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エピソードには「犯人しか知らない言葉」を使え【さとゆみゼミレポート第3回】

ライター・コラムニストの佐藤友美(さとゆみ)さんが主宰する「さとゆみビジネスライティングゼミ」の講義レポート。今回は第3回をお届けします。

第1回のレポート↓

第2回のレポート↓


推しについて書けないのは、技術不足

まずは前回の復習から。文章の型は「AだからB」と「AなのにB」の2種類だと学んだ。そして重要なのは「マジかよ!」と驚きを与える「AなのにB」。世の中のほとんどの企画は「AなのにB」でできている。

さとゆみさんは「『AなのにB』がマスターできれば、企画が通る」と力強く語った。ただし「AなのにB」は常識を覆すので、理由をセットで伝える必要がある。

第3回の授業は、前回の課題の感想を4〜5人のグループでシェアするところから入った。

前回の課題は「推しを推す」。文字数は300〜400字以内で、エピソードを必ず入れるように、と言われた。

グループでは、以下のような話が出た。

・講義中に紹介したときから、推しを変えた。推し選びに苦戦した
・推しているのは本当なのに、書いて伝えるのは難しそうな推しがあった
・推しポイントを言語化するのが難しかった
・エピソードのインパクト、弱いのでは?と思った
・ありがちな文章、提携文になってしまう

課題を取り組むにあたって推しを変えたゼミ生が多いことに対し、さとゆみさんは言った。

「最初の推しに対して、実はそんなに推してなかったと気付いて、変えたならOK。だけど推しているのに、書きづらいと感じたなら、まだそれを推せるだけの技術がないということ。推しに向いている題材と推しに向いていない題材があるのではなく、まだ技術が足りないだけ」

技術不足。たしかにそのとおりだ。僕自身、推しを変えたひとり。講義中には中東のデザート「カナーフェ」を紹介した。が、課題を書くにあたり、無理だと判断した。ほぼ全員が知らないものをどう説明していいか分からなかった。一方で多くの人がよく知っているものも、推しポイントの選定が難しいと感じてしまった。

カナーフェ以外に、思い浮かべた推しは箱根駅伝、EXILE、ランニング、朝井リョウ、海外旅行、Voicy、ジャルジャルのYouTubeなど。ただ、いい感じのエピソードが思いつかず、全て却下。結局、ロイヤルホストの「食いしんぼうのシェフサラダ」で書くことに。

仕事では、読者全員が知らないものをおすすめしなければいけないこともある。みんなが知らないものをどう書いていくかの技術を身に付けるのも、これからの課題だ。

エースを輝かせる

今回の課題は300〜400字。前回に続き、さとゆみさんは「一点突破」の重要性に言及した。「私の感覚では、800字までは一点突破。1つ伝えたいことを決めたら、そこに関係のあるエピソードを持ってくる」。

書き手としてはつい、あれもこれもと内容を盛り込みたくなる。だが、たくさんの情報を伝える必要はない。人は1個、伝われば十分なのだ。読者にとって「これが一番良かった!」という内容があれば、それは良い商品や良い文章だ。

1個伝わればいい。だからこそ、その1個をどう輝かせるかを考える。「とにかくエースを輝かせることが大事。どんなにいいエピソードでも、その1個が輝かないのなら捨てる。逆にそのエピソードをどうしても書きたいのなら、エピソード側に寄せる」。勇気を出して一点突破。エースを輝かせろ!

前回の課題の講評を見る前に、僕たちはあるものを見せてもらった。

さとゆみさんが3年前に編集者から受けた赤字だ。僕たちの講師であり、数々の著書も残す彼女だが、想像以上に赤字が入っていた。

当時はライター19年目。それでもこれくらい赤字は入ります。もちろん反省はしなきゃいけない。でもすごく大切な赤字なので、今でもデスクトップにおいてる。これを見直してまだまだ自分も頑張らなきゃいけないなって。心が折れそうになったら、私の赤字を思い出してください」

これからは、さとゆみさんの言葉が、さらに重く自分に響くような気がした。

「〇〇さんの今後が楽しみです」の表現は…?

続いては、課題の講評。

僕の書いた推し原稿は、こちら。文字数はギリギリいっぱい400字ジャストだった。

僕の趣味はランニングなのだが、走ること以上の楽しみがある。それは練習終わりの食事だ。なんなら、美味しいご飯を食べるために走っていると言っても過言ではない。土曜日の午前中、競技場で走り込んだ後、練習の勢いそのままにロイホに飛び込む。僕が最も推しているファミレス・ロイヤルホストで「食いしんぼうのシェフサラダ」を頬張る。レタス、トマト、卵と色鮮やかで見た目も美しい。

サラダだからと質素な食事をイメージしていたら、大間違いだ。海老やベーコン、さらに唐揚げも入っていて、ボリューミー。トレーニング終わりでもこれだけでお腹がいっぱいになるほど、食べ応えは十分だ。贅沢感がありながらも健康的。炭水化物が入っていないので、昼に食べても午後に眠くならない。だから、全力で駆け抜けたい一日のランチにおすすめだ。午前中にさとゆみゼミで頭を使い、午後も仕事や家事を頑張るあなたへ。「食いしんぼうのシェフサラダ」を贈りたい。

課題「推しを推す」のコージーの原稿

自分としてはかなり手応えがあった。さとゆみさんからは「がっつり、推されました。おいしそうだし、眠くならないの大事だよね笑」と評された。第一段落の「美しい」まで「一気に読んだ!映像が浮かんでいいねー!」とこちらも嬉しいコメント。第二段落の「贅沢感が〜眠くならない」の2行は「AなのにB」と「AだからB」のダブルで畳み掛け。ここも「いいですね」と言われ、よっしゃ!と思った。

