父の形見は思いもよらないものだった
「父はこのまま蒸発するかもしれないが、決して探してはならない」
これは私の父が私と母に残した、とある週末の書き置きです。
達筆だった父は驚くくらい綺麗な字で、
そう言い残して二度と帰ってきませんでした。
..........と言いたいところではありますが、
父はしっかり帰ってくるのです。
娘の私としては、父のこのユーモアが思い返せば返すほどクスッと笑えます。
どこで誰と何をしていたのか、
1人だったのか
そんな事すら今は知る由もありませんし、
娘の立場の私は、蒸発未遂をしている父がどこで誰と何をしようと全然興味がなかったと言っても過言ではありません。
しかし、
もしかしたら母は、はらわたが煮え繰り返る程、腹が立っていたかもしれません。
私にとっては父親ですが、
母にとっては「愛する男性」ですからね。
愛する男性が、探すなと言い残し、家を空けるなんて事があると思うと、
「愛する男性」がいなくても想像するだけでなんだか腹が立ちます。
この手紙の中には、
週末家を空ける間に、母娘喧嘩をするんじゃないとか、私たち母娘に対しての注意事項をつらつらとしたためており、父に構うな、それぞれの生活を大切にしなさいなどと言った事が書かれていました。
「なんだよ、これっ!」とくしゃくしゃにして、ポイっと捨ててしまいたい気分になるような内容なのですが、今では父の形見になっています。
こんな父のユーモアは
家族といる時以外にも発揮されていたのか
家族のみ知る貴重なものだったのか
今となっては謎ですが、
蒸発せずにいてくれてありがとう、と思うところであります。
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