容を、その場で絵にまとめる人。わたしはフリーランスのグラフィックファシリテーターとして、組織のビジョンづくりや新規事業のブレスト、自治体の会議などに関わってきました。

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でも今年、「グラフィックファシリテーター」って名乗るのをやめたんです。

仕事の量も大幅に減らしました。10個以上のプロジェクトを並行して進めていたのを、数件だけにして。8月は、2日しか働いてなかったくらいです。

正直、最初は収入が半分以下に減りました。「グラフィックファシリテーター」と名乗った方が、実績もあるから、まわりは評価してくれるかもしれません。

それでも、手放すべきものを手放さないと、本当にやりたいことができないと思ったんです。

わたしの本当にやりたいことっていうのは、小学校5年生の時に思い描いたけど、怖くてずっと口に出せずにいたことでした。


15年間、やりたいことを口にできなかった


それは、「シンガーソングライターになりたい」、ということ。

わたしの音楽との出会いは、3歳のころ。ピアノ教室に通い始めたんです。でも、実は当時習っていたクラシックはまったく好きじゃなくて。

ただ、小さい頃から、聴いた曲をすぐ弾くことができました。わたし、クラスで一番の人見知りだったんですけど、みんなが好きな曲をピアノで弾いたら、友だちが寄ってきてくれたんですよね。それが嬉しくて。

これは今でもそうですけど、音を奏でているときって、立場とか言葉とかいった境界が全部なくなる感じがあるんです。人見知りのわたしは、音楽に助けられて、人と接することができるようになりました。

「シンガーソングライターになりたい」と思ったのは、小学校5年生のとき。川嶋あいさんっていう、路上ライブを1000回やってメジャーデビューしたシンガーソングライターのことがめちゃくちゃ好きで。当時、おっかけをしていたんです。

彼女に憧れて、「私も川嶋さんみたいなシンガーソングライターになりたい!」って、自然と思うようになりました。

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路上ライブをする畑中さん

その想いは、小学校5年生のときから胸の奥にあった気がします。でも、15年ぐらいずっと、口にすることができなくて。「シンガーソングライターなんて、絶対無理だ」って、やる前からずっと諦めてたんですよね。

それはやっぱり、まわりの声が気になっていたからなのかな。親からも「音楽じゃ食べていけないよ」って、ずっと言われてましたから。


まわりから評価される肩書きに感じていた違和感


それでも、音楽で食べていくことができないか、模索していた時期はありました。

音楽の専門学校に入るのは親に反対されたから、教育大学にある音楽学科に入って、音楽の先生を目指したり、そのあとにはバンドでデビューできるか目指して活動してみたり。20歳から3年ぐらい、路上ライブをやってみたこともありました。

だけど、やっぱ音楽で社会で食べていくっていう道は見えなかったんです。

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バンドでのライブの様子。右端が畑中さん

一応大学では音楽の先生になる資格をとったけど、教育実習に行ったり大学の授業を受けたりするなかで、現状の公教育に対して違和感が湧いてしまったんです。だから、就活では一般企業を受けて、インターンをしていた民間企業に内定を頂きました。

でも「この仕事は命をかけてやることではないかも」と思ってしまって。悩みに悩んだ挙句、その会社に入社することもやめてしまいました。

「音楽の仕事もできない。企業で働くこともできない。これからどう生きていけばいいんだろう……」。

そんなふうにしょっちゅう泣きながら悩んでいた時期に閃いたのが、「フリーランスのグラフィックファシリテーター」という生き方。

わたし、音楽だけじゃなく、絵を描くことも好きだったんです。そんな絵のスキルが活かせる仕事があると知って、「もしかしたら、これならできるかもしれない!」って思ったんですよね。

グラフィックファシリテーターの仕事は、すごく楽しかったです。たくさんの仕事に関わらせていただいて、グラフィックファシリテーターに興味がある方向けに、教える場を持つまでになりました。

