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ライターコジマのしくじり事件簿|偉い先生を怒らせて、依頼主の部長が謝罪文を書くはめに!

前職の編集プロダクションに入社して2年目、書く力もビジネスキャリアもほとんどない小僧だったころだ。ある科学シンポジウム企画の一担当者として、登壇予定の大学教授のところへ事前打ち合わせに行った。タイミングよく東京で学会があるので、宿泊先のホテルで会いましようということになった。場所は忘れもしない、竹橋にあるKKRホテル東京である。

事前に登壇OKの返事はもらっていた。会う目的は、スピーチ内容のざっくりした方向性を聞く(相談する)こと。シンポジウムの告知広告を制作するので、その取材のためだ。

まずは、教授が泊まっている部屋に入ったとき「キミ1人なの?」と怪訝な顔をされた。

受託のお礼、シンポジウム企画の概要や聴衆層、依頼主(出版社)が期待していることなどを改めて説明していくうちに、教授の態度が変わってきた。ベッドに横になって話し出し、こちらの問いにも生返事。「変なだなぁ…」と思ったけど、聞くべき話は聞けたので四ツ谷のオフィスへ戻った。

そのときすでに、教授は出版社へお怒りの電話をかけていたらしい。「あんな素人みたいなライターを寄こすのは失礼だ!」ということがお怒りの主な理由だ。まあ確かに、ワタシは専門のサイエンスライターではないし、普通のライターとしてもまだ1年ほどのキャリアしかない。まともな会社に就職したのも初めてだったので、ビジネスマナーを含めた立ち居振る舞いも落第だったのだろう。

なんせこっちは1年前まで海外をフラフラしていた旅人、つまり住所不定無職のガキだったのだから。立ち居振る舞いやマナーを期待されても困る。というか無理。その仕事にワタシ1人でいかせた会社が悪いのだ! でも当時は、なぜその教授が怒り出したのかよくわからず、すべて自分1人が悪いのだと思っていた。どこが悪かったのかもわからずに。

結局は出版社の担当部長が「すみません、以後気をつけます」という謝罪文を教授に提出したら腹の虫が収まった。ワタシは関係者から事情聴取(!)され、ホテルの部屋で起きたことを自分なりに客観的にすべて伝えた。ワタシの話を聞いた担当者部長は「はは~んなるほどね」みたいな顔をして、「わかったよ。あまり気にしなくていいからね」と言ってくれた。

いい人だぁ。(実際いい人だった)

つまるところ、「俺は偉いのでもっと大事に扱え」ということだったらしい。ワタシの発言や態度も問題だったかもしれないが、もしあのときに出版社や代理店の人間が揃って訪問していれば何も起こらなかっただろう――というのが、こちらサイドの最終的な結論になった。

以後、その教授とのやり取りはワタシたちの編プロではなく、出版社が直接やることになった。それでまったく問題なく進んだし、シンポジウムも盛況裏に終えることができた。ワタシは手間を増やしてしまって申し訳ない気持ちもあったが、何よりその教授が怒った本当の理由というか感情の構造がずっとわからないままだった。

ずいぶん後になってわかったことなんだけどさ。「先生」と呼ばれるような偉い(と自分で思っている)人と対応するには、そのセルフイメージに合った立ち居振る舞いが求められるんだね。これを「上手にあしらう」というのでしょう。そういえばあの教授、ワタシと2人きりのときは怒らなかったなあ。そういうことなんだよね。ややこしいなぁ。

この仕事はひとつの教訓になったんだけど、アホなワタシは同じ仕事で数年後、似たようなしくじりを犯してしまうのだった…

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