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人生の"中間地点" ベロー『この日をつかめ』

ソール・ベローの『この日をつかめ』を読みました。

ソール・ベローは、1915年生まれのアメリカの作家で1976年にノーベル文学賞を受賞しています。近頃はほとんど読まれることもないためか、今回取り上げるベローの代表作『この日をつかめ』でさえも、三種類の日本語訳があるにも関わらず、全て絶版になっています。

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今回取り上げる『この日をつかめ』は、ニューヨークを舞台に、夢やぶれ、社会的にも家庭的にも破滅の危機に直面した無気力な男の狂騒の一日が描かれています。
俳優を目指し青春時代を棒に振ったため、何かを新たにスタートさせるには遅すぎる年齢になり、その後に就いた職業はどれも上手くいかず、現在は無職。離婚を許してくれない別居中の妻からは、生活費を請求され続けています。社会的に成功した父との関係も悪く、経済的援助を拒まれています。
そんな状況に苦悩する中、胡散臭い男に投資の話を持ち掛けられ全財産を彼に託すのですが。。。。というのが大体のあらすじです。

20代前半の頃に、この『この日をつかめ』を初めて読んだときには、「そんな胡散臭い男の話を信用するなよ。アホちゃうか。」と思って読んだ記憶があります。
あれから10年経ち、30代前半になった今読むと、「胡散臭い男だけど、信用したくなる気持ちは分かるよ。。けど、若い時にフラフラしとった君が悪いんとちゃうか。」と少しだけ共感できるようになっていました。

年を取り色々な選択をして、ぼやけていた自分の終着点が鮮明になっていくことは、人生の楽しい部分であると思います。けれどもそれと同時に、ある年齢を超えると “もうここ以外はどこにも行けないのではないか” とも感じるようになるということを教えてくれた作品でした。

この小説に感化されて作曲したわけではないのですが、『中間地点』というタイトルの作品を書きました。
中心音を設定し、それの外側に音を配列するというシステムを利用して作曲したので、『中間地点』というタイトルをつけ、その後に歌詞を書きました。特に何も考えず詞を書いたのですが、自ずと“人生の中間地点”を歌った作品になりました。

高橋宏治作曲・作詞《24 Songs for Voice and Piano (2017-2019)》より
〈 23. 中間地点 "Way Point"〉



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