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詩 『糸/音』

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音にすると 少し離れる。 たけど繋がっている。
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2021年5月の記事一覧

詩「紅」

            こい瀬 伊音

あなたのかげにおおわれる二十分は
夜空から姿を消すね

あなたは気づかないでしょう
あつい
雲にかくれ
わたしが色を変えていること

すぐにもどる
きっとすぐに
ほんとうに?
あんなに紅くなっているのに

……
2021.05.26
スーパームーン
皆既月食
赤銅色の月は

詩「栞」

詩「栞」

本に
大事そうに抱かれている平織りの紐は
栞またの名をスピンという
紡いだ糸、のこと

そしてスピンは「回転する」
どこか人生っぽくもある

この人生をスピンしている途中
読みかけの本に栞を挟み
遠心力で遠くふくらんだスピンオフ作品をたのしむ
レコードはまわり
走馬灯もまた

その紐はなめたらしょっぱかろうな

くどくどと長い人生のはなしにスピンを挟み
新しい曲をスピンして
平織りの紐はたいせつな

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詩「sacrifice ささげもの」

詩「sacrifice ささげもの」

    
             こい瀬 伊音

音楽の父よ
食む草を焼き払われ
わたしたちは
生け贄にされるところです

彼は知らないのでしょう
たったひとりひっそりとあの白い袋に込められ
尊厳なく屠られる人間の最期を

人身御供をほしいという鬼はかつて
乙女ばかりを求めました

金貨で目がくらんだひとは
希望がみえるといいます

オリンピアンは
希望を見せると

わたしはまやかしを欲しません

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詩「率直とバームクーヘン」

詩「率直とバームクーヘン」

            こい瀬 伊音

水平に凪ぎ払い
美しい年輪を眺めて

垂直に刃を突き立て
完璧な断層を求める

直角に刺し入れ縦に裂けば
めずらかな標本となる
右と左の交差を断って
鼻梁を尾根として

さあ
フィルムで包んだものからショーケースへ

お客様、おすすめは左側
そう、心臓の傾くほうです

2021.05.17

詩「踏切線」

詩「踏切線」

            こい瀬 伊音

慣性の法則に
負けないブレーキをお持ちください

ふたつの放送が
防災無線から流れる

あのひとの背中は汗でつめたく
わたしはこもった熱を放つ

どんなに
くりかえしても
惰性では墜落
くりかえします
惰性では墜落

ただ坂の途中で先が見えないだけ
まっすぐにまっすぐに
飛びこみたくなる


おとしものは
ライダーの首です
ピアノ線にかかった模様です

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