それに、グラフィックファシリテーターになったからこそ、フリーランスとして食べていくことができるようになったので、この仕事に助けられた感覚はすごくあります。

でも実は、3年間その肩書きを持っていたくせに「グラフィックファシリテーターです」って名乗ることに、ずっと違和感があったんです。周りから評価される肩書きと、自分が本当に自分らしいと思える肩書きは、かならずしも一致しないんですよね。

心のどこかに「音楽の仕事がしたいんだ」って気持ちがあったから、グラフィックファシリテーターとして評価してもらえることがあったとしても、「今の自分は、自分じゃない」と感じていました。


友人の無謀な挑戦


「シンガーソングライターになりたい」と言えようになったきっかけは、ある友人の存在でした。

げんちゃんという年上の友人なんですけど、彼が2019年の秋に、「3ヶ月後に弾き語りのライブをやりたいから、ピアノを教えてほしい」と相談してきたんです。

彼、楽譜も読めないし、ピアノも弾いたこともないらしくて。だからわたしが、彼の弾き語りの先生をやることになりました。

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はじめは、彼のレベルに合わせて「この練習をしよう」って提案をしたんですね。そしたら、彼が「待ってくれ」と。「できるかできないかをふまえてプロセスを考えるんじゃなくて、ゴールをイメージするところからやりたい」って言うんです。

コーチングをやっている彼いわく、「現状の外側にゴールを設定するってのが大事だ」と。「自分のコンフォートゾーン(心地よい領域)の外側にあって、なおかつそれが心からの願いから生まれた目標であれば、絶対うまくいくはずだ!」と、彼は言うんですね。

「じゃあ、どんな目標にする?」って聞いたら、「エルトン・ジョンの『Your Song 』を、この演奏みたいに弾きたい」って、彼の目標とする演奏を聴かせてくれたんです。

それがあまりにレベルが高かったから、「えー、絶対無謀だよ!」って、わたしは思ったんですよね。だって、彼はついこの前、初めてピアノの前に座ったんですよ。もちろん楽譜もコード譜も読めない。なのに、「絶対やるんだ!」って、彼はゆずらなくて。


「できるかできないか」を脇に置くことにした


でも、彼が無茶な挑戦に本気で挑む姿を横で見ていて、だんだん、わたし自身も変わってきたんです。

それまでって、「できるかできないか」を考えて、自分の本当にやりたいことを抑えつけていたな、と気づいて。

「音楽で食べていくなんてできない」と思っていたから、挑戦しなかったんですね。仕事にしてしまうと、大好きな音楽を嫌いになってしまうんじゃないか、っていう怖さもありました。

でも、げんちゃんみたいに「できるかできないか」っていう考えを脇に置いたら、わたしはなにをやりたいんだろう……。

そう考えたら、浮かんできたのは「曲をつくって、みんなの前で歌いたい」ということ。「シンガーソングライターになりたいんだ」っていう、小学校5年生のときからの想いでした。

不思議とチャンスって重なるもので、その時期にたまたま、シンガーソングライターをやってる友達から「一緒にライブしない?」って連絡が来たんです。

音楽にしばらく触れてなかったから、ライブなんてできるのか、不安はありました。でも、こんなチャンスなかなかないなと思って。だから「とりあえずやる!」って言って、毎日曲をつくるようになりました。

結局、50日ぐらいで50曲をつくったかな。4月にやる予定だったそのライブはコロナで中止になってしまったけど、私の中で音楽への情熱が、もう一度湧いてきたんです。

ただ、その時はまだ「シンガーソングライターになりたいんだ」って、口にするのは怖かったんですよね。

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目標にだめ出しされて、湧き上がってきた想い


SNS で定期的に歌を発信していたら、幸い次第にフォロワーが増えてきたから、「よし、10月の誕生日までにインスタ1万人と YouTube 1000人のフォロワーを目指そう!」っていう目標を立てて、それをFacebookに投稿したんです。

