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【ホロライブ】カバー株式会社の上場/有価証券報告書を見ていきます

普段から推しているホロライブを運営するカバー株式会社が上場承認されました。おめでとうございます。

にじさんじのANYCOLOR社の時と同様に有価証券報告書の方を見ていきたいと思います。

「新規上場申請のための有価証券報告書」
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/cg27su000000198z-att/03COVER-1s.pdf


有価証券報告書全体を見て、事業全体と投資家に向けて言いたい事は冒頭のP4,P5に集約されている感じです。まずはその部分を見ていきます。

■従来のIPビジネスとの違いと優位性

P9

まずカバー株式会社の事業領域はIPビジネスの領域での事業展開になります。

VTUBERはアニメキャラやゲームキャラや漫画キャラ等と比べた際に
・育成期間
・必要コスト
上記の面でIPビジネスであるけれどもコスパの良さと優位性を持っているという所を強みとして認識しています。
これはアニメと比較するとわかりやすいです。
例えばまどかマギカの様なヒットアニメであれば製作費と製作期間に投じたもの以上のリターンがありますが、実際にはそういったリターンを得られていない作品の方が圧倒的多数です。
対してVTUBERはMVやライブ等のいわゆる行事ごと以外は、特にホロライブの様にブランドとして確立していればキャラクター作成、採用、配信環境コストの投資のみでそこから先は低コストで、ある意味人気が出るまでやり続けられる事が出来ます。
アニメの様に「1クール12話」といった時間制限も無いのも有利です。


P5

ここも従来のIPビジネスとの大きな違いですね。僕も数回にわたって記事にしていますがアニメやゲームと違い、双方向でのコミュニケーション機会を持てる事でこれまでのIPに無い価値を持たせています。

■VTUBERの生産性

P5右図

直近で見ると一人当たり
1Q(3か月)で約7000万円の売上を出しています。

所属が71人なので×71で合計で約50億円となります。

直近1Qの収益が連続する場合(その可能性は高い)年間で約200億円の売上が直近の売上の可能性として出るイメージになります。

グラフを見ると毎年第3Qの売上が高いのでこれはこの時期に周年イベントが集中しているという事が予想できると思います。そのバランスを鑑みて年間で180億前後に到達するイメージかと思います。これは上場が報じられてからの推測売上と一致しているのでそんな感じですね。

ホロメン一人あたりの売上は平均で均せば一人当たり2.5億円ですが、ファン数の上位陣と下位陣での開きを考えると1億~3.5億のレンジで見るのが妥当かなと思います。

P10

従業員数は約400名+パートアルバイト約100名で、400名の平均年収は約500万円との事なので人件費はアルバイト代込みで約25億程度でしょう。売上に対しては約13%です。
「2021年経済産業省企業活動基本調査」では50.7%が売上対比の人件費率ですのでANYCOLOR社の有価証券報告書の時もそうでしたが、一人当たりの生産性はかなり高いと言えます。その分開発費などの別のコストはありますが。


P7 売上構成比

売上構成比で見ると
1:配信経由(35%くらい)
広告収益、スパチャ、メンバーシップとかですね。

2:ライブ/イベント(10%くらい)
ライブとかですね。

3:マーチャンダイジング(40%くらい)
グッズ販売とかですね。

4:ライセンス/タイアップ(15%くらい)
企業との案件とかですね。

こういう構成比になっています。
このあたりは以前書いた記事での予想とあまり変わりありませんでした。こちらも参照して頂ければと思います。

このあたりも投資家や経営サイドから見れば配信経由が大きすぎると不安要素になるので良いバランスだと思います。つまりこの部分が大きいとYOUTUBE次第でいつでも業績悪化で倒産するという事に繋がってしまいますので。UUUMと比べてANYCOLOR社やカバー株式会社の方が現在評価が高いのはこの点が大きいと思います。
YOUTUBERはこの収益構成比の中で配信経由を占める割合が大きすぎるのがリスクですし安定性に欠けます。UUUMが時価総額で最も高い金額から現在その1/10まで下げている点は間違いなく意識しているでしょうから、その違いは提示しておきたいのではないでしょうか。
VTUBERに普段から慣れ親しんでいれば違いは明らかですが、そうでない人からするとUUUMと何が違うの?というのは当然あると思います。

■ホロライブの今後

P11

中長期の経営方針についてはこのように表記されています。
①付加価値の高いIPの開発とファンベースの確立
②コマース展開と先行投資
③メ タバースサービスの展開
3段階の事業拡大戦略

3段階とあるので順序は①→②→③の順でしょう。

要約すると下記の感じです。
① VTUBERを文化として根付かせる
これまでも一過性のブームの様になり消えていったコンテンツは数多あります。例えばディズニー、サンリオ、ガンダム、ジブリ、ドラゴンクエスト、ドラゴンボール、このあたりはコンテンツの枠を超えて文化にまで発展しています。①の最終的な成功はこの形ではないでしょうか。
このあたりは僕もだいぶ前に記事にしましたので参照して頂ければと思います。

