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赤星香一郎短編集

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お仕事の合間にちょこっと休憩しませんか?
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二十年目の同級生

 二十年ぶりの故郷のベンチに一人座り、私はうなだれていた。  会社が倒産した。  創業から目をかけていた開発部長が会社を辞めてから、たった半年後のことだった。  私は二十年前、七条高校を卒業し、東京の大学に入学した。大学を卒業して、大手ソフトベンダーに入社し、コンピュータの技術者として最先端を歩んでいた。  五年前、自分の理想とする会社を作りたくて、会社を設立した。技術がちょうど時代の流れにマッチしていたこともあり、会社は成功し、赤坂の一等地に社屋を構えるまでになった。  や

静かにしろ

 博多着の東海道新幹線「のぞみ」が東京駅から出発するのは朝九時のことだった。  その日、村山は大阪で大切な仕事があった。彼は本社渋谷区のIT会社に勤めるエンジニアである。  一ヶ月前、部長の上野が村山に言った。 「村山君、新製品の説明をするために、大阪に出張してもらえるかな?」  村山は新製品開発チームのプロジェクトリーダーだった。そのため大阪支社の人間に、完成間近の新製品を説明する必要があった。  平日の朝なら新幹線も混んでいない。わざわざ指定席にしなくても、少し早めに1号

顔文字

 小生は「顔文字」が嫌いである。  顔文字というのは、電子メールなどで、括弧などの記号を組み合わせて筆者の感情を表現するマークのことだ。例えば、笑い顔を表現する(^_^)や(^o^)などだ。フェイスマークとも聞いたことがある。  だいたい絵を表現したいのなら、画像データを送れば良いではないか。何故そのような姑息な手段を使うのか。  なにっ。データの送信量が多いからだって。この馬鹿者が。多いというのは1TBなのか? 100TBなのか? たかだか数MBではないか。そもそもデータ通

(^^)文字

 どこかで見かけたのですが、顔文字ヽ(^。^)ノを使うことに反対している人がいるらしいですね。(@_@;)  ボカァ、それを聞いたとき、( ゚Д゚)ハァ?と思ってしまいましたよ。  人の書く文章にまでケチをつける人(*_*)が現れたのですから、もう(+_+)ですよね。  いいじゃないですか、顔文字を使ったって。(^O^)  簡単に(^^)/や(^^;)や(T_T)で気持ちを表わせるわけですから。  だいたいそういうケチをつけている人って、頭の固い人が多いんですよね。┐('ー`

騎馬民族

 社員旅行の屋外焼肉パーティーでのことでした。  ボクらは日頃のハードな仕事の事を忘れ、焼肉を焼きながら、ビールを飲んで、みんなで談笑していました。  肉が焼けそうな頃合いになったとき、営業部先輩の木場さんが、開発部のボクのエリアに近づいてくると、食べごろになっていた肉をごっそり奪って、自分の皿に乗せたのです。そして木場さんは肉を口に入れ、不敵に笑みを浮かべながら言いました。 「ああ、うめえなあ」  ボクらがせっせと焼いていた肉を、ほとんど全部持っていかれたのですから、ボクら

このボカァ、ひどい目に遭いましたよ

「角田さん、またボクの飲み物を飲んだでしょ?」  角田さんはボクの同僚ですが、よく無断でボクの飲み物を飲むんです。今日はボクが買っておいた缶コーヒーと紅茶の2本とも飲まれていました。おそらくボクが席をはずした時に、こっそり飲んだのでしょう。 「えっ?」  隣の席の角田さんは、仕事中にもかかわらず、漫画本を読んでいました。ボクが声をかけると、ゆっくりと顔を上げ首をぼきりと鳴らしました。 「私がなにかしたかね?」  ガラガラと音を立てて車つきの椅子を引きずりながら、ボクの席へ移動

教授への言い訳

 級友の嶋田が私に電話してきて、開口一番に言った。 「おい、谷口。甘木教授が帰りにもう一度出席取ってたぜ。おまえだけだったよ。途中で抜けたのは」  聞いた瞬間、私の心臓は跳ね上がった。  なんてことだ。今日私は出席を取ったあと、こっそり教室から抜け出していたのだ。まさか二回も出席を取るとは思わなかった。しかも今日の授業は必修科目。落とすと留年確定になってしまう。 「教授、相当怒ってたぜ。代わりに、みんながとばっちりを受けて説教くらったんだぞ。まったく、人騒がせなやつだな」  

勧誘

「あなたはいま幸せですか?」  ここは大学構内、教養学部の近く。遅刻しそうになったので、急いで歩いていたら、突然同じ大学生とおぼしき女性に話しかけられた。  見ると「便利教」の勧誘らしい。この便利教は、大学内でよく宗教活動をやっているのを見かける。  ぶしつけに話しかけてきた彼女の顔を、おれはつくづくと眺めた。目は大きめ、鼻筋が通っていて、いわゆる美人だ。しかも聡明そうだ。だが、少しプライドが高く冷たそうな感じがした。相手が質問に答えて当然とでも言いたげな顔をして、おれをまっ

はないちもんめの謎

 「はないちもんめ」、なんと懐かしい言葉であろうか。  この言葉を聞いて、和やかな、ほのぼのとした印象を持つのは、筆者だけではあるまい。  諸君は幼少の頃、この「はないちもんめ」で遊んだことがあるだろうか。誰でも知っているこの遊戯、むしろ遊んだことのない人のほうが珍しいのではないだろうか。  「はないちもんめ」とは、数人で二つの集団になり、欲しい子を指名して、仲間を増やしていくという、原始的ではあるが、意外に奥の深い遊戯である。  筆者も子供の頃には、よくこの遊戯をして遊んだ

悪魔のプログラム

 おれはプログラマだ。名前は北村浩司。とあるIT企業の研究室で働いている。  現在、あるプログラムを作っている。人間の思考を持ち、会話ができるプログラムだ。  もちろん人間の思考をそのまま再現するのは、現段階では不可能だ。人間の持つさまざまな特徴をプログラミングしなければならないからだ。  それを解決するために、おれは人間の脳に相当する思考データベースを構築することにした。人間の複雑さは半端ではない。膨大な量のデータが必要になる。  しかし、データベースさえできてしまえば、さ

檜垣是安の秘密

「檜垣是安の最期がどのようなものであったか。それを話すと、その人に必ず不吉な事が起こる」  諸君は檜垣是安(ひがきぜあん)という悲劇の棋士をご存知だろうか?  将棋ファンのあいだでは、雁木(「がんぎ」将棋の戦法)の創案者として、知る人ぞ知る棋士である。  檜垣是安は、初代伊藤宗看(いとうそうかん)と「吐血の一戦」を闘った棋士としても知られている。  慶長十七年(1612年)に創設された将棋家は、二代名人大橋宗古の代に伊藤家と大橋分家が誕生して三家になる。宗古の娘を娶り伊藤家

AI将棋ソフト

 僕の友達だった永瀬君から、大学の時に聞いた話です。  永瀬くんは、コンピュータと会話が出来るAI将棋ソフトを購入しました。  購入先はひょんなことから見つけたサイトでした。対局できるだけでなく、ソフトと会話ができると謳っていたので、面白いなと思って購入したそうです。  購入ボタンを押すと、ソフトがダウンロードされて、自動的にパソコンにインストールされたそうです。  ソフトを起動すると、ソフトが喋りだしました。 「こんにちは、あなたのお名前はなんですか?」 「永瀬です」 「