ガイア理論の父ジェームズ・ラブロック
地球を生命体ととらえる「ガイア理論」。おそらくガイア自体が1つの抽象的な言葉として独り歩きするぐらい普及した言葉かもしれません。
その生みの親であるジェームズ・ラブロック氏が103歳で亡くなりました。
今回は、このガイア理論に関するトピックに触れようと思います。
まず、地球を生命体とする考え自体は以前からあり、それをギリシア神話の女神から「ガイア理論」と名付けたのが1960年代のラブロック氏です。
もしかしたらスピリチュアル系と誤解している方もいるかもしれませんが、ラブロック氏は当時NASAで勤務していたれっきとした自然科学者です。
もう少し言えば、ラブロック氏はNASAの火星生命体探索プロジェクトにも関わり、火星の大気から生命体を発見する装置も考案しています。
余談ですが、ちょうど最近別のやり方(バイオマーキング)で火星生命体を探知する装置を考案したというニュースも流れています。
当時もまずは学会でその理論を発表しましたが、どちらかというと科学者からはあまり受け入れらなかったそうです。
その後に一般書として「ガイア理論」を1970年代に発表して一気に世界中に知れ渡った、というのが経緯です。
その理論の骨子を思い切って一言でいうと、
「地球も1つの生命体として自己統制システムをもっている」
というものです。
生命とは、一般的な理解では、「複製」「代謝」「進化」のような性質を帯びたものとよく定義されます。
もう少し上記を抽象化して「恒常性(ホメオタシス)を持つ」と表現されることもあり、その証拠不足というのががよく指摘されるポイントです。
ちなみに、有名な批判者としては、「利己的な遺伝子」で有名なリチャード・ドーキンス氏が挙げられます。
その批判にこたえるため、ラブロック氏は共同研究者とともに、「デイジーワールド」と呼ぶモデルを1980年代に発表しました。
ようは、
デイジー(植物のヒナギク)だけの世界を仮定したときに太陽光の増減をうまくデイジーが調節する(光を吸収して大気温度を一定に保とうとする)、
という話です。
さすがに現実の地球に比較してモデルが単純すぎるということで、以後その拡張モデルも考案されましたが、決定打には欠けます。
ただし、「生物と環境が相互作用を起こす」という機能的な考え方は受け入れられており、当初の仮説とは異なりますが、地球システム科学という分野ではその要素は引き継がれていると思います。(ガイア理論がそれを生んだというのはさすがに言いすぎだと思いますが)
ナブロック氏は、高齢になっても活発に著作活動は続けており、最後の作品になる「ノヴァセン」を、なんと100歳で書き上げます。
ガイア理論を踏まえて書かれた科学文明史であり未来予測書で、ポイントは
機械が新しい生物種と同じように誕生・発達していく、
というものです。
従来のガイア理論は、地球と人類がどう共生すべきか?を課題提起する見方もできます。
そこに対してさらに、AIの発達などで知能を持った機械(サイボーグと呼称)も存在感を持ち、人類の後継種として地球/宇宙との共生を考える時代(それをノヴァセンと呼称)が来る、という論法です。
このあたりは、過去にケヴィン・ケリー氏・カーツワイル氏・ハラリ氏などの下記著作を読んだことのある方には、局所的に既視感を感じるかもしれません。
それぞれの作品で、科学技術の解像度や人類の位置付けは若干異なります。
ラブロック氏の視点は、自身含む人類という主体的な視点でなく、地球を超えた宇宙(コスモス)に向いているように感じます。そのあたりはガイア理論のつながりを改めて意識します。
人によってはいろいろと反論したくなる要素があるかもしれませんが、その議論を喚起する意味でも面白いと思います。
提唱した仮説の正しさというよりは、ラブロック氏のおかげで我々が地球環境や生物多様性を考えるきっかけを増やしてくれたことは間違いなく、それはとても意義深いことかもしれません。
心よりご冥福をお祈りいたします。
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