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⑥ヒト生体タンパク質由来の抗菌ペプチド探索 第2章 抗菌ペプチド探索 1 亡霊復活

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第2章 抗菌ペプチド探索 

1 亡霊復活

 医学生のころの生化学実習が、ぼくの生化学(分子生物学)との出会いだ。当時は、まだ、遺伝子解析がはじまりだしたころで、中心はタンパク質の精製や解析。それでも、ミトコンドリアのATP産出酵素などの研究に少し触れて驚き、一瞬基礎医学の道にいこうと思ったときもあるが結局ぼくが選んだのは外科医の臨床だった(この、一瞬の迷い、の選択には、「精神科」というのもあった、ことを一言添えておく)。
 外科、といっても、最初ぼくが目指したのは、移植医療だった。4年間の外科研修の後、ピッツバーグに1か月、パリに2年間移植医療の研修(ドナー手術やレシピエント手術)に行った。だが、主に、日本で移植医療が根付かない、という背景もあったりして、結局、移植外科から、一般外科、腫瘍外科へとかわったのだった。
 それでも、博士論文は、「異種移植」に関するものだった。当時の最新研究は、ブタ臓器の遺伝子操作だったが、(このブタ臓器の遺伝子操作後の異種移植は、最近、ブダ腎臓の移植に失敗したというニュースが流れた。残念ながら、この試みは30年間、うまく行っていない。だがまだあきらめていない人もいるのだ)ぼくは異種移植の「超急性拒絶反応」を抑制するための補体制御や、異種移植に関する自然抗体、の研究を題材にした。
 このときにペプチド型薬剤にであったぼくは、これを契機に、ペプチド薬剤のデザイン等をおこなうようになっていった。
 
 ぼくの名前の入った掲載論文のリストがぼくのパソコンに入っている。計42。ほぼすべて、開業医前のものだ。ただ、これから大学の先生へ応募でもしない限り、このリストは役にたつことはあるまい。
   (補)今回はWEBにはリストはのせない。
 
 リストの中には、当時、同じ研究室の研究者のお手伝いをしただけのものもある。
 お手伝いといっても、同じ研究室にいて、ときたま顔をあわせるというお手伝いにすぎないが、この方式で、大学の教授になるような人は、数百にのぼる論文に自分の名をのせる。
 大学病院から一般病院に移ってからは、臨床系の論文もある。例えば、腹腔内脂肪が腹腔鏡手術におよぼす影響とか(腹腔鏡手術も、ぼくらのころからはじまりだした)、胃癌治療における新しい抗がん剤の組み合わせの臨床試験経験とか。これらこそ、多くの医者の中に混じってぼくの名前がでてくるだけだが、これも「1本の論文」である。
 一方、このリストの中には、当時、ぼくが頭をひねりだした、オリジナルな考えがはいっているものもある。
 だが、それらの中には、教科書を書き換えるような発見もなければ、後に、社会に役たつような画期的なものなども、ない。
 もちろん、研究していた当時は、そういうものを発見できたら、とは思っていた。
 だが、残念ながら、そういうものには巡り合えなかったのだった。悔しいがそれが事実だ。
 