②コマース展開と先行投資
これは①の延長線上の側面にあると思います。①の成功が結果としてコマースの成功に繋がる為、その準備としての先行投資をもうしていきますという感じですね。
そしてこれも③に繋がる形の様です。コマースというと物理的な製品の販売を考えがちですが、広い意味でのコンテンツの販売として広い展開を考えている様です。

③メタバース
前述したように現在の収益の大きな割合を他社プラットフォームに依存している側面があります。カバー社の掲げるメタバースは単純にメタバース事業という側面と自社でプラットフォームを持つ事での利益率向上とリスク回避の意味も持ちます。
YOUTUBEで仮に55億の売上があったとします。
この時YOUTUBEには45億が入っています(2023年時点)。
ですので100億円分の売上を構築した場合半分くらいが手数料で取られています。これを例えば半分の50億を自社プラットフォームに移行出来た場合、収益は55億から70億くらいまで改善します。

つまりカバー社のメタバース事業は最悪失敗しても良いのです。

上記は誇張表現ですが、厳密にはプラットフォームとしての役割を果たせればメタバースというものの定義で成功をしなくてもある程度の役割を果たす可能性が高いという感じです。

カバー社のメタバースについてはこちらの記事でも細かく妄想しているので参照して頂ければと思います。

メタバースと言えばmeta社(Facebook)のメタバース事業が思い浮かびますが、成功可能性はカバー社の方が何倍も高いと思います。有価証券報告書の中にもあるようにメタバース事業は①キャラクターIP事業の成功モデルを持ち込めるかどうかの要素を非常に大きいです。
そういう意味ではホロライブというのは文化として根付くまでは行っていませんがキャラクターIPビジネスとしては大きな成功モデルとして成立している状態です。

P13

このような記載もあるのでここはカバー社としても強く優位性を持っている部分かと思います。


構造としてはこんな感じでしょうか。

IP事業が成功するという事はその他の事例と同様の展開ができるという事でもあります。ディズニーの様にホロライブの映画やアニメを展開したり、ガンダムのガンプラの様にホビーグッズに力を入れたり、ドラゴンボールの様にメディアミックスやゲームでの展開も可能です。

そうですね、同様の事が直後に記載がありました。

P13

そういう意味では「アイドル」というステータスを付与している部分は戦略的でしょう。キャラクターのブランド価値を守る際に、このアイドルという肩書きは演者、いわゆる中の人の行動にある種のルールを科す効果があります。同時にキャラクターそのものの価値を1段階引き上げてくれる役割も果たしそうです。結果論かもしれませんし、戦略的かもしれませんし、わかりませんが非常に良い状態を維持しやすいと思います。
これはANYCOLOR社よりもモラルや行動制限を持たせる事でIP化の際のリスクを大きく下げていると見れるでしょう。

話をメタバースに戻して、このメタバース事業は投資額も大きい為カバー社の業績の中で利益をある程度圧迫している部分であるのも事実です。その為利益率や額面でANYCOLOR社を下回っている点が数字だけ見るとネット上では一部指摘されるようなものを見かけます。
ですが、既に書き連ねている様にプラットフォームとしてのメタバースは予測される投資対効果はかなりの大きさになると思われます。そういう意味では2024年中にはリリースすると発表している事から、試験運用を経て2025年には実を結ぶ可能性があります。その際の収益性、安定性は海外展開も進捗している事からかなり期待できるでしょう。
責任は持てませんが株を検討されている方は超短期で見ていなければ個人的には持っておくと良いんじゃないかと思います。


■課題とリスク

P14~

対して事業である以上幾つかのリスクがあるのも事実です。

要約すると以下の様な感じです。
【課題】
・演者の確保と育成
・キャラの魅力の継続と持続性
・最先端技術を使用していく事による開発、投資コストの確保
・高度専門分野人材の確保
・ユーザーとの関係性

【リスク】
・YOUTUBE等のプラットフォーム依存
・外的要因による予期せぬ市場縮小
・法規制による影響
・演者の活動頻度と活動停止
・炎上リスク
・時期に依る収益のバラつき

