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《第10回SCCしずおかコピー大賞 独りごと反省会。》 vol.46

課題5:
気軽に、楽しく、カウンセリングを受けたくなるコピー
・思ってたより、おもってくれた。

かつて『想定の範囲内です』というコトバが流行った。当時から、そして今でも、私は、このコトバが嫌いだ。

何とも他人を小馬鹿にしたコトバではないか。明らかにマウンティングを意識し、自分がコトバを投げかけた他者よりも上であることを公言している。礼節を欠くだけでなく、神にでもなったような思い上がりを感じずにはいられない。

人が想像しうる想定など、宇宙を含めた全世界の事象で考えれば、一隅にも満たない。そんな矮小な想定を鼻高々に、声高に宣言することの愚かしさを気づかないのであれば、なお救われない愚か者ではないかと思う。

このコピーが伝える内容も『想定の範囲内』を中心に据えている。それなのに、コトバの心地よさを感じさせるのは、その想定の範囲の外にある事実を伝えてくれているからなのだと思う。

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「思ってた」というのは予想(想定の範囲)を表し、「おもって」はカウンセリングなどで言うところの関わりにおける「親しみ」や「心配」といった事象を表している。つまり、「想定の範囲を超えて心地いい」ということを言っている。

「おもって」は、より情緒的な意味を感じさせる「想って」という字の方が作者の感覚に近かったのだろう。だが、「思って」とのバランスの悪さから初見の印象を考慮して、あえてひらいたのではないかと想像する。

思ってたより、おもってくれた。
おもってたより、おもってくれた。
おもってたより、想ってくれた。
思ってたより、思ってくれた。
思ってたより、想ってくれた。
想ってたより、想ってくれた。

こう書き出すと、なるほどと思う反面、
おもってたより、想ってくれた。
の方が、より情緒的にジワジワくるのではないかとも読めてくる。

人は理屈っぽい窮屈なフレームに縛られることを好まない。フレームに縛られるからこそ、心に影を落としてしまうのであれば、そのフレームの外の世界を示してあげることで、微かな光を差し込ませることができるのではないだろうか。この情緒的価値を持つコピーそのものが、カウンセラーが語りかけるコトバのような効果があるのでは?! と期待したくなる。

そして、読み込むほど作者によって選ばれたコトバの、力加減の良さもわかってくる。ほとんどの人が、読むことができて理解できる文章。ターゲットいらずの投げかけは、一人で悩む人の心の内に沁み込んでいく。そう、意味まで確実に届く。控えめながら浸透力のあるコピーだと思う。

ただし、あまりに簡易なコトバのため、浸透力だけでなく透過力もある。沁み込んだ後、跡形もなくすり抜けていく可能性もありそうだ。それは、まるでペーパーフィルターで淹れたコーヒーのように。

もし改良を加えるのなら、より引っかかる何かを足すのか、またはアイデアを削ぎ落とすことで鋭く穿つようにするのか。そこから先は、まだ若い作者の成長に任せたいと思います。


※コピーの版権・著作権等の使用に関する権利は、静岡コピーライターズクラブに帰属します。
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