 これらの論文の中には、日本人のノーベル化学賞受賞で話題になった「質量分析器」を使ったものや、当時トレンドになりはじめた「データマイニング」という手法を使った論文もある。
 最近、日本人でのノーベル医学賞の受賞対象となったもののうち、もっともよく知られているのは、iPS細胞作製に関するものである。
 このiPS細胞作製技術の本質は、拒絶反応をおこさない大量の任意の自己細胞をつくる可能性がでてきたということである。新しい知見というより、新しい道具である。
(ぼくはかつて移植医療を志したので比較的よく知るが)細胞移植による疾患治療というアイデアそのものは既にもともとあった。だが、細胞数が足りなかったり、拒絶反応があったりしてうまくいかなかったのだ。それを実現するための道具の可能性を開いたのがiPS細胞作製技術ということである。だから、iPS細胞作製技術は、臨床によってその有用性を示すことではじめて真の価値を表すのである。
 その他、免疫チエックポイント阻害については、抗がん剤につながり話題になることもある(その効果は必ずしも大きくないにせよ)が、オートファジー理論に至っては、臨床の現場ではあまり聞かれない。
 日本の基礎研究の問題点についてモノ申したいことがないわけでない。だが、もう過去のことだし、ここでは触れまい。ただ、結局のところ、10年前に開業すると同時に、そういう研究からは遠ざかった。ただ、その事実があるだけだ。要するに、残念なことに、ぼくは医学の分野で、何か残すことができなかった。
 開業医になることを選んだのは、その事実を受け入れたからである。
 ぼくは研究者としての道をあきらめたと同時に開業医になったのだった
 
 それでも、大学病院から一般病院に移って勤務医になると多くの医者が論文を書くのを辞める中、勤務医になってからも、少しずつ論文を増やしていった自分を、懐かしむとともに、結局話題にもならず消えていってしまった、いくつかのアイデアをせめてここに書き残しておこうと思う。
 墓石に言葉を刻むように。
 
①  あるタンパク質の一部の配列を切り出すと未報告の新規抗菌ペプチドになることを示した。
 
 実際に、あるタンパク質が生理的に(プロテアーゼにより)分解された後、生理的な抗菌ペプチドとして体内で働くケースがある。
 そのアミノ酸配列を分析していくと、「抗菌モチーフ」というものを同定できる(具体的には、そのアミノ酸配列のつくる「疎水モーメント」が高く、「平均疎水度」が低く、かつ、陽イオン性アミノ酸の割合の多いこと)。
 これを実際に、ペプチド合成してみると、確かに抗菌性をもつ。
 これらのペプチドが、生理的に存在するかはおいておき、人間の体内で「異種物質」として認識されない、人間の体内に投与可能な抗菌ペプチドの候補となりうる。
 
 この抗菌ペプチド配列を予想する手法によって見出した抗菌ペプチドのいくつかは物質特許も取得した(もう20年も前の話だが)。
 
②  あるタンパク質の結晶構造や、タンパク質内の、アミノ酸配列を分析して、「タンパク質相互作用をおこす結合部位」というものを予想。それに結合する、「ペプチド」をデザインし、これを、実際の実験(in vitro)で検証する前に、Autodock (当時は、最先端の、物質相互作用のシュミレーションのための、無料でだれもが入手できるオープンソフトウェアだった) などのシュミレーション技術(in silico)でスクリーニングする。
 
 
この手法の問題点は、
(1)「ペプチド」のデザインをどうするか?
 たとえば、6つのアミノ酸のペプチドの配列候補は、20の6乗個の組み合わせ候補があるが、この数はコンピュータ―でも計算がたいへんなので、どうしぼりこんだらいいか?
(2)in silicoのドッキングソフトの精度が完全ではない。
 当時から、少なくとも、結晶構造のわかっているタンパク質を扱ったほうが、in silicoシュミレーションによる立体構造しかわかってないタンパク質を扱うより、いい結果がでるという印象があった。
 そして、今現在、Autodockは公開が「中断」されている。AlfaZero 、そしてAlfaFoldに代表される機械学習(AI)の出現に影響をうけて、今、開発者たちが、その精度をもっと上げるために、見直している最中なのだろう、と予想される。
(3)そもそも、ペプチド型薬剤は、(例外はあるが)壊れやすく、結合力も小さく、小分子薬剤や、大きなタンパク質製剤に比べて、臨床応用でのハードルが大きい。
 「ペプチドには手を出すな」
 だが、これは、日本内部で特に強い風潮(偏見)の可能性が大きいとぼくは疑っている。
 ぼくが開業医になってからのこの10年間の新薬の例の中には、いくつかの「ペプチド型薬剤」もふくまれている。
 それは、新しい糖尿病治療薬の中で、いずれもDPP4阻害薬(もしくはGLP-1受容体作動薬)に分類されているGLP-1(ビクトーザ、オゼンピック、トルリシチィなど)あるいはGIP(マンジャロ)、あるいは、リベルサス。
とくにこのリベルサスという薬は、今まで不可能とされてきた、ペプチドの経口投与が可能になったものだ。
 他に、 骨粗鬆症治療薬でPTH(テリボン)もある。
 
