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「量子技術」への期待と「もつれ」を利用した新たなノイズ除去

量子技術は今年に入って産業政策としても注目されています。

特に日本では、6/7に発表された「新しい資本主義グランドデザイン」での「科学技術・イノベーション重点政策」筆頭にも挙げられています。

元々の計画は、今年の4月に発表された「量子未来社会ビジョン」が下地になっています。
そのなかを読むと、「量子技術利用者1,000万人」と掲げられています。インターネット利用者比率に合わせたそうで、なかなか野心的な目標ですね。

そんな「量子技術」ですが、上記資料に合わせると主に下記で構成されます。

  1. 量子コンピュータ

  2. 量子ソフトウェア

  3. 量子セキュリティ/ネットワーク

  4. 量子計測・センサー

このうち、1・2にあたる「量子多体計算アルゴリズム」で、最近新たな研究成果が、国内官民協働のプロジェクトで発表されました。

ようは、
量子コンピュータのエラー発生源ノイズを、量子もつれを導入することで、低減する新しい枠組みを提唱した、
という話です。

ちょっと小難しいので、まず前提となっている「多体問題」について触れておきます。
簡単にいえば、複数の電子状態を解析する問題です。
量子力学では電子は粒子でなく確率的に存在する物質として計算されます。
水素原子の場合は電子は1個で簡単に計算できるのですが、2個以上になると相互作用も発生して一気に複雑になり、数値計算による近似値でその状態を解析します。
いくつかその種類はありますが、それらをくくって「量子多体アルゴリズム」と呼ばれ、量子コンピュータによる計算性能でのさらなる実用化が期待されています。

そして、今回は量子コンピュータで計算を行ったときの誤差を低減する新しい手法を編み出した、というわけです。上記に引用したPhysical Review投稿論文内に添付されているチャートを見ると、実際に従来型より誤差が低減されていることが分かります。

今回提唱された方法は、起源不明のノイズの影響を受けた量子状態を複数個並列に準備したうえで干渉させることで実現するというものです。

興味深いのは、低精度な量子状態で「量子もつれ」を導入したことです。

量子もつれとは、複数の量子状態(要は量子力学法則にしたがうほどミクロな状態と思ってください)での不思議な相互干渉現象をさします。
なぜ「不思議」と書いているかというと、どんなに離れていても、文字通り一瞬で情報が伝わります。イメージだけで言えば、赤白旗揚げゲームのように、相手の挙動に完全に従います。繰り返しですが、「どんなに離れていても」です。

余談ですが、数年前にその画像化に世界で初めて成功をしたので話題になりました。1つだけ記事を引用しておきます。

記事内ではそれ以上の細かい方法までは読み解けませんでしたが、おそらくはその同時干渉性を織り込んだアルゴリズムを開発されたのだろうと思います。

細かい技法が分かれば改めてキャッチアップしたいですが、もし実装が容易であれば、今後の工学的な意義はとても高いです。

量子コンピュータにもゲート方式とアニーリング方式があり、厳格な定義は前者を指します。
そして前者は量子状態にある粒子を制御するために絶対零度に近づけるほど冷やす必要があります。
それでも、ハードウェア上での誤りは避けられず「量子誤り訂正」という分野で色々な研究が進んでいます。

量子誤り訂正方法の1つとして、とにかく計算の数を増やして誤差を減らす力技(例えばサイコロを振る回数を増やすと確率6分の1に近づくイメージ)もありますが、イコール大規模な投資を必要とします。

今は中規模クラスでも実用に耐えうる量子コンピュータも期待されており、それが冒頭記事の最後にある「ノイズあり中規模量子コンピューター(NISQ ニスクと呼称)」です。
量子コンピュータの性能は量子ビット数で測られますが、大体数百個ぐらいのレンジと思ってください。

日本の産業政策での後押しもあり、この新しいノイズ除去アルゴリズムがNISQ開発に拍車をかける可能性は高そうです。

私自身も量子技術1000万利用者の一人になれるように、今後もこの分野にしがみついていきたいと思います。

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