一方で、一点指摘が入ったのは「サラダだからと質素な食事をイメージしていたら」の部分。イメージするのは読者なので「イメージするとしたら」が正しい。 なぜなら「している」は「常にしている」状態なので、読者がずっとサラダを想像していることはないはずだから。

なるほど、たしかに。これはさとゆみさんに指摘されなかったら、一生気付けなかった。ありがたい。

全体への講評で挙げられたのは、主に以下のポイント。

  • プロの原稿を想定して書こう
    多くのメディアではある程度まとめた段落をつくり、改行する。改行は1行で2行空きなどは認められない。実際に仕事で書く原稿を想定して書こう

  • 「たり」は1回では使わない
    「たり」は「〜たり〜たり」と2回以上繰り返して使う言葉。単独で使うのは日本語としては誤用。自分のメディアで書く場合やあえて使う場合はありだが、メディアで書く場合、基本的には指摘が入るのは覚えておこう

  • 同じ言葉を2度使わないのがベター
    1つの文章で同じ言葉を繰り返すと幼い印象を受ける。腕のあるライターと思われるためには、言い換え力を身に付けよう

  • 相場観を意識しよう
    読者のうち、どのくらいの人がその商品を知っているのかを考えるのが相場観。カギとなるのは、プロダクトライフサイクル。商品やサービスは黎明期から始まり、ちょっとずつ広がり成熟期、そして衰退期へと移っていく。プロダクトライフサイクルを踏まえて、どこまで詳しく説明するかを考えよう

  • 「ハマった」「感動した」は書かない
    「感動した」と書くと台無し。感動したときにどんな行動をしたのかを書こう

  • 譲歩しない
    推すと決めたら、偏愛でいい。最後まで譲歩せずに言い切ろう

  • 評価しない
    ライターはインタビュイーを評価する立場にない。感想を書くのはありだが、評価はしないように。「〜さんの今後が楽しみです」という表現は感想ではなく評価になるので注意

    特に最後の「評価しない」は気を付けないとと思った。これまで無意識に相手を評価する表現をしてしまった可能性がある。子どもや赤ちゃんに「今後が楽しみだね」を使うのはOKだが、上司に「部長の今後が楽しみです」は不適切。つまり、目上の人や尊敬しているインタビュー相手にライターが使うべき言葉ではないとのこと。

「犯人しか知らない言葉」を生み出す6つのポイント

今回の推しを推す文章のカギは、個人的エピソードをどのように書くかだった。

個人的エピソードとは、褒められた!泣けた!助かった!気持ちいい(五感)!ここが違う!ここが便利!といったこと。これをどのように書くか。

ここで大事になるのが「犯人しか知らない言葉」を使うことだという。「犯人しか知らない言葉」とは元お笑いタレントの島田紳助さんが吉本興業の若手芸人を指導する講習の中で使った表現。漫才でリアリティのある表現をするためには、犯人しか知らない言葉を使え、とのこと。

犯人しか知らない言葉とは、その場にいた人、実際に体験した人にしか分からない言葉。「犯人しか知らない言葉の重要性は、昔よりも増してる。なぜならこれこそがAIに書けない文章だから。AIは統計学なので、ありがちなことを並べるのがうまい。でも、ありがちじゃないことを書くのが人間にできること」とさとゆみさん。AI時代にライターが生き残るには、犯人しか知らない言葉が欠かせない。

では、具体的に「犯人しか知らない言葉」とはどのようなものなのか。さとゆみさんは6つのポイントを教えてくれた。

  1. 数字を使う
    人生で一番感動したドキュメンタリー映画。「一週間で3回観ました」
    「飽きっぽい性格です」と言いたいなら「先日大掃除したら家にNHKラジオ英会話の4月だけが8年分ありました」と表現。リアリティが伝わる

  2. 五感を使って得た情報を伝える
    視覚はよく使うので特に聴覚、嗅覚、触覚、味覚を使うと◎

  3. オンリーを使う
    「読書が苦手な私が、生まれて初めて最後まで読んだ本です」
    「何を食べても反応しない夫が唯一『これ、どこのふりかけ?』と聞いたふりかけでございます」

  4. 「AなのにB」を使う
    犯人しか知らない意外性があるから

  5. 気持ちを書くのではなく、どんなことが起こったかを書く
    上司の話に感動しました!」ではなく「ノートにメモしまくって7ページも書きました」

  6. その後の「変化」を伝える。実行した「結果」を伝える

タイトルの付け方

講義の終盤では、エピソードの書き方から派生して、タイトルの付け方の話題に。

タイトルの付け方が抜群だと紹介されたのが、東洋経済オンラインの吉川元編集長。

参考記事↓

さとゆみさんが取材して最も勉強になったのは、タイトルに数字を入れる理由だった。「共感を生むために、数字を入れるんだと思ってたの。だけどそうじゃないんだって。自分との差を測れるために数字を入れるんだって。自分との比較が始まると、すでに自分ごと化される」。取材からは1年近く経っているはずだが、興奮が伝わってきた。

たとえばタイトルに「40代の同窓会」と入っていたら、読者は「私はまだ30代だな」「俺は50代だ」などど考える。「年収200万の〜」と言われたら、自分より高いか低いかを考え始める、というのだ。「私と違う」もしくは「私と同じ」と思った瞬間、その記事は自分ごと化する。数字には、自分と比較できるための物差しという効果があるのだ。

※タイトル付けにこだわっているESSEオンラインの山田編集長のインタビュー記事↓

さとゆみの「今日の格言」

推しを推せないのは技術不足。
推しているのに、書きづらいと感じたなら、まだそれを推せるだけの技術がないということ。仕事では、読者全員が知らないものをおすすめしなければいけないこともある。みんなが知らないものを書いていく技術を身に付けていこう。

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