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ワインバーグさんの一周忌をしのぶ

一年前にあたる2021年7月23日(米国時間)に、偉大な物理学者スティーブン・ワインバーグが亡くなりました。
※タイトル画像はPubli Domainより。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Steven-weinberg.jpg

今回は、ワインバーグ氏の業績を中心に触れてみたいと思います。

ワインバーグ氏は、1979年ノーベル物理学賞をはじめとして多くの賞を受賞しています。
一番大きな業績は、南部陽一郎氏が考案した「自発的な対称の破れ」を基に素粒子標準模型への確立に多大な貢献をしたことです。
ちなみに「標準模型」という言葉も、彼が名付けました。

自発的対象の破れは、過去にも投稿したので引用だけにとどめておきます。

この南部氏の発想を基に作り上げたのが、4つの力のうち「電磁気力」と核力の作用「弱い力」を統合した「グラショウ=ワインバーグ=サラム理論」です。(いずれも貢献した3人の名前です)

自発的対称の破れとは、もともと統合されていた(対称だった)力が分離することを意味します。

原子核が崩壊すると、粒子の種類が変わる不思議な現象が起こることがあります。代表例がベータ崩壊と呼ばれ、その時に生じる力が「弱い力」です。

湯川秀樹氏が初めに、この現象をある媒介を通じた相互作用と提唱し今では「ウィークボソン」と呼ばれます。
以後も「〰ボソン」といういくつかの名前がでます。「ボソン」とは素粒子の分類名称だと思ってください。こだわるとややこしくなるので思い切って割愛しますが、世の中の素粒子はこの「ボソン」と「フェルミオン」に大別されると思ってください。(貢献した物理学者ボーズ、フェルミが由来)

湯川氏の構想を基に、具体的な素粒子モデルが構築されました。その一人がグラショウで、対称性の概念を持ち込むことでうまく説明をしました。
ただ、それでも「Wボソンが質量を持つ」という説明がなかなかつかなかったわけです。

それを受けてワインバーグ氏は、当時ヒッグス氏が提唱していたヒッグス機構を使って、対称性が自発的に破れて質量を与える理論を考えました。
具体的には、電気的に中性な「Zボソン」による相互作用を新たに提唱しています。(今まで出たWとZを合わせてウィークボソンと括られます)
相当イメージだけに絞りましたが、これがノーベル物理学賞の功績として認められた業績です。

素粒子標準模型を象徴するイベントに2012年の「ヒッグス粒子の発見」が話題になりますが、この粒子もワインバーグが上記理論の中で存在を予想したものです。(なおヒッグス氏も近い表現はしてるので、名付け親が誰かは解釈による)

ワインバーグ氏は、自身の専門であった素粒子物理を宇宙物理にも適用して貢献しています。

代表的なものをあげると、宇宙全体に働く斥力「ダークエネルギー」や、マルチバース世界像を現す「人間原理」という概念にも深くかかわっています。

ダークエネルギーは、アインシュタインが定常宇宙を描くため便宜上付加した「宇宙定数」の復活した概念、としてよく知られていると思います。

一方で人間原理は、その言葉の響きもあり、よく物議をかもす考え方です。

ワインバーグ氏の考えは、それぞれの宇宙定数を持つ莫大な数の宇宙が存在していて、人間はたまたま、宇宙膨張が収縮に転じず、急激に加速膨張することもない、ほどよい条件の宇宙に住んでいるのだ、と主張しました。
「人間原理」にもいくつか解釈があり、物議をかもすのは「我々がいるから今のような宇宙が存在する」という自己存在を極端に主張する論理です。

どこかで宗教原理との境目があいまいになりそうな話ですが、それを採用してしまうと何もかもそれでかたづけてしまい思考停止に陥ってしまう、という批判もあります。

ただ、ワインバーグ氏はあくまで客観的な姿勢で、今の宇宙を構成する数値があまりにも絶妙に設定されていることからこの考えに至り、常識にとらわれない発想で、むしろ科学的思考の純粋な表れではないかなと感じます。

実はワインバーグ氏は、科学への姿勢に対しては歯に衣着せぬ発言でも知られており、その例として、一般向けに記した下記の科学歴史本はその姿勢がまざまざと感じられます。
名前はあげませんが結構歴史的にな有名な学者でも快刀乱麻でバッサバッサ切り倒します。

ワインバーグ氏の逸話を聞くと、科学者とはある意味、世界にどう向かい合うのか、という観点で思想家やアーティストに近い要素もあるのかなと感じます。

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