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《第10回SCCしずおかコピー大賞 独りごと反省会。》 vol.48

課題5:
気軽に、楽しく、カウンセリングを受けたくなるコピー
・あ、いきやすい。

浜田省吾氏のアルバム「J.Boy」の中に「8月の歌」という作品がある。また、浜田氏は自伝の中で広島原爆の二次被爆者の子どもであることを公表している。8月6日、9日と被曝のこと、戦争のこと、過去を胸に生きていくことを考えさせてくれる季節の中、この国は「8月の歌」がリリースされた時代に逆行しているのではないのか?

背中をつたう汗、不意の緊張、そんな時期にこのコピーどうなのよ。(汗)たまたまの順番でたまたま本日掲載するのだが、トリプルミーニングにしこまれた下ネタに、選ぶ審査員(私たち)の進歩のなさに苦笑いが絶えない。今回は、そんな自虐も込めて書きたいと思います。

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この『いきやすい』は「行きやすい」と「生きやすい」のダブルミーニングで構成されている。

コピーのダブルミーニングは良くない。というのがセオリーだが、ここまで見返してくると、ダブルミーニングの選ばれる率の高いことがわかってくる。

このコピーは上手いのかと問われてみれば、よくて「まあまあ」、厳しければ「つまらん」と一蹴されそうな、他のサービス業でも使える万能フレーズに留まっている。それでもファイナリストに残るというのが、審査員がこういうの好きなんだと分析できる。

ただ、これには更なる意味、トリプルミーニングの匂いがする。そう、下ネタだ。男女の性行為での絶頂の感覚。それを「いく」と表現することがある。この気持ち良さをカウンセリングによる情緒的な価値として密かにかけた匂いに誘われて、審査員が反応したかも? ということも否めない。

審査という作業はとても疲れる。新しいアイデアやコトバとの出会いを楽しみつつも、脳はフル稼働しているものだから、途中で休憩を入れたり脳に喝を入れるために甘いものでも口にしたくもなる。そういうタイミングで気が抜ける(休まる)コピーは、クオリティとは別の好感を審査員の脳内に生んでいるのではないのか? と。つまりは、錯覚によって、ダジャレやダブルミーニング(トリプル含む)コピーが選ばれてしまうのではないかと分析するのだが、いかがだろうか?

とは言えだ。教頭としては、もう少しだけコトバを深く考えてみたい。

生きにくい世の中に『生きやすい』という呼びかけは、最も根本的な欲求を刺激する。ましてやコロナ禍などの病気、災害、戦争、いじめ、煽り運転の暴力、育児放棄、貧困問題のような人命に関わる(案外身近な)情報を目にし耳にすることが絶えない現代においては、『生きやすい』の価値は常に右肩上がりなのではないかとも思う。

そのコトバを未来を見つめる若き学生が思い浮かべ書き留めたのであれば、大人だけに留まらず、子どもや学生といった若年層をはじめ全ての人に関わる危機感があり、この世界を覆っている現実を示しているのかもしれない。

生きやすさの追求をカウンセリングだけに委ねるのは、そもそも間違っていると思いますが、このコピーにはカウンセリング以前に人間が抱える問題を提議する意味まで(読み手を選びながらも)あるのかもしれません。

この解釈もまた、8月が与えてくれた想像力のおかげかもしれませんが。


※コピーの版権・著作権等の使用に関する権利は、静岡コピーライターズクラブに帰属します。
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