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アインシュタインが望遠鏡として蘇る?

アインシュタインといえば、20世紀最高の科学者として、相対性理論をはじめとして現代物理学に多大なる貢献をしました。

出所:https://www.oit.ac.jp/is/shinkai/nishinomiya/2020nishinomiya.pdf

そんなアインシュタインが、望遠鏡としてよみがえる計画が欧州で進行中で、つい最近オランダがその半分の予算を担うと手を挙げています。

要は、
次世代重力波検出器「アインシュタイン望遠鏡」の予算19億ユーロのうち、約9億ユーロをオランダが負担すると発表した
という話です。

アインシュタインと名付けたのは、単に有名人だからではなく、元々「重力波」を1916年に初めて予言していたこともあります。

これは一般相対性理論の発表で触れられた理論的な予言で、当時本人自身もあまりにも微小で検出するのは困難だろう、とも添えていました。

今回は、未来の計画への露払いとして、その重力波と初の検出に繋がった歴史について触れてみたいと思います。

まず、重力波とは何か?
一言で言うと「空間の歪みを伝える波」です。

・・・といっても腹落ちはしないと思うので補足します。

一般相対性理論は、別名「重力理論」と呼ばれることもあります。

そこでは、重力を「時空をゆがませる存在」と位置付けており、重いものほど周囲の時空(時間と空間)を歪ませます。

よくトランポリンのようなピンと張った布で例えられます。布の上に重いものを置くほどへこみが大きくなり、そのへこみが周辺に置かれた物体に影響を与えることで、時空の歪みを視覚的にイメージできると思います。

時空がゆがむと直線する光(電磁波)ですら曲がって伝播し、歴史上初めて一般相対性理論が検証されたのが、まさにこの光がバナナカーブのごとく曲がって見える天文現象の観測結果でした。

そして、この空間のゆがみ自体が周囲に伝播していくことをアインシュタインは予言し、その現象を「重力波」と名付けられました。

ただ、アインシュタイン自身が観測困難と公言した通り、重力波はあまりにも微小なゆがみであるため、長い間科学者たちを悩ましてきました。

どれくらい微小かというと、1mの距離で10の21乗分の1mほど変化するスケールです。
といってもピンとこないのでスケールを変えると、地球と太陽の距離(約1.5億km)までに延ばしてやっと水素原子1個分の変化に相当します。
・・・この例えを聞くだけで心が折れないでしょうか?

次に、重力波を検出する原理について触れておきます。

現時点で主流なのは「干渉計」を使うやり方で、歴史的にはマイケルソンという方が光を伝える仮想媒体「エーテル」の検出に考案されたものです。(皮肉にもエーテルは存在しないことを証明したのがアインシュタイン)

2つに直行する長いレーンを敷きます。そこにヨーイドンと2つの光を往復競争させます。
重力波は空間、つまり距離が変化しますが、光自体は相対性理論によると「常に一定の速さ(光速)」で動きます。
ということは、
時間=距離(変化)÷速さ(一定)
のため2つの光がそれぞれゴールテープを切るタイミングは異なります。

その違いを干渉縞として観測するのが重力波望遠鏡の原理です。(そうとうざっくりと割り切ってますが)

そんな離れ業をやってのけたのが、アメリカが中心となって開発されたLIGO(ライゴ)という重力波望遠鏡です。

それも、アインシュタインが重力波を予言して丁度100年目にあたる2016年に、検出に成功したことを発表しました。(観測自体は前年の2015年)

LIGOの干渉計は、L字型に約4kmのレーンを設けて往復点(鏡)を設置し、陽子直径の1万分の一の変化を捕捉することに成功しました。

さらっと書きましたがもちろん苦難の連続です。
2002年から重力波観測を開始し、初期設計では2010年まで検知できずに5年にもわたる改良期間を重ねます。

そして2015年9月18日に改良版の正式稼働を予定していましたが、実際はその試運転を数日前から行っていました。

そしてなんと、その試運転期間の9月14日に重力波を受信しました。
当時の理論値では、4年ぐらいかければ想定している天体現象による重力波のずれを計測できると踏んでいました。

つまり、あと数日ずれていたら、下手をすると途中で研究を打ち切られていた可能性もあったわけです。

個人的にはこれは奇跡に近い出来事です。
というのも、そもそも上記で触れた想定の天体現象が観測期間中に発見出来ないと検知できません。

今まで触れませんでしたが、何もかも重力波として検知しようとしているわけではありません。
超重い物質同士が相互作用を及ぼすという特殊な天体現象を期待して、初めて上記の変化(陽子直径の1万分の一)を検知することが可能になります。
具体的には、(ブラックホールよりは若干軽い)中性子星同士が衝突する天体現象をターゲットにしていました。

ただ、これは数年に一度しか遭遇しないぐらいの珍しい現象なのです。
いかに、この数日のずれが明暗を分けたのかを少しでも感じて頂ければと思います。

実は、もう少しの僥倖(ラッキー)がありました。

元々は中性子星の衝突を想定していましたが、データからこれが「ブラックホールの衝突」であることがほぼ分かっています。
これも史上初の観測となり、今までは太陽のような(相対的に)弱い重力でしか出来なかった一般相対性理論の検証も併せて実現出来ました。

観測に関わった科学者のインタビュー動画を引用しておきます。LIGOの模様も垣間見ることが出来ます。

LIGOは、2016年の成功以降も継続して検出に成功しており、そのほかの国・地域でも重力波観測が進められています。

日本でも建設計画が行われ、KAGRAと呼ばれる重力波望遠鏡を2020年から開始しています。(LIGOなど他の地域とも協力)

そして、次世代版として、ドイツ・オランダ・ベルギー陣営が、最新の1000倍にも及ぶ感度を誇る「アインシュタイン望遠鏡」建設に向けて、予算の捻出を行っているのが冒頭記事の内容です。

最後に、重力波観測の意義ですが、これは新しい分野が拓いたことを意味します。

歴史的には、19世紀に電波やX線などが発見されることで、レントゲンや情報通信が発展して文字通り文明が進みました。

今までの天文学は、光・電波・X線などに頼ってきましたが、これら共通の電磁波では宇宙の起源を探索するのに限界があります。

宇宙創成時は、まだ陽子と電子が一緒でなくバラバラな時代を経ており、この電子が邪魔をして電磁波が通れなかったのです。
その後宇宙が冷めてくると、陽子が電子を捕捉して今の原子模型に近づき、邪魔がなくなることで電磁波が通過できるようになります。

このタイミングを「宇宙の晴れあがり」と日本では呼ばれます。

つまり、電磁波に頼る限りは晴れ上がり以前の時代をたどることが出来ないわけです。

それが重力波であれば電子をも透過することが出来、より初期の宇宙の姿を探索することが出来ます。

これが「重力波天文学」が開拓者として期待されている主な背景です。
(細かくは他にも期待されていますが)

さて、次はアインシュタイン(望遠鏡)がどういった活躍を見せるのか?
ぜひ生きている間に次の偉業を見たいものです。


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