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万物の理論と天才南部陽一郎

東京大学から、難解であるがゆえに逆に気になる発表がありました。

要は、
従来より拡張性のある対称性を発見したので、より幅広い領域で素粒子理論が適用できる
という話です。

「要は」の機能を果たしてない気もしますが・・・、今回はその深堀はあきらめて、物理学の鍵となる「対称性」と「万物の理論」、そしてそれに貢献した天才科学者「南部陽一郎」さんについて紹介しようと思います。


万物の理論とは?

その名の通り、宇宙の神羅万象全てを記述する究極の理論です。
これを夢見なかった理論物理学者はいないのではないでしょうか?

アインシュタインも最後はこの研究に没頭していました。自身が提唱した一般相対性理論(別名重力理論)と、少し前にマクスウェルが確立した電磁気学の融合です。

ただ、残念ながら晩年のアインシュタインは、ある奇妙な理論に背を向けたがために、到達することがかないませんでした。

一般相対性理論は、超早いまたは重いマクロ現象を記述した理論ですが、逆に原子レベルのような超ミクロ現象を記述する「量子力学」を、どうしても彼の美学として受け入れることが出来なかったといわれています。

最も有名なセリフにこんなものがあります。

神はサイコロを振らない(1926年 アルバート・アインシュタインからマックス・ボルンへ(量子力学に対する)反論の手紙)

この言葉が表すように、量子力学では物理現象を決定することが出来ず、観測するまでは確率的にしか分からない、という確かに奇妙な理論です。

但し、この理論はコンピュータを構成する半導体原理にも応用されており、その確からしさは今でも続いています。

この奇妙な理論と、既存理論をどう包含するのかが難問でした。

その難問にまず向き合わざるを得ない学問が、究極の粒を探究する「素粒子」の研究です。ミクロの世界では、電磁気学だけでなくどうしても量子力学的な作用を無視できません。

素粒子の標準模型

上記背景で生み出されたのが、冒頭発表にもある「場の量子論」です。
ざっくりいうと、世の中には「真空」が存在せず、すべて何かが詰まった場の状態で記述できる、という考え方です。

素粒子という言葉を使うと、ビリヤードのようなイメージを持つかもしれませんが、場の量子論では、全てがバネでつながって相互作用する状態といったほうが近いです。

ただ、初めはこの理論を実際に計算するのが極めて難しい状態でした。

例えば日本人初のノーベル物理学賞を受賞した「湯川秀樹」さんは、原子を構成する陽子と中性子を結合させる「中間子」を提唱しましたが、この理論を使って計算までは出来ませんでした。(大体無限大に発散します。)

それを巧妙な技法を使って計算可能にして、同じくノーベル物理学を受賞したのが「朝永振一郎」さんです。(厳密には同時期に類似手法をファインマインも考案)

観測機器の進歩(特に加速器)から見つかった新たな謎は、これら先駆者の理論・技法によって研ぎ澄まされ、遂には最小な粒「クォーク」を使ったモデルが考案され、全素粒子を体系的に説明できる下地がそろってきました。

ところで、素粒子の動きは全て、「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」の4種類で説明できます。
日常では重力を意識しますが、逆にミクロの世界では、「重力」だけとびぬけて微弱なため無視できます。(なぜここまで弱いのかも謎のままです)

そして、「電磁気力」と「強い力」を融合したのが「対称化」です。

考案者の名前をとってヤン・ミルズ理論と呼びますが、ざっくりいうと運動の性質を、新しい概念を持ち込んで「対称化」することに成功しました。

例えば、顔は大体が線対称ですね。つまり右の構造が分かれば調べなくても左も予測できます。
つまり、「対称化」とは「一般化」出来ることを意味します。

ただ、そんな画期的な対称化理論でも、残りの「弱い力」だけは適用できませんでした。

そこにさっそうと現れたのが、南部陽一郎さんでした。

南部陽一郎の功績

南部さんは、
「実は元々は対称性があったけどそれが自発的にやぶれる」という、「対称性の自発的破れ」として知られる野心的な理論を提唱しました。(のちにノーベル物理学賞受賞)

よく例えられるのは、尖った鉛筆の芯を地面に対して直角に立てても、必ずどこかに倒れます。
理論的にはまっすぐ立つはずなのに、現実の自然ではそれはありえない、ということです。

ヤン・ミルズ理論では、クォークの質量がゼロになるのが問題の1つでしたが(現実はそうでないです)、南部理論を適用することで、初期設計はゼロで、それが質量(運動しにくくなる作用)を付与する現象が起こった、と説明がついたわけです。

その質量を付与するのが「ヒッグス粒子」で、2012年に観測されたことで、その確からしさが裏付けされました。

今ではこれら数多くの先駆者の知恵を結集したものを「素粒子の標準模型」と呼んでいます。

ただし、「模型」とあるように、1つの数式で表現できる「理論」ではありません。
何よりも、力の影響が相対的にないため無視した「重力」をどう組み込むのかが、「万物の理論」につながる大きな壁です。

現時点では、その有力候補として「超ひも理論(または超弦理論)」が挙げられています。

主要理論を系統的につなげると、大体下記図のようなイメージです。


超ひも理論の考え方でもやはり「対称性」がカギになっており(超対称性と呼ばれます)、「ひも」の概念も、元々は南部さん(+同時期の学者)が素粒子解明のために編み出したものです。

対称性」がいかに現代物理学に重要な概念か、そしてその高い先見性を備えた南部さんの偉業を、少しでも感じて頂ければ幸いです。

丁度昨年に、南部さんの新しい伝記本が出版されたので、その紹介で終わりにしたいと思います。

南部さんの人間的なエピソード(ネタバレはしませんがなかなかです)も入っていますので、ぜひ興味を持った方は読んでみてください。


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