【毎週ショートショートnote】娘が砂場に大の字で(お題:二重人格ごっこ)
私と山口さんはよく近所の小さな公園で子供達を遊ばせる。今日も二人でベンチに座りながらその様子を見ていた。ある時、私の娘は色とりどりのタイヤの上をぽんぽん飛んだ後に、私たちの前へとことこ歩いてくると
「そうですね、もうわたしは、すなばであそぶの」
と言った。こめかみのあたりを撫でながら。私はその意図がよくわからなくて取り繕うように笑っていると
「松本さん、真似されてますよ」
と山口さんが肩を寄せて教えてくれた。私は、なるほどと心の中で手を打つ。すると娘は続けて
「はい、たいへんもうしわけございませえ。すぐにたいおうせていたきます」
と早口で言いながら、両手を右耳に当てた。
「あら渚沙ちゃん、上手ねぇ」
山口さんの言葉に娘は満足げに頷いてから、砂場の方へと駆けていく。
「お母さんのことよく見てるのねぇ。二つの演技の、こう、切り返しがキリっとしてたわよ」
「そうですね」
娘の目には私があのように映っていたのか。娘が砂場に大の字で飛び込む瞬間、彼女の体と影が離れる。
* * *
こんにちは、鯉登氷瀑です。二作目のショートショートになります。
娘が母親の二重人格(的な側面)を暴く話です。ただ、こういうのは誰でもありますよね。
こちらの素敵な企画に参加しています。
この記事が参加している募集
毎日コメダ珈琲店に通って執筆するのが夢です。 頂いたサポートはコメダブレンドとシロノワールに使います。 よろしくお願いいたしますm(_ _)m