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キリマンジャロを描いた話(1)

image view: Kilimanjaro National Park_ Tanzania, United Republic of_ キリマンジャロ国立公園_ タンザニア連合共和国 2013年9月の日記より。


時間を作れそうな岡本さんを誘って、松田はキリマンジャロに行くことに決めた。人生の中でこんなに疲れることってあるのだろうか、全てを終えた時にそう感じる経験となった。


キリマンジャロ。標高 5,895m。アフリカ大陸の最高峰であり、山脈に属さない独立峰としては世界一の高さだという。山登りのツアー料金だけでだいたい20万円くらい。航空券と宿泊を合わせて50万くらいで行ける。

2013年9月7日

松田はインドから、岡本さんは成田から、イスタンブルで合流。キリマンジャロまでのターキッシュエアラインで直行便が出ている。タンザニアに行くのは初めてだったので、緊張した。

松田は、飛行機の中で岡本さんと僕は明日からの壮絶な山登りを想像して興奮していた。興奮覚めやらず、飛行機の中でうとうとしながら

「素晴らしいんだ人生は」

というオリジナルソングを頭の中でループしていた。なんだこの歌は。

松田はよく「人生は面白い」ということを発言する。このセリフは本心ではあったが、なんとなくつまらない毎日を紛らわそうとして言っているようにも聞こえた。


松田と岡本さんは、大学時代の友達の友達で、今は独身友達の腐れ縁の友達であるとお互いに言い合っている。この歳で独身で余っている気の知れた男友達はまれなので、気ままな世界遺産旅には、ちょいちょい岡本さんが登場する。

岡本さんは四国の出身で、おかん的な存在だ。

「マラリアの対策はすんだ?」

「高山病の薬持ってきたから飲み」

「虫除けはぬった?」

「マラロンをのんだら、アルコールはだめやで!」

マラロンと言うのは、マラリア対策の薬だ。松田はお酒が大好物なので、そのことを特に心配しているのだろう。岡本さんはお酒をあまり飲まない。コーラが大好物だ。

しかし、心配性の岡本さんは肝心の蚊取り線香を日本に忘れてきたのだという。マラリア対策には必須のアイテムなのに。


いつのころからか、キリマンジャロに登ることは、松田の夢になっていた。

理由は2つあった。

(1)キリマンジャロの壮大な景色を前にして絵を描きたかった。

(2)「どんなことでもできる」という感覚を味わいたかった。

ヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソンが、キリマンジャロに登りきった時にそう感じたという。

岡本さんはどういう気持ちでキリマンジャロに登ったのだろう。


午前3時ころにキリマンジャロ空港に到着した。あまりにも早朝の到着だったので、予定のモシタウンのホテルではなく、空港の近くのホテルに宿泊することになった。

岡本さんは蚊取り線香を忘れたが、線香の受け皿は持ってきていた。それを灰皿にしてタバコを吸った。

「タバコの煙が蚊取り線香の変わりになるやろ」

忘れただけやのにポジティブやな。松田はそう思った。

このホテルの周囲には存在していないであろうマラリアを持った蚊に怯えながら、蚊帳をしっかりとセットして3時間ほどの仮眠をとることにした。