他にも記載はありますがこんな感じでしょうか。
このあたりの内容はANYCOLOR社と似ている部分もありますが同じ業界なので仕方ない部分と思います。

最も怖いのは演者の活動停止リスクで、これはANYCOLOR社とも同じですね。例えばさくらみこさん、兎田ぺこらさんらの上位演者が立て続けに引退したとすると致命的な影響の大きさが懸念されます。
特にコロナの様な「病」については未知の感染症などが流行した際に演者の大半がまともに活動できなくなるというリスクは他企業よりも大きいです。替えが利かないので。
そういう意味では新人の育成、配信以外の活動スタイルの多角化というのは優先的な取り組みかもしれません。例えば星街すいせいさんの様な歌を基軸とした活動スタイルなどです。
ただし、同業のANYCOLOR社と比較した際にVTUBER同士の格差というのはそこまで大きくないのでそこまで致命的ではないかもしれません。

このあたり、所属VTUBERに対する待遇という面では私見ですがホロライブの方が物理的にも精神的にも手厚い印象です。恐らくですが自身の意思で引退するライバーが出ているにじさんじと違い、ホロライブのホロメンは自身の意思で引退するホロメンというのは中々出ないと思われます。というのもVTUBERとして活動する上でホロライブ以上の環境と言うのが現状存在しない為です。
つい先日休止中だったラプラス・ダークネスさんが復帰の発表をしました。3か月の休止後ですが会社としてのバックアップは代表である谷郷さんが「おかえり」とリプをした事が、会社としてしっかりするぞという号令でもあります。こういった活動しやすい環境、更に言えば今後どうなるかはわかりませんがホロメンとしての活動以外の活動も認めている点も演者としてはホロライブを去る理由を消去していると思われます。

次点的に怖いのは外的要因による市場縮小でしょう。物理的なものであればロシア、ウクライナ戦争の様なものが直接的にホロライブの市場のある日本や海外の国で起きたりすればVTUBERを見るどころではないという事になります。戦争は極端な例ですが。また、AIの動きが予測できないので急激に自我を持ったような高度なAIとコミュニケーション技術を持ったプロダクトなどが出てくれば一気に市場を持っていかれる可能性もあります。
また、炎上リスクもレベルによっては一発で企業価値を吹き飛ばすケースもあるので油断できない上に、生配信というのはその確率を引き上げる方式でもあるのでリスク管理と教育は優先課題という事がわかります。
法規制はどの事業者でも同じですが、法律が一つ出来るだけで潰れる業界があるので防ぎようはありませんが、コマース関連の割合が大きい事から販売に関わるリテラシー強化を事業関係者に徹底、維持させていくのは重要です。

これらは内容を見るに十分理解した上で対策は講じているという印象です。

■その他

ストックオプション

P31
P31

内容を見ると業務委託契約者も対象とする、という事が書いてあるのでホロメンも購入する事ができると思われます。
このあたりは将来に対する貢献度的な内容もあるので、完全に憶測にはなりますが6期生ももしかしたらある程度はいけるのかもしれません。

以前こちらの記事でホロメンにもストックオプションの権利は与えた方が良い的な記事を書きましたが恐らくそういったインセンティブはありそうです。このあたりはにじさんじのANYCOLORとは大きく違うところだと思われます。

ANYCOLOR社の上場時有価証券報告書のレビュー記事ですが、見る限りではにじさんじのライバーはストックオプション付与対象ではなかった様に思われます。このあたりは経営者の考えが反映されやすい部分なので田角さんと谷郷(YAGOO)さんの考え方や理念の違いでしょう。


P5

ページは遡りますが市場が何を評価するのかという部分で、チャンネル登録者数を前面に出す指標にしています。ここはホロライブの戦略が活きる部分で箱推しが多い事で一人が複数チャンネルを登録する特性が活かされています。コアなリスナーでなければ同時接続数よりもわかりやすい指標で表に出しやすいわかりやすさがあります。

■終わりに

通して見てみて、ANYCOLOR社の有価証券報告書の内容とその後の市場の反応も見た上での綺麗な内容だったと思います。目立つ矛盾点なども無く、既存事業と中長期の展望についても親和性が高い内容になっていて期待値の高いものだったのではないでしょうか。

・谷郷元昭(YAGOO)という人格者

上場承認時の谷郷さんと田角さんのツイート比較です。
いいね数、RT数の多さもそうですが、コメント(リプ)の多さが圧倒的です。基本的にはおめでとうの祝辞ですが愛され度合いが半端ではないです。これは田角さんがそもそも露出が少ないというのはありますが、谷郷元昭さんの人柄が強く表れているものかと感じます。
お会いして話した事などはないですが、ホロメン、社員、関連企業取引先からも慕われているのはネット上で見られる情報からも推測できます。

これは経営者としての強さに繋がるのでそのままカバー株式会社の強さにもなります。徳を積んでいる人である程に助けてくれる人の数は多くなりますしトップに立つ人であれば持っていた方が有利な資質です。

ANYCOLOR社の際にも書きましたが、有価証券報告書や決算報告書などは隠そうとしても何かしらその会社のキャラが見えて来たりするものです。個人的には違和感などは感じないイメージ通りの企業でした。

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