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メッセンジャーRNAの完全な化学合成に成功

今回の天災によって、生命科学への注目が集まっていると思います。

特に短期開発を可能にした「RNAワクチン」は人類史に残るほどの出来事かもしれません。今後のノーベル賞も期待されますが、その日本版ともいえる日本国際賞では既に開発者が表彰されています。

今回は、その重要な役割を担う「m(メッセンジャー)RNA」について、名古屋大学で素晴らしい研究成果が、専門誌への掲載と合わせてプレスリリースされました。

専門サイトURL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acschembio.1c00996

要は、酵素を用いないmRNAを化学合成で世界で初めて開発に成功し、安価な大量合成と精密分子設計が可能になった
という話です。

まず、RNAにも、役割によって接頭辞にいくつか文字が付き、今回はメッセンジャーを表すmRNAが研究対象です。

ワクチンはあくまで自然の応用なので、我々人類含む地球上の生命共通の原理からその役割を紹介しておきます。

まず、我々含む生命体はDNA(デオキシリボ核酸)の中に二本鎖の螺旋階段からなる、というのは聞いたことがあかもしれません。

そのDNAが生命活動の基本単位にあたる「タンパク質」になる過程が、全生命体共通の原理で動き「セントラルドグマ」と呼ばれます。(以下こちらのサイトを参考)

その過程を簡潔に書くと、以下の通りです。

DNA→(転写)→RNA→(翻訳)→タンパク質

厳密には、右から左のルートもありますが今回は割愛しています。

DNAをファスナーに例えると分かりやすいかもしれません。二本鎖のファスナーがほどけて一本鎖のRNAになります。
二本鎖を構成する組み合わせは一意に決まっているため、たとえほどけてもその情報が保存されるわけです。(改めて神秘的なつくりと感じます)

ほどけるだけではバラバラになるため、その後に「酵素(正式にはRNAポリメラーゼ)」という媒介を通じてほつれが合成されて長い一本鎖となり、あとは特定の生物で修飾作業(スプライシングと呼ばれます。昔のPCのデフラグのイメージ)が行われて、mRNAが出来上がります。

これが、我々の体内含む生命の世界で自然に行われているわけですが、この作用を「酵素」なしで人工的に実現することに成功したのが今回の研究成果です。

出所:上記プレスリリース内の図

化学は専門用語が長くて覚えにくいのでやや略称を使いますが、天然のRNA分子に含まれることがない「トリエチレングリコール分子」をmRNA鎖中に導入したら、セントラルドグマの次工程にあたる「翻訳」の反応率で高いパフォーマンスを出した、ということです。
これが天然を凌駕した、という意味合いです。

mRNAはその名の通り、運搬役ですが、今回の研究成果が意味することは、その運搬する荷物をより重いものでも安く届けてくれることを示唆します。

実験室での成果ですので、実用化まではまだ時間がかかるかもしれませんが、素人目に見ても大きな可能性を感じます。

関係者の皆様への祝福とともに、より一層われわれ一般人でも生命科学を、その成果のインパクトを感じられるぐらいは知っておいた方がいいなと感じました。

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