コイタイオト〜1階の住人〜Seven Lions
♪Seven Lions-Strangers
アパートメントの1階の住人から、土曜日の午前中に、心地よい風とともに程よいボリュームでクラブミュージックが流れてくる。
オーストラリアのメルボルンに移住してから1ヶ月が経とうとしている。
僕は子供の育児休暇を取得して海外へ移住している。
なのでその日の予定がなければ、午前中は部屋で子供たちとゆっくり過ごすことがほとんどだ。
成田から台湾経由でこちらに来て、なんとか手配できたこのアパートメントでの生活も、最初は戸惑いがあったが、だんだんと慣れてきたかなと思えるようになってきている。
インスペクション
このアパートメントの一番の特徴はなんといっても敷地内にプールがあってテニスコートまであるのに、なぜか室内に洗濯機と乾燥機がないということだ。
インスペクションの際に、この贅沢なアクティビティ施設が2つもあるのに「なぜ部屋に洗濯機と乾燥機がないのか、どう考えても優先順位が逆だろう」と疑問でしかなかったが、他に住めるアパートメントを探すことができなかったし、家族を抱えて野宿するわけにもいかず、そのうえ、他にもインスペクションする人がこの後もいるよ、という言葉に不安を感じ僕はこの家に決めることにした。
結果的には快適で過ごし易い物件であったので、何も問題はなかったんだけど。
では衣類はどうなるのか。
では洗濯はどうするのか。
各階の角部屋に近いところに居住用ではないドア付きの部屋があって、そこにコインランドリー方式の洗濯機と乾燥機が置いてある。
そう、つまり毎回コインが必要となるのだ。
洗濯機と乾燥機それぞれの横にランドリーをスタートさせる機械があって、くぼみにコインをはめて力いっぱいにスライドさせる。
ガッチャンという派手な音とともにそれぞれが回転し始める。
洗濯機には1ドルコインが2枚必要で15分程度ぐるぐると僕らの衣類の汚れを落としてくれる。
乾燥機の方は1ドルコインと20セントコインを求められ、約2時間程度僕らの汚れが落ちた衣類を乾かしてくれる。
とは言っても、この洗濯機はなかなか簡易的なもので、汚れが落ちているとはまったく思えないようなシロモノである。
どちらかというと洗濯洗剤の入った水で衣類をかき回して香りづけをしているだけという方が正しい気がする。
乾燥機は高温で衣類を回していることは間違いないのだが、なぜか完全に乾くことがなく、1ドル20セントだけでは生乾き状態になって帰ってくる。(2ドル40セントかければよいのかもしれないけれども)
結局、部屋の中で干すことになるのだけれど、まあまあしょうがないか時間はたっぷりあるのだからという気持ちになって、洗濯についてあまり解決できないままでいる。
土曜日の午前 1階からクラブミュージックが流れてくる。
もちろん、先輩となる他の住人たちも同じ方式で洗濯をしている。
その手順は間違いなく、洗濯→乾燥→部屋干しだった。
僕らの洗濯は基本的に平日午前中に行うことが多いので誰かと洗濯のタイミングがぶつかることがないのだけれども、他の住人の洗濯はやはり土日の天気が良い日に集中するらしく、よく外でやあやあといった話をしているのが聞こえてくる。
中には音楽をかけるものがいるようで、窓を開けていると心地よい風とともにノリノリな曲が流れてくる。
僕は2階に住んでいるんだけれども1階のランドリールームからテンポの良い電子音と女性ボーカルの声が流れてきた。
初めて聞く曲だった。
その曲に耳を傾けていると、どこからともなく玄関から猫が入ってくる。
猫は僕らの部屋を少し物色してから、キッチンカウンターに我がもの顔でくつろぎ始めたのだ。
ドアを開けたままにしていると、いろんなことが起きる。
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