 ぼくが、かつて研究をしていた当時の創薬ターゲットは、IgE(花粉症などのアレルギー抑制)MSH(美白?メラノーマ治療)などがあった。これらは、今でも取り組む価値のあるターゲットに違いないとぼくは思っている(まあ、20年前に、ぼくの進歩はとまってしまった、といえないこともないが)。
 ペプチド型薬剤の弱点を補うために、アミノ酸を一部置換したり、MAPという形やD型アミノ酸や環状型などを導入するという工夫もあるだろう。
 ペプチドは、経口投与だと消化酵素のひとつであるプロレアーゼで分解されたり、静脈注射で投与すると血液中のプロテアーゼでたちまち分解されたり腎臓から排泄されてしまうので、一般的に皮下注で使用される。また、アミノ酸の分子量が大きいため、塗薬では皮膚から吸収されない。だが、点鼻経路、あるいはリベルサスのような工夫された経口経路、というやり方もあることであろう。
 
 ③  血液型抗体や、異種抗体のような、もともと体内に存在する、がん自然抗体が存在するのではないか?(仮説の提唱)
 
 抗体で有名なのは、いわゆる「獲得抗体」である。たとえば、体内にはいったウイルスを排除できるのは、人間の体は、異物であるウイルスに対する抗体を1週間ほどでつくることができ、この「獲得抗体」によってウイルスを排除するからである。
 たとえば、インフルエンザやコロナウイルスに対するワクチンとは、あらかじめ、ウイルスに対する抗体をつくっておき、ウイルスが体内に侵入したとき(1週間待たずに)即座に抗体によりウイルスを排除しようとするものである。
(注意 抗体がすぐそこになくても、一度その抗体を作った記憶があれば、1週間もまたず、数日で抗体をつくることができる。これこそ、ワクチンによる重症化予防のメカニズムのひとつである)
 一方、血液型抗体や、異種識別抗体は、一度もそのような「異物」が体内に侵入したことがなくてもあらかじめ人間の体内にあるもので、これは「獲得抗体」に対し「自然抗体」と呼ばれる。
 ところで、人間が、がん細胞を自分で排除する際に役に立っている抗体の多くは「獲得抗体」であるが、一部がんに対する「自然抗体」もあるのではないか?
 もし、あれば、それを応用した、新規抗がん剤開発の可能性もある。
 既に体内の一部のIgM(自然抗体の多くはIgM)が、抗ガン活性をもつことは昔から提唱されているが、単離には今も至っていない。
 ぼくもまた、「がんに対する自然抗体」の存在の直接的な証明はできなかった。
 間接的に、「IgM―がん固有タンパク質」の免疫複合体の存在をしめしたのが、ぼくの仕事だった。
 ただ、、これらの「IgM―がん固有タンパク質」の免疫複合体は、リウマチ患者など自己免疫疾患患者に多く検出され、さらに一部のそれらの患者は、ある種のがん罹患が少ないことが知られていることを報告した。
 
    *
 
 そして、今回、ChatPPTの助けで昔のプログラムを再現して、再び研究にとりくむ可能性がでてきたのは、3つ紹介してきたうちの、①に他ならない。
 
 言い換えれば、「死者の復活(亡霊)」である。
 

①へのリンク:https://note.com/kojikoji3744/n/n73e095a67c68

次⑦ヘノリンク:https://note.com/kojikoji3744/n/nc3f813d937d2?sub_rt=share_pb

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