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転売屋はなぜ悪なのか

雑誌『ホビージャパン』を手掛けるホビージャパン社は、2021年7月26日、Twitterアカウントでプラモデルなどの買い占めや転売を容認する発言を行った編集者1人を退職処分にしました。その上司にあたる常務取締役など3人も降格となり、世の中に衝撃を与えています。

そのツイート内容はこんな感じでした。
「転売を憎んでいる人たちは、買えなかった欲しいキット(商品)が高く売られているのが面白くないだけだよね」「頑張って買った人からマージン払って買うのって、普通なのでは」。

ホビージャパン社は、炎上を受けて「ホビーに対する思いを裏切る事態になった」と謝罪し、同社は転売や買い占め行為を容認しないと明言。そして、上記の処分をすることとなりました。

個人として発信していたツイート一発で退職処分、更にはぜんぜん感知していなかった上司3人も降格処分、というのはやり過ぎだろ、過剰反応だろというのは、その通りではあるかもしれません。

が、業界としては―とりわけホビー(プラモ・模型)屋さんを中軸とし、その周辺を盛り上げる役割を果たしている雑誌屋さんとしては、業界に甚大なダメージを与えている転売屋に対しての認識を示すうえでは、非常に厳しい処罰とならざるを得ないというのもまた、事実でもあるのです。

そのあたり、解説しておきたいと思います。

転売自体が問題なのではない。問題は「結託買い占め行為」である

実際のところ、転売は違法ではありませんし、安く仕入れ高く売る資本主義の基本形態でもあります。商社だって小売店だって、安く仕入れて高く売っている業態です。ただし、本来的には卸や小売は、販売する場所と時間を転移することによって(顧客にとって都合の良い場所・時間に販売する、そのために物流や貯蔵の手配をする)価値を付加しているわけで、単に安値で買って高く打っているだけの転売屋とはわけが違うということはお伝えしておきつつ。繰り返しますが、転売行為自体は違法でもなく、商売のひとつのかたちでありますからここは争点にはなりません。

争点になるのは、業者で結託して買占めを行い、品薄状態を作り価格を吊り上げるという行為です。株式市場であれば株価操作でアウトですし、大手企業が実施したらカルテルか談合です。

転売屋、という呼称で誤解されているんですが、正しく言うなら「結託買占め屋」なんです。

現状、それを取り締まる法律が存在しない以上は、それも資本主義のひとつの表象でしょ、と認めてしまうなら、私にはこれ以上の反論はありません。

しかし、実際のところこの結託買い占め行為は財の円滑な需給一致を妨げ、産業を破壊する結果をもたらします。
●本来であれば世に普及して、新たな市場を創るはずだった品が、十分に行き渡らず、産業が育たなくなる。
●子どもやご新規さんに開かれているべき市場なのに、数万円であっても買うような、転売屋からでも買いたいようなマニアしか手が出せなくなる。
●メーカーも真の需要が読めなくなり、生産や投資の意思決定ができなくなる。
●小売店では欠品が続き、消費者の不平不満となり、店舗の競争力減退につながる。

プラモ業界は、「結託買い占め屋」が狙いを定めるには丁度よいサイズ感なのです。ホビーなので出荷量は限定的、価格もさほど高くないので、連携すれば出荷量のほぼ総量を買い占めることができてしまう。あとは、抜け駆けして安売りするプレーヤーが出ないように買い占め屋同士で相互監視して、高値で販売すればよいのです。

供給量をコントロールして高値吊り上げなんて、完全にカルテルです。

かくしてプラモ・模型業界からすると業界を破壊しかねない悪影響を及ぼしているのが転売屋―違った、結託買い占め屋であり、そうした業界構造のもとで産業の普及拡大を担っている雑誌社としてはこの件は厳しく対応せざるを得なかったのだと見ることができます。

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