そしたら、その投稿を見たげんちゃんから「そのゴール設定は良くない!」ってメッセージが来て。「なんで!?」って思って聞いたら、「そんなの達成できちゃうし、全然現状の外側じゃないよ」って言うんですね。

「どういうことか知りたかったら、今度コーチングをしよう」って言ってくれたので、コーチングをしてもらったんです。その様子をインスタライブでも配信して。

その場で、げんちゃんに徹底的に問われたんです。「本当にやりたいことはなんなの?」って。やれるかやれないかとか、どうやるかみたいなことはぜんぜん気にしなくていいとしたら、どんなイメージが湧くかを引き出してくれて。

う〜ん……と考えました。そしたら、あるイメージが浮かんできたんです。


20年以上聴けなかった心の声を聴くことができた


そのイメージっていうのは、「『ap bank fes』で『to U』を歌う」、というものでした。

「ap bank fes」って、知ってますか? 音楽プロデューサーの小林武史さんやミスチルの桜井和寿さんたちが開催している、わたしが心から憧れているフェスなんです。そのラストでは、「to U」って曲を、出演したアーティストたちが歌うんですね。

わたしが心からやりたいことはなにかなって考えたら、「to U」を、桜井さんと一緒に「ap bank fes」で歌ってる……そんな景色が目の前に浮かんできたんです。

でも、「むりむりむり!」と思って。だって、今の自分の現状とめっちゃ遠いじゃないですか。だから、口にすることがなかなかできなかったんですよ。

そしたら、それを見透かしたげんちゃんに、「 『ap bank fes』で『to U』歌いたいんじゃないの?」って突っ込まれて(笑)。「今は『できない』っていう声が襲いかかってくるかもしれない。だけど、そんな声気にしなくていい。大丈夫、絶対できるよ!』って、120%ぐらいの確信をもって言ってくれたんです。

インスタライブを観てる人も、「絶対いけるよ!」「めっちゃその夢ときめくよ!」ってコメントをくれて。

「この人たち、なんなの!?」って思いました(笑)。みんな簡単に言うけど、大変なことじゃないですか。だからわたしは、「やりたい」って口にするのが怖くて、ブルブル震えるような気持ちだったんです。

でも、インスタライブが終わったあと、たくさんの涙が出てきたんですよ。

あぁ、自分が本当に聴いてあげたかった自分の声を、やっと聴いてあげられた……そんな感じがしたんです。

わたし、音楽を始めてから20年以上、ずっと自分に制限をかけていたと思います。社会的にどう見られるかとか、できるかできないかを考えすぎてた。本当に大切な想いを語ることは、すごく怖いことだったんです。

でも、自分で制限をかけてるうちは、チャンスがやってくるわけがない。やっと聴いてあげられた心の声だから、ちゃんと大事にしたいって、思うようになりました。

夢を叶える人達って、きっと理屈抜きに「これをやりたい」っていうビジョンを描くことから始めるんですよね。だからわたしも、「シンガーソングライターになる」、そして、「『 ap bank fes』で『to U』を歌う」っていう目標を、ちゃんと口にすることに決めたんです。

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収入は減ったけど、「命を生ききってる」感じがする


今、なにをしているのか聞かれたら、「シンガーソングライターです」って、胸を張って言うことができます。

具体的な活動としては、週に1回のインスタライブの配信や、毎日のイチナナでの配信、あとは自分の楽曲制作などをしています。

正直、アーティスト活動だけでは食べていくことは難しいです。なので、以前していたような学びの場づくりの仕事も少しやったり、個人に向けた歌を作る「うたの手紙プロジェクト」や、企業向けの楽曲制作などのお仕事もしています。

グラフィックファシリテーターをやっていたときから、収入は減りました。でも今は、やれるかやれないかでも、まわりから受け入れられるかどうかでもなく、自分が心からやりたいと思えることを、まっすぐに口にすることができている。それが、すっごく嬉しいんです。

