仁科記念賞2022が発表されました
この仁科記念賞の2022年受賞内容が発表されました。こちらでその概要を見ることが出来ます。
※タイトル画像は、Wiki「仁科芳雄」内の画像より引用
今回はその発表内容をざっくりと紹介しようと思いますが、先に仁科氏の業績を簡単に紹介しておきます。
日本の原子物理学の礎を築いた方で、ミクロの物理学である量子力学の初期思想を牽引したボーアの下で学び、原子核に関する研究で国際的に評価された科学者です。
日本に戻ってからも仁科研究室を立ち上げて、朝永振一郎をはじめ後年に業績を上げた素粒子の研究者も仁科氏の薫陶を受けた方は多いようです。
この方の偉業はまたどこかのタイミングで触れたいと思いますが、今回はその仁科賞2022の内容です。下記の二人が選ばれました。
1.齊藤英治:電子の回転で生じる「スピン流」の研究を発展
2.小松英一郎:初期宇宙が急膨張したとする「インフレーション理論」の検証に貢献
1の「スピン流」とは、電子のスピン状態が隣に伝播する現象のことです。
「スピン」と聞くとフィギュアスケートのようにくるくる回るイメージを連想しますが、似て非なるものです。
元々はパウリという物理学者が、20世紀初頭に登場した量子(要は電子や光子など離散的なエネルギーを持つ素粒子)が持つ固有の物理情報として提唱しました。
別の研究者が、量子には(回るイメージの)スピン角運動量があると唱えたのですがそれはおかしい(相対性理論と矛盾)とパウリに否定されました。が、性質としてはパウリの定義した量子固有情報とその法則に当てはまるので、結果として「スピン」と呼ばれて今日に至ります。(厳格で有名な方だったので、パウリは不服だったと思います)
名前の由来はともかく、肝心なのはそれが隣の電子スピンに影響をあたえて流れを与えることで、元々1970年代にその存在が予測され存在が実験で確認されました。
斎藤氏はそのスピン流と垂直な方向に伝わる「逆スピンホール効果」(下図)を発見して今回の受賞につながりました。
電子の流れとはマクロ的には電気エネルギーの伝わりやすさに影響するので、省エネ電子デバイス開発などが想像できますね。
次の小松氏ですが、宇宙初期に起こったとされる「インフレーション理論」の検証と書きましたが、その理論から念のため振り返ります。
ただ、インフレーション理論の概要は以前にも書いたので今回は過去投稿の引用にとどめておきます。超ざっくりいうと、ビッグバンの直前に超加速膨張(名前の由来は物価のインフレから)があったとすることで、今の宇宙をうまく説明できるということです。
突然ですが、我々の宇宙におけるエネルギー(またはその等価にあたる物質)構成比率はご存じでしょうか?
実は原子や分子といった我々になじみのものは全宇宙の5%未満で、残りはダークマター(暗黒物質)約3割、ダークエネルギー約7割という比率です。
この計算の前提では宇宙が平坦で等方性であるということを統計的に解釈し、その元データで使われるのが「宇宙マイクロ波背景輻射(CMB)」と呼ばれる宇宙初期の残り火です。
宇宙好きな方は下記の図を見たことがある方は多いのではないでしょうか?
これは宇宙望遠鏡WMAPがとらえたCMB観測データです。色の違いは温度の違い、つまり宇宙初期でのエネルギー(物質)のムラに相当します。
このデータの統計的な解釈(ガウス分布に基づくゆらぎ)に貢献したのが小松氏の業績の1つです。
この初期条件の置き方によって、宇宙を構成するエネルギー比率だけでなく、宇宙年齢(現在は約138億歳)にも関わってきますので、まさに人類共通の英知です。
いずれの研究も、今後の科学技術の発展に大いに貢献しそうなことが感じられると思います。改めて素晴らしい研究業績を残したお二人に心から賛辞を送りたいと思います。