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日本のユニコーンが挑む新素材開発

「評価額が10億ドルを超える、設立10年以内の未上場企業」のことを「ユニコーン企業」と呼びます。
こちらによると、2022年3月調査時点で約1000社で半分を米国、次いで中国
が174社と圧倒的なシェアを誇ります。

そのうち日本はわずか10社で、そのなかで1位が「株式会社Preffered Networks(以下PFNと略称)」というAIベンチャーです。
TOYOTAやFanucなど、日本の超大手企業とも出資を受けてスマートロボティクス領域の共同開発を行っています。

そんなPFNが、素材開発の分野で面白い研究成果を発表しています。

要は、
材料開発で必要な原子レベルの計算手法で汎用的なアーキテクチャを開発した
という話です。(なお文中にある通りそのコア技術はENEOSと共同開発)

材料開発に情報科学を使うのは以前からで、マテリアルズ・インフォマティクスという名称でくくられます。
この言葉で検索すると解説サイトが数多く見つかりますが、1つだけ引用しておきます。

コンピュータの力も借りて、今の材料開発は原子レベルでの制御まで踏み込んでいます。ただ、この領域では別の物理的な課題が生じてきます。

原子のサイズでは、量子力学という特殊な法則(場所と運動は確率的で、観測しないと原理的に決定出来ない)を考慮する必要があります。
それを対処すべく、今までいくつか計算手法が考案されましたが、処理負荷と汎用性において課題がありました。

イメージが湧かない方のためもう少し補足すると、粒子の場所を確率的に表現するシュレディンガー方程式を使うということです。もしこの方程式に関心のある方は数式も載っているWikipediaの解説を参照ください。

この方程式をまともに解くとしんどい・・・ということですね。
その近似的な数値計算手法がいくつかあり、上記記事でもDFT(密度汎関数理論を代表例として示しています。

ただ、そのDFTですら今の材料開発で求められるナノ(10のマイナス9乗)オーダーでは、計算が複雑すぎて対応が難しくなっています。

話が入り組んできましたが、それを克服するアプローチの1つとして近年世界的に注目されているのが、原子のエネルギーポテンシャルを表現する手法です。
さらにそれを第三次AI分野の火付け役となったディープラーニング(深層学習)を組み合わせることで編み出されたのが、ニューラルネットワークポテンシャル(NNP)と呼ばれるものです。

話が重層的になってややこしくなってきたかもしれないので整理します。

1.材料開発の分野ではマテリアルズインフォマティクスと呼ぶコンピュータシミュレーションが主流
・ミクロ化が進み原子レベルになると量子力学を考慮した計算手法が考案
・従来のやり方(DFT)だと処理負荷が重すぎるため、深層学習も活用した手法に注目(NNP)が集まっている
・ただそのやり方では今度は汎用性に乏しいという課題が残存

今回の研究成果は、その汎用性(ユニバーサル)を目指したNNPです。(PFPと呼称)

ポイントは学習用データをどう効率的かつ多様なケースで使われるよう生成できるかと、それを計算可能にするアーキテクチャです。

それぞれでPFNの既存アセット(計算マシンとアルゴリズムそれぞれ)を活用したユニークな手法が導入されていますが、これ以上掘り下げるとさらに込み入った話になるので、興味を持った方はぜひとも引用した発表論文を参照ください。

個人的に興味を持ったのが、今回開発したアーキテクチャの計算例として取り上げた4つのケースです。特に1のタイトルを見るだけでも実社会での利用価値を感じますね。

1.リチウムイオン電池のLiイオンの拡散挙動
2.金属有機構造体の分子吸着挙動
3.金-銅合金の相転移現象
4.炭化水素合成を行うフィッシャー・トロプシュ反応の再現および触媒の材料探索

日本のユニコーン企業の雄として、今後もPFNの活動には目が離せそうにありません。

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