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【シナリオ】ロストストロー(4枚)

  人 物
叶内かのうち紅緒こうお(17)高校生
大須賀おおすが恵最けいさい(28)会社員

○カラオケボックス・内(夕)
 カラオケの中でも狭い部屋。机にはウーロン茶とメロンソーダの入ったプラスチックカップ(透明がいい)が一つずつ置いてある。ウーロン茶にはストローが一本刺さっている。椅子にはマラカスが一つ置いてある。入口の脇には受話器がある。
 叶内紅緒(17)は両手を膝の上に揃え、緊張した面持ちで席に座り、指をいじっいる。服装は高そうではないが、小綺麗である。紅緒の横にはくたびれ鞄が置いてあり「叶内秀人」と書かれたネームタグがついている。
 入口からスーツ姿の大須賀恵最(28)が入ってくる。濡れた手をぶら下げ、スーツのズボンで手を拭く。
恵最「待たせてしまって悪いね」
 紅緒は、大丈夫ですよという風に頷く。恵最は椅子に置いてあったマラカスを持ち、紅緒の隣に座る。
恵最「緊張してる?」
 恵最はマラカスを紅緒に向けて振る。
紅緒「いえ、楽しみです」
 紅緒、笑ってみせる。
恵最「一曲歌いなよ、まずは」
 恵最は首を回しながらながら片手で紅緒にマイクを渡す。
 
○同
 曲(要検討)のアウトロが流れる。紅緒はマイクを口から離す。恵最が、持っていたメロンソーダを置いて拍手をする。
 恵最の口元にクリームがついている。口元を拭いながら、
恵最「上手いね」
紅緒「今日は調子がいいんです」
恵最「堅苦しくなくていいよ」
紅緒「……はい」
 曲のアウトロが終わる。少しの沈黙。
 恵最は前屈みになって、
恵最「ねぇ、何か困ってることあるのかな」
紅緒「へっ」
 紅緒の鞄の口からはみ出たオープンキャンパスの案内に、紅緒は手を置く。
紅緒「進学、したくて」
恵最「(陽気に)真面目だなぁ」
 曲のイントロが流れる。恵最、すぐにマイクをとる。
 
○同
 曲(要検討)が終わる。メロンソーダはすでに空っぽで、そのコップは倒れている。その隣に、一切減っていないウーロン茶。
 歌い終わった恵最に、紅緒は一拍置いて、思い出したように拍手をする。恵最は緒に向かって、
恵最「いいねぇ」
 恵最、口角を上げる。紅緒、少しぎこちない笑顔。
 
○同(タイムラプスのシーン)
 ソファに座って位置を変えない紅緒。その周りを転々としながら熱唱する恵最。増えていくコップ、徐々に暗くなる部屋。曲が重なり、騒音のよう。
 
○同
 恵最と紅緒が隣同士で座っている。恵最は歌い切った余韻に浸っている。恵最は、紅緒の鞄に目を付け、手に取る。紅緒の鞄は「叶内秀人」というネームタグがついていてボロい。
恵最「紅緒ちゃん、これいつから使ってるの?」
紅緒「えっと……」
恵最「買い換えなよ。もっと可愛いやつにさ」
 恵最、鞄の中からオープンキャンパスの案内を取り出して勝手に捲り始める。
紅緒「(案内を見られるのが嫌で)あの、すみません」
恵最「ん? ああ、お金がまだだったね」
紅緒「いや」
 恵最はオープンキャンパスの案内と鞄を雑に机へ置く。ウーロン茶に刺さったストローの首が揺れる。
紅緒「あっ」
 紅緒、嫌な表情。
恵最「(自慢げに)俺も昔、紅緒ちゃんみたいに苦労してたなぁ」
 恵最は財布から二万五千円を取り出し、机に置く。
 紅緒は少し(お金の多さに)驚いて、お札を手に取り、
紅緒「ありがとう、ございます」
 恵最、ネクタイを正しながら、
恵最「(遮るように)いいのいいの。親からもらってやった端金だからさ」
紅緒「……はしたがね」
 入口脇の電話が鳴り始める。
恵最「どんくらい延長する?」
 紅緒は鞄を持って徐に立ち上がり、後退りをするように出ていこうとする。
恵最「(少し焦って)ちょっと?」
紅緒「ありがとうございました」
恵最「おい」
 恵最がたちがると、その拍子に足が机に当たってウーロン茶が倒れる。
恵最「うわっ……」
 紅緒を追いかけ始める恵最。

〈了〉

*  *  *

 両親が進学の援助をしてくれないので、自力でお金を稼いで大学に行く高校生の話。アルバイトでは賄いきれず、勉強時間を圧迫してしまうので、パパ活を始めたシーンだけを切り取っています。
 「ロストストロー」というタイトルについて。カラオケボックスの中で一番輝いているものは何かと考えた結果、ドリンクに刺さっているストローだと気づきました。逆境にめげず突き進む紅緒は、失われたストロー。

毎日コメダ珈琲店に通って執筆するのが夢です。 頂いたサポートはコメダブレンドとシロノワールに使います。 よろしくお願いいたしますm(_ _)m