お家騒動と男の浮気は歴史から学ぶ②
「昔々、美しい王女様と素敵な王子様が恋に落ちました。」
そんな風に始めた物語の後半戦である。
前回、今のスペインの元となった、カスティーリャ王国の後継者であるファナ王女とその夫であるフィリップ王子の出会いから、
彼らがお国を継ぐ事になった辺りまで話したところだったのだが。
ちなみにトップの絵画はイザベルが亡くなる前に遺言状のようなものにサインをしている様子。
この1番左の女性はファナ。
彼女はイザベルの最後は看取っていない。
浮気男、ではなくフィリップを追ってスペインを離れていたからだ。せめてもの希望が絵画には描かれているのだろう。
ファナ王女は別名「狂女 ファナ」と呼ばれていた。
夫の浮気相手であった女官の顔をハサミで斬りつけた、なんていう話も残されている。
この女官も女官なのだが、フィリップ王子から貰った恋文を胸元に隠し、他の女官に自慢げに見せていた所をファナに見つかってしまったとか。
憎ったらしいったらありゃしない。
とも思うが、顔を斬りつけるというのもなかなかの度胸がないと出来ない事でもあるのは確かだ。
そんなエピソードから「狂女」という別名がついてしまったのか?
続きを話そう。
イザベル女王の死後、
今のスペインの元であるカスティーリャ王国の女王となり、夫フィリップを連れてカスティーリャ王国に戻ってきたファナ。
2人の生活も安泰か、と思いきや
夫のフィリップが突然、謎の死を迎えるのだ。
続く浮気が体を蝕んでいったのか、
突然、という言葉が本当に相応しいような死だったようだ。
当時のヨーロッパでは疫病ペストが流行っていたが、まさかそれだとしたならば、ファナを含む王室の中でもたくさんの被害があっただろう。
しかしそういった記録がない為そうでもなさそうだ。
もしかしたら何か変なものでも口にしてしまったか。
運動をした後に大量に水を飲んで、その水にあたっちゃったなんていう話も。
フィリップの存在を疎ましく思っていた王室の毒殺説も否めない。
とにもかくにも、床に伏せてから
あ!っという間に死んでしまったのだ。
浮気男の死。遊び人の死。
ふっと鼻で笑って彼の残した財産をまるっと頂いたら安泰だい!と、思いきや
ファナは大きなショックを受けてしまうのだ。
愛する夫の死を境に
ファナ女王は完全に機能停止してしまったようだ。
夫の亡骸と共に、スペインの荒野を数年にも渡って彷徨い始める。
どうゆう事?と思うだろうが、そのまんまの意味である。
そんな様子を絵画で見てみよう。
この絵はマドリードのプラド美術館にて、鑑賞頂くことが出来るのだが、ファナの話を知った上で観ると、感慨深さも倍になる。
真ん中の黒い喪服に身を包んで立ち尽くしているのがファナ。
棺の中には、浮気男、ではなく愛するフィリップが。
たくさんの使いと共に、ファナは何を思いながら彷徨い続けたのだろう。
夏のスペインは、日中外なんか歩いた日には
カラッカラの煮干しになってしまいそうに暑いので、夏は陽が落ちたあたりから歩き始める。
しかも陽が落ちるのが遅いので、真夜中に歩き始める。
棺を持った大名行列のような集団が真夜中に歩いている様子なんて、ホラーでしかない。
しかもこれが一国の女王がしているともなれば、市民としても不安しか感じないのではないだろうか。
今の日本の政治家レベルの話ではないようにも思う。
結婚生活の間のヒステリックな行動や
夫の死後の奇妙な行動までが
「狂女王、ファナ」
という別名を残す事になってしまったのだ。
ついに見かねたファナ女王の父、フェルナンドは彼女をとある城に幽閉し、摂政として彼が公務を遂行していたという。
幽閉されてから、死ぬまでのおおよそ50年間程、ファナはそのお城の中で過ごしていたのだ。
しかしファナは絶対に失脚をしなかった。
死ぬまでカスティーリャ王国の女王として君臨していたというから、芯の強さと言うのは死ぬまで続いていたのだろう。
ファナとフィリップの恋物語が
ドロドロの不倫劇に発展し、
永遠の別れを機に頭がおかしくなってしまう。
今も昔も男女の物語にそう大差はないのだな、と実感する。
しかしこの2人の結婚生活がなければ、今のスペイン史は成り立たない。
時は大航海時代。
2人の間に産まれたカルロスとその息子のフィリップと、スペインは世界1の国に発展していくのだから。
カルロスは、ファナに育てられてはいなかったが、フェルナンドの死後、スペインにやってきてファナと再会している。
弱りきって閉じ込められている母を見て
どんな気持ちだったのか想像してみる。
彼は家臣に
「いかなる時も女王として接するように」と話し
彼女が死ぬまで
必要な公務の書類には必ず女王ファナの名前を添えていたという。
私はこの母と子のエピソードがとっても好きだ。
しかしそもそもファナは本当におかしくなってしまっていたのだろうか?
何かを守るための“ふり“だったのではないのか?
そんな想像がまた一つファナの物語を面白くしてくれるのだ。
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