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リモートワークで新人が楽しく成長できるようにする(#19)

この記事の初出は、Software Design 2023年10月号です。


リモートワークでも新人育成はできる?

筆者のチームは、リモートワーク中心の開発チームで、新人育成もリモートワーク中心で行っています。
リモートワークにおける新人育成は、コミュニケーション不足になりやすいため、スキルや業務知識を習得しづらい、職場の人間関係になじめないなどのことが起きやすいと思います。
ただ、コミュニケーション不足を補うプラクティスを行うことでその課題は解消できると考えています。

今回は、新人配属後のフェーズごとに筆者のチームで行っている新人育成のプラクティスを紹介します。

配属初日 [初日にモブプロで業務を体験]

新人は配属後しばらくは学習期間が必要であるため、すぐには業務に入れません。
しかし、これから学ぶことが実際の業務でどう使われるか知らずに学習を進めても効率が良くないと考えます。
そこで、配属初日に、チームのタスクにモブプログラミング(以下、モブプロ)で参加してもらいます
学習期間後に、チームでどのように仕事を進めるのかを理解しておいた方が、学習意欲も高まると思います。
ただし、初日にモブプロに入っても、用語が難しく理解できないことが多くて新人にとっては大変です。
それを強制しては効果が半減することもあり得ます。
そのため、多少大変でもやりたいかどうか意思確認をして本人に決めてもらいます。
その上で、できるだけドメイン知識がなくても理解しやすいタスク(テストコードの作成など)のモブプロに参加してもらい、チームの皆で各自が意見を出し合いながら楽しそうに仕事を進める様子を体験してもらいます。

その後に、しばらく学習期間を確保します。
学習期間の最初には、チームで習慣化していることに慣れてもらうため、新人に次の4つのことを説明しています。

学習期間初期① [リモートワークの知見を説明]

チームで行っているリモートワークを快適に行うための知見を説明します。
特に、「今から通話いいですか」というやり取りを省略してビデオ通話を開始する文化であることを共有します。
以下の記事を参照ください。

学習期間初期② [インセプションデッキの説明]

インセプションデッキとは、メンバーみんなで議論して決めたプロダクトづくりにおける共通認識です。
特に、筆者のチームのメンバーは、プロジェクトの成果を出すことと同じくらい、「発信活動を継続しながら成長したい」「失敗しても良いからチームで新しいことにチャレンジしたい」ということに価値観を持っているという特徴があるので、それを新人に説明します。

学習期間初期③ [分報の活用方法を説明]

筆者のチームでは分報を活用しているので、本連載の第5回「分報で各自の作業を可視化して皆で協力し合う」の以下の記事を用いて分報の活用方法を説明します。

最初の頃、新人は先輩に声をかけたり、チーム全体のチャンネルに質問を投稿したりすることに、気後れしてしまう傾向があります。
そのように気軽に質問できない時期は、なるべく自分のチャンネルで状況をつぶやいてもらい、他メンバーが新人の分報を気にかけるようにします。そして新人が困ったことをつぶやいたら、すかさず誰かがフォローします。

学習期間初期④ [暗黙知を動画で説明]

配属したばかりの新人向けに、暗黙知を含む知見を教育用の動画として残しており、それを適宜 視聴してもらいます。
たとえば、不具合の原因を具体的に特定していく方法や、ある技術について調査する方法などを動画で実演しています。

学習効果を高めるために、動画を観てもらった後、そこからどんな学びがあったのかを説明(言語化)してもらい、それに対してフィードバックをします。

配属後毎日① [ビデオ通話で毎日会話]

前節までが学習期間に新人に説明する内容でした。
これと並行そて新人配属後に毎日行うプラクティスを2つ紹介します。

新人の配属後1~2週間くらいは、チームメンバーが特に用がなくても新人に1日1回ビデオ通話で話しかけるようにしています
これにより話しかけても大丈夫そうな先輩という認識を作ります。

学習期間は、事前に作成したカリキュラムに従って1人で学習を進めてもらいますが、その学習の理解度を毎日ビデオ通話で確認してフィードバックします

最初の3ヶ月程度は、ビデオ通話で毎日15分の振り返りを行います(いつまで続けるかは状況によります)。

配属後毎日② [毎朝15分の勉強会]

日々、学んだことをアウトプットする事は効率的に成長するために重要です。
学んだことをアウトプットする習慣を作るファーストステップとしてお勧めなプラクティスが「毎朝15分のアウトプット勉強会(書籍編)」です
これは読んだ書籍の重要ポイントを自分の言葉で人に説明するという勉強会です。
アウトプットすることで自身の成長を実感できるようになります。
本連載の第7回「毎朝15分の書籍勉強会でアウトプットを習慣づける」の以下の記事を用いてやり方を説明しています。

また、最初に読んでもらうのは報連相に関する書籍にしています。
報連相には、様々なテクニックがありますが、一番大切なのは「相手が判断するために、適切なタイミングで適切な詳細度の情報を伝えること」だと思います。
それが伝わる書籍ならどれでも良いと思いますが、書籍を読んだからと言って急にできるようにはなりません。
そこで、この勉強会で報連相の書籍を読むことで、チームで共通の知識として「書籍にも書いてありましたね」と書籍と関連付けながら指導を行うことができ、効率的に「報連相」のスキルの成長が期待できます。

その上で、チームメンバーは新人から相談された時は、快く対応し、そのタイミングで自分から相談してくれた事に対してポジティブフィードバックします

業務参加後 [業務はペアプロ中心で行う]

学習期間の完了後、実際の業務を担当してもらう際は、最初のうちはペアプログラミング(以下、ペアプロ)を実施します。
これは、ペアプロでその成果物をどのように考えて作るのかを体験してもらい、その考え方をしっかり理解してもらうためです。
対象成果物がソースコードであってもドキュメントであっても、同じようにペアプロで考え方を理解してもらうことを優先します。

そうすれば、新人がレビューで大量の指摘をして大きな手戻りになることもなく、分からない事や困った事があっても随時質問してもらって解消できます。

新人指導時に気を付けること

最後に、新人を指導する際に、チームの皆で心がけていることを紹介します。

  1. 振り返りにおいて指導担当者が気を付けることは、エンジニアとしての成長を加速させるための姿勢や考え方を身に着けてもらえるような問いかけをすることです(今、困っていることを解決することではありません)。例えば、新人が理解したと報告した内容を、実際に説明してもらうとよく分かっていないことがあります。そんなときは、正しく説明(言語化)できるように問いかけて、人への説明を通して本当に理解できたことを実感してもらい、アウトプットの重要性を理解してもらいます。

  2. 新人の成果の確認時や毎日の振り返りにて、必ず1回以上ポジティブフィードバックをします。

  3. 新人から技術的な相談やツールの使い方などを質問された時に、言葉だけで伝えるのでなく体験して学んでもらいます。例えば、ビデオ通話で画面共有してその技術を使った活用例を見せたり、ツールの活用例を実演したりします。

  4. 新人から質問された時、その質問内容が適切に言語化できていなくても、おおよそ質問内容が理解できることがあります。その場合に、こちらで「こういうことですね」とすぐに適切な言語化をするのでなく、問いかけをして本人に言語化してもらうことを通して、言語化能力の向上を促します。

まとめ

新人育成は、たくさんの会話とフィードバックを行うことが大切です。
本稿のプラクティスを参考にフィードバックをたくさん実施してもらえると良いと思います。

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