今は、「わたし、生きてるなぁ」って思います。「あぁ、命を生ききってるなぁ」、って。そんな感覚を、日々感じています。


「口にするのが怖い」ことにこそ、やりたいことのヒントがある


「やりたいことを口にする」っていうのは、すごく怖いことですよね。 私もいまだに、「『ap bank fes』で『to U』を歌う」なんて口にしたら、ブルブル震えちゃいますよ。

口にしたら、もう目を背けられないし。それに、覚悟を持たなきゃいけないじゃないですか。わたしみたいに、仕事を辞めなきゃいけないこともありますよね。

でも、大切なことを語るのは怖くて当然。現状の自分とのギャップを感じて、心が折れそうになることも当然だと思うんです。

むしろ、「怖い」って感情が湧くところにこそ、自分にとって大切なことがあるんだなって思います。「口にすることが怖い」と感じるものがあるとしたら、きっと自分の本当にやりたいことを教えてくれているんです。

だから、自分の心の声に耳を傾けてみることが大事。なにかをしていて「ちょっと違和感があるな」という声が聴こえてきたら、その声を無視しないで、思い切ってやめてみる、とか。

やりたいことを口にすることって難しいけど、まずはちょっとした違和感を無視しないということから、始めてみるのがいいんじゃないかな。

わたしもまだ道半ばだから、偉そうなこと言えないですけどね(笑)。


「ap bank fes」のようなフェスをつくる、という新しい目標


「『ap bank fes』で『to U』を歌う」って目標は胸に秘めつつ、実は今は新しい目標があります。

それは、「 『ap bank fes』のようなフェスをつくる」っていうこと。

「ap bank fes」 って、今休止してるんですよね。休止してるものを目指しても、再開を願うしかできないから、受け身になってしまう。それがもどかしくて。もっと能動的に働きかけていける目標はないかな、って考えたんです。

そしたら出てきたのが、「『 ap bank fes』がないなら、つくっちゃえばいい!」っていうアイデアでした。

前のわたしだったら、「つくるのなんて無理だ!」と思っていただろうけど、今のわたしは「つくれるかもしれない」って思うことができてるんですよね。

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初めて「ap bank fes」に行った時、わたし、めちゃくちゃ感動したんです。フェスとしてのクオリティの高さはもちろん、そもそも小林武史さんたちはサステナブルな活動に投資するファンドとして「ap bank」を立ち上げて。フェスなどで得た利益は、環境問題に関わる取り組みや震災復興の支援のために使ってる。フェス自体も環境に配慮されている、とても一貫性があるフェスで。

そんな「ap bank fes」のあり方に心を動かされたから、わたしもそういうフェスをつくりたいんです。

まずは小さいフェスから始めて、だんだん育てていきたいなって。コロナの影響をみながらですが、まずは夏にはじめてのフェスをやろうと思っています。

気持ちよく晴れた日に、緑に囲まれたなかで、子どもたちがおもいっきり遊んでいて、音楽が鳴っていて、みんな笑顔で聴いている。売ってるものは全部、人と地球を搾取しないもので……。そういうイメージが、今の私の頭の中にはあるんですよね。


さいごに


“そのひとこと”を口にしてしまったら、それまで生きてきた世界には引き返せない。そんな言葉が、僕にもあなたにもある。

それでもはたなかさんのように、その小さな祈りのような言葉を、口にできたらどうなるだろう。

その言葉を発することで、まるで身体を押し流してしまうように思えた流れ。それは、身を委ねてみれば、自分が生きている手応えを感じることができる世界へと運んでくれる流れなのかもしれない。

“そのひとこと”を口にすることが怖いなら、はたなかさんの歌を聴いてみてください。きっとあなたの大切な想いに、その歌声が寄り添ってくれるはずです。


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山中康司/生き方編集者

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山中康司/生き方編集者
文章と写真と対話を通して、生き方に関するあれこれを探究してます。今の問いは「かぞくをつくる」。ポートレート/家族/福祉/ナラティブ/ グリーンズ/Huuuu/Proff Magazine / IG:instagram.com